フリードマンとシカゴボーイズ(教え子たち)は、「市場原理主義によって、国の上位にいる富裕層や大企業が大きな利益を得れば、その恩恵がシャンパンタワーのように滴り、下位の国民も豊かにする。」というトリクルダウンの経済理論を信じていた。
鄧小平の先富論『先に豊かになれる地域と人から豊かになろう』、アベノミクスの『三本の矢』によるトリクルダウンの実現(ブレーンの竹中平蔵氏はフリードマンの信奉者)も、トリクルダウンの経済理論が根底にある。
ピケティは、『21世紀の資本』(2013年)で英独仏米の過去200年の税務統計を分析し、所得と資産の不平等度を示す歴史統計を作り、1980年代以降(新自由主義経済体制)の格差拡大を実証した。ピケティによって、統計的にトリクルダウンが否定された。
『資本主義の富の不平等は放置しておいても解決できず格差は広がる。格差の解消のためには政府(政治)の干渉を必要とする』と主張する。
『r>g』r=資本収益率 g=経済成長率
現代の資本主義(新自由主義経済体制)では、「資本収益率は経済成長率より高い」よって、『裕福な人はより裕福になり、労働でしか富を得られない人は相対的にいつまでも裕福になれない。格差は広がり続ける。』と喝破した。
『ドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ合衆国大統領に選ばれた理由は、さまざまな角度から考察することができますが、恐らく最も分かりやすい理由は、過去数十年間に及ぶ新自由主義政策の失敗――すなわち、規制緩和と緊縮財政――でしょう。結果として、これらの政策の推進者に富が集中してしまったからです。富が少数派の手に集中していることを示す統計情報は、広く出回っています。例えば、「上位8人の億万長者が、世界人口の下位半分と同額の資産を持っている」という事実は有名です。端的に言って、新自由主義的経済政策庇護下のグローバル化礼賛は、勝ち組と負け組が存在するという事実を隠蔽(いんぺい)したのです。負け組が、その不満を代弁してくれる指導者を見いだすのは、時間の問題でした。』引用元読売新聞オンライン:ティモシー・スール (Timothy Seul)早稲田大学教授執筆より
世界中で広がる、新自由主義がもたらした格差拡大は、自己責任論の一方、『今だけ、金だけ、自分だけ』の近視眼的、拝金主義の、個人・企業を生み出した。
この価値観、生き方は1990年代後半のIT(情報技術)・インターネットの拡大・普及でさらにドライブがかかった。
トランプ現象や英国のBrexit、習近平の鄧小平批判は、止めどない格差の拡大を生み出した、新自由主義が曲がり角にきているという大きな変化だろう。
代71〜73代 内閣総理大臣(1982〜1987)
三公社(専売公社、電電公社、国鉄)の民営化、日本航空の完全民営化を実施。フリードマンは、1982〜1986年まで日本銀行の顧問に就任している
小泉純一郎氏(1942〜)
竹中平蔵氏(1951〜)
第87〜89代 内閣総理大臣(2001〜2006)
郵政事業、道路四公団の民営化
労働者派遣法の規制緩和により、派遣労働者が増加
竹中平蔵氏(1951〜)
経済財政政策担当大臣、金融担当大臣(2001〜2006)
フリードマンの信奉者で、「規制緩和」「民営化」「社会保障の削減」を小泉内閣で提言。『不良債権は1.5倍に増え失業率も急騰するがその後に成長できる』『若者には貧しくなる自由がある』『正社員をなくせばいい』など新自由主義の思想を分かりやすく説明している。
彼自身は大臣当時、住民税脱税、国民年金未納、ミサワホーム売却問題、マクドナルド未公開株問題などが批判された。
「2018年 国民生活基礎調査」厚生労働省によると、日本の相対的貧困率は、15.7%で6人に1人が貧困状態にあり、約2,000万人が貧困ライン以下の生活をおくっている。
非正規雇用者が増加し、2019年には38.3%に達した。
日本の格差は、諸外国のように莫大な富を持つ、少数の所得上位層が増えたのではなく、本来普通の暮らしができる人たちが低所得者層に落ち込んだことから生じている。
第90代、96〜98代内閣総理大臣(2006年9月〜2007年9月、2012年12月〜2020年9月)
安倍晋三は、中曽根政権以来の格差拡大、貧困問題を意識し、新自由主義政策に子育て、教育、賃上げなどのケインジアン政策もミックスさせた『アベノミクス』と、中国、北朝鮮の脅威を強調し、『集団的自衛権閣議決定』2014年7月、防衛費の増額、『改正個人情報保護法』2020年6月、『デジタル改革関連法』2021年5月(菅内閣)を実施した。
第100代 岸田文雄内閣総理大臣は、『この30年間、企業収益が伸びても、期待されたほど賃金は伸びず、想定されたトリクルダウンは起きなかった』と1980年代からの新自由主義経済政策を評価したが、自民党内の批判の火消しに追われた。
スピードや心地よいキャッチフレーズが何より重視される現代社会ではじっくりと、深い議論を展開する事は、困難でダサい事かもしれない。
しかし、いつの間にか、為政者とメディアによって、政治的、経済的あるいは軍事的 ”ショック・ドクトリン” を仕掛けられ、気がついた時には後戻りできない場所にいる事がないよう、物事を俯瞰して眺め、想像し創造する、AIに頼らない『人類の知恵』が必要だろう。