二十代の半ば頃だったろうか。
祖母が、「そろそろ結婚したら」というので、ある日の夕方、遠い親戚の女性を家に連れて来た。
非のうち所の無い、実に整った顔立ちの、まことに綺麗な女性だった。
「これからよろしくお願いします」
か細い声だが、はっきりとした口調で女性が言った。
しかし、当の私はまったく結婚なんぞする気がない。
「結婚はまだ早いので」と、女性との話もそこそこに自分の部屋に閉じこもった。
8時頃に、風呂に入ろうと風呂場に行った。
裸になって、ドアを開ける。
すると、あの女性が湯船につかっていた。
「アッ!」という微かな声が漏れた。
私は慌ててバスタオルを腰に巻いた。
そして、声も出ずに、ドアも閉めずに、一目散に自分の部屋へ逃げ戻った。
二、三分もしないうちに、ドタドタと足音がした。
バァーンと私の部屋のドアが開いた。
あの女性が立っていた。
それも、胸にバスタオルを巻いただけの姿だ。
こんな時、男の視線は顔よりも脚に向く。
『プレーボーイ』や『週間平凡』のグラビアでも見たことのない綺麗な脚だ。
その女の脚が静かに私の方へ向かって来る。
そして、二人の足の指が触れるような距離で止まる。
女の手が私の肩にからまってくる。
長いまつ毛の女の瞳の中に、男の顔が映っている
風呂上がりの薄紅の唇から切ない声が漏れる。
「私のすべてを見たでしょ。結婚してください」
そこで、目が覚めた。
ああ、夢だったのか。
トイレに行って、再びベッドに入る。
あの夢の続きを何とかして視たいものだ。
必死に眠ろうとする。
しかし、眠れない。
結局、朝までうとうとのままで……終わった。
次の日の夜、昨日の夢の続きを絶対に視るぞとベッドに入った。
だが、寝不足のせいで朝まで熟睡した。
明日こそは……!
なんともわくわくする夢の話である。