今日の夏代さん(仮名)のプライベートレッスンは、希望により整体となりました。
身体が固まると心も固まるので、彼女は体を触られながら心にたまったものも吐き出します。
今年80歳になる夏代さんは、自動車を運転せず、自転車で動き回ります。愛車を走らせ、もう10年以上私のピラティスに通ってくれています。耳が遠いことを笑いのネタにして、夏代さんが来ると笑いがこぼれます。
そんな彼女が話し始めました。
「もう10年ほど前に、物忘れ外来に連れていかれて細かい検査をしたんだけど、ラクダ梗塞っていうのがあるって。先生はあまりそのことは気にしていないようだったんだけど、どうも私は気になっていて・・・。」
ん?ラクダ?
私の頭の中に浮かび上がります。砂漠を歩くラクダの姿が。
いえいえ、✖ラクダ梗塞 ◎ラクナ梗塞 でした。 初めてその単語を聞く私、あとでグーグル先生に教わりました。
とても簡単に言うと、、、心臓などで出来た小さな血の塊が、脳みその奥の細い血管につまり、そこから先の血流が悪くなり小さな穴が開くように脳が死んでしまう状態で、脳梗塞の症状が出ることもあるが、小さいがゆえに症状が出ないことも多い。もっと大きな卒中を起こさないように注意が必要、、、、、なのだそうです。
そして、夏代さんの話に戻ると・・・、
「そして、サバの油を処方されて飲んでいるんだけど、あの検査をね、ほら、100から7を引いていくやつとか、はさみとかの道具を見せられてあとで聞かれるやつとか、あれをやるんだけど、そんなの毎度やっていたら出来るようになっちゃうのよ。そんなんじゃなくって、私が気にしてるのは、自転車のカギをどこに置いたのかとか、あら私ったらこの部屋に何しに来たのかしら?っていうことなのよ。
でもね、必ず言うのよ。ピラティスはやっていますか?って。ピラティスと、歩くことと、食生活、この3つは毎回言われるの。」
お年寄りが身近にいる方は、必ず聞くこの会話ですが、私が気を留めたのは10年前から物忘れ外来に通っていたということです。私の肌感覚では夏代さんは、10年前と耳の遠さ以外はそれほどの衰えを感じていないからです。
そういえば、旦那様に物忘れ外来に渋々連れていかれた話を随分前に聞いたことがありました。でも、そんなことはすっかり忘れてしまうくらい前のこと。そして、数か月に1度する認知症検査より、日ごろ付き合う人間の肌感覚の方が認知症の進み具合はわかりやすいものです。
この10年、自転車を3回転倒させています。その度に打ち身を作りますが、骨折はありませんでした。お墓参りで風にあおられ転び、耳に切り傷を作ったこともありましたが、大事には至らずに終わりました。
我が母のことを引き合いに出すと、10年前は夏代さんのダメっぷりを笑い飛ばすくらいシャッキリしていたのですが、1度の転倒で圧迫骨折をしてからというもの、みるみる認知機能が衰えてしまったので、夏代さんの10年間を改めて振り返るに至ったわけです。
ラクナ梗塞は、認知症状も引き起こすそうなので、出来る限り進行を遅らせることが大切です。そこで出てくる先生の3つ約束、ピラティス、散歩、良い食生活なのですが、夏代さんは、自分ではなかなかうまくできなくて・・・、とぼやいてはいますが、私から見るととても上手に3つと付き合っていると感じます。
ピラティスは、特に私のレッスンは軽度な運動に入ります。筋繊維を太らせることには主眼を置いていません。もっと、身体の各部位と脳みそのつながりを増やすことが大切だと思っています。気持ちよく体を動かすことは、脳へも良い刺激となります。体を使うためには脳の指令が必要ですが、気持ちよく身体を使った刺激は脳を活性化させます。
だから、コロナで自粛中だとしても、少し身体を使っておくと脳みその中、すなわち精神状態も安定します。
夏代さんのレッスンの受け方も上手です。グループレッスンには、若い人も来るのでエクササイズの中には少しハードなものも織り交ぜますが、そんな時は無理せずに簡単な体操に取り組んでくれています。(がむしゃらに頑張るよりも、身体の声を聞いて体操をするように!との声かけが、夏代さんに届くまでには数年かかりましたが)
ピラティスの効果の一つには「怪我の予防」というものがあります。アスリートが肉離れを起こす前に体幹を鍛えておくばかりでなく、すべての人に役に立っているのだと、今回の話を聞いて感じました。予防は、起こるはずのことを未然に防ぐことなので、現象としてはわかりにくいのですが、夏代さんと母を比べるとその効果を感じざるを得ません。
自分のやってきたことに、静かな結果が出た気がしてうれしいです。
超高齢化社会を目の前に、改めて認知症との付き合い方を考えた出来事でした。
先日のグループレッスンで、たまたま参加者がおひとりになった時がありました。
よもやま話の末、「足の小指が動かないんですー。」という話になりました。
60代の彼女、何かの折に整形外科に行ったら亜脱臼と診断を受けたとのこと。
見せてもらうと、俗にいう内反小指の状態になっていました。(←もっとわかりやすく言うと外反母趾の小指版で、小指が内側に倒れてしまうこと)確かにこれは動かしにくそうです。
過去に自分の足の小指も動かなかった経験を持つ私は、「じゃあ、今日は幸いに個人レッスンですし、小指に特化したレッスンにしましょうね。」ということで、1時間。
大したことはしません。小指周りをモミモミして、そこからつながる筋肉ラインを感じつつストレッチ、そして立って体重のかかり方を確認するところまでです。場所とやり方はお伝えしましたが、やっていただくのはご本人です。レッスンですもの・・・。
たった1時間のレッスンで完全攻略、とまではいきませんが、小指の付け根の骨のでっぱりは緩和し、皮膚が余ります。体重の乗せ方も、固まった足の状態では確認できないことも、感じやすくなります。
ということで、小指の話から姿勢の話まで発展しました。そして、2週間後2回目のレッスンで、かすかに動くようになりました。そう遠くない将来、動きだすことでしょう。
こんな風に、通り一遍等のレッスンにならないことも多いのが私のレッスンです。
誰にでも合うお洋服は、誰にも似合わない、ということなのだと思っています。体も心も人それぞれ、グループレッスンでもそれぞれに必要なことが違うので、アドバイスはひとり一人違います。
皆さん ご利用下さいませー!