山の神について『長野県史民俗編』総説Ⅰの「民間信仰」の節に「山の神の祭り」と題して触れられている。まず祭日である。
祭日は必ずしも一定ではないが毎月一七日とする所が多い。このほか北信の秋山や市川谷から下高井地方、上高井地方、小県地方にかけて十二日を祭日とする所があり、北信の善光寺平、川中島平を中心とする地域では九日としている。上伊那地方、下伊那地方及び木曽地方の一部では十日とし、下伊那地方、木曽地方の大部分は七日としている。木曽地方では十日と七日とが並行しているのである。それは二月七日と十月十日と春・秋に二度まつるとする所である。祭日を年一回として一月あるいは二月にまつるとしている所も多い。
この解説には「山の神-祭日-」という地図が添付されており、県内の祭日分布が示されている。凡例には7、9、10、12、17という各日別の記号で図示されており、「日」にこだわったまとめ方となっている。県中央部を中心に「17日」が最も多く図示されていて、北部は9日と12日、南部は7日と10日が目立つ。明確に地域分布がわかる図ではあるが、あくまでも「日」に焦点を当てたものである。あらためてここに県史の調査資料から山の神の祭日を図化してみた。今回の図を作成するにあたり、回答されている月日別に一覧化した上で、事例数の多いもの(目安として10例以上)を図に落としてみた。ただし、複数の日数を回答している地点も多く、とくに目立つのが1月17日を祭日として挙げながら、「毎月17日」と回答している事例である。424地点のうち18地点においてこの回答をしており、それらが県史の地図でいう「17日」地点であることに違いはない。今回の図では「1月17日」と「毎月17日」と回答しているものは優先的に「1月17日」の凡例に含めた。したがって「月の17日」の凡例に該当するものは、単独回答のものということになる。回答された祭日は多様で、毎月10日、毎月12日、毎月16日、毎月17日、正月、1/7、1/8、1/9、1/10、1/11、1/12、1/14、1/16、1/17、1/18、1/19、2月初旬、2/5、2/7、2/9、2/12、初午、2/17、3/9、3/10、3/12、3/15、3/17、4/7、4/12、4/15、4/17、4/22、4/24、4/27、八十八夜、5/7、5/17、5/8、6/17、6/24、7/27,28、8/16、8/17、8/27、8/28、9/9、9/15、9/16、9/17、9/24、秋分の日、10/1、10/7、10/9、10/10、10/12,13、10/17、10/18、11/7、11/10、11/17、11/23、12/1、12/3、12/7、12/8、12/9、12/10、12/12、12/17と実に71回答にのぼる。このうち複数回答についてはそれぞれの日に割り当てているが、2月7日に関してはすべて複数回答にあたるため、今回凡例として2月7日と10月7日、2月7日と10月10日の凡例に振り分けた。したがって凡例は1/17、2/12、10/7、10/10、10/17、2/7と10/7、2/7と10/10の7例に毎月17日を加えた8例とした。ちなみに最も回答数の多かったのは、1月17日の93例である。そして凡例にあげたものは10回答以上のもので、前述したように2月7日とセットに10月7日と10月10日にあらためて割り振ったため、記号として表示されているものは10回答以下になっているものもある。
まず1枚目の図てある。山の神の祭日を単純に表したもので、少し見づらいが昭和の市町村割りを示してみた。ほぼ奥信濃のみに2月12日が分布し、1月17日と月の17日という事例が北は信州新町から箕輪町と高遠町あたりまでに広範に分布し、東西の地域性は表れていない。10月17日という事例は北安曇を中心にしており、開田から伊那市といったラインから南に10月10日、ようはトオカンヤを祭日とした地域が分布する。そして木曽南部と飯田市より南に10月7日地域があるということになる。実は空白地帯もはっきりしており、長野市と西山地帯、上伊那南部から飯田市までの地域はほぼ記号が落ちていない。もちろん前述したように回答数が10例を越える地点だけ示しているため、祭日がないというわけではないが、地域性を示せるほど傾向のない地域と言えるのだろう。
トオカンヤについてはこれまでにも「かつての祭りを振り返り③(平成4年11月4日)」にリンク付けした記事で何度となく触れている。それらに示した地図で上伊那地域にトオカンヤに「山の神をまつる」という事例が目立つことについて触れた。この日「山の神をまつる」というのは県内でもほぼ上伊那だけである(木曽に1例あり)。その際に利用したトオカンヤの行事に関するデータを今回の図に載せてみたのが2枚目の図である。市町村枠は邪魔なので消して示したが、行事の中でも事例数の少ないものは省いた。今回の図と同じような傾向がトオカンヤの行事にも地域性として表れていることがわかるだろう。トオカンヤの行事がない地域が10月7日祭日地帯と重なる。やはりトオカンヤと山の神信仰はなんらかの関係性があるのでは、と想像する。
続く
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