古今東西のアートのお話をしよう

日本美術・西洋美術・映画・文学などについて書いています。

江戸絵画の華【第2部】京都画壇と江戸琳派” 出光美術館 

2023-02-28 17:37:23 | 絵画(レビュー感想)


第2部 京都画壇と江戸琳派の構成は、

1 清遠な自然へ―円山応挙とその周辺

2 京中、皆一手―円山派の画家たち

3 粋の系譜―酒井抱一と鈴木其一、さらにその先へ

円山応挙に対して感度が鈍い私は、「画を望まば我に乞うべし、絵図を求めんとならば円山応挙よかるべし
」という曾我蕭白の“応挙”評価(多分に妬心からであろうが…)絵図とは説明書のことで、応挙の画は図鑑だと貶している



円山応挙 虎図 天明5年(1785)


プライス・コレクションだった虎図は、猫をモデルにしているため、絵図にならず、なんとも愛らしい虎だ

“円山派の画家たち”では、画像はないが山口素絢の「美人狗児図」が良かったかな

今回の目玉は何と言っても、“3 粋の系譜―酒井抱一と鈴木其一、さらにその先へ” だろう

酒井抱一の「十二か月花鳥図」「四季草花図・三十六歌仙図色紙貼交屏風」、鈴木守一「扇面流し図屏風」、酒井道一「秋草に鶉図」、鈴木其一「蘆に蛇図」など初めて見る作品が多かった


鈴木守一(1823〜1889)
扇面流し図屏風 江戸〜明治時代

鈴木守一は鈴木其一の子供

実際の作品は、群青が落ち着いており、扇面には右から左に四季の草花が描かれている



酒井抱一 四季草花図・三十六歌仙図色紙貼交屏風(部分) 六曲一双
江戸時代

とにかく、保存状態がよく、金地の輝きと三十六歌仙の古典風絹本色紙の対比、四意匠化された四季草花色紙のリアルさとの対比も見事
江戸時代の金屏風とは思えない作品


酒井抱一 十二か月花鳥図 
江戸時代

画像はないが、鈴木其一に師事した、酒井道一の「秋草に鶉図」、鈴木其一の「蘆に蛇図」など初見の優品が楽しめた

★★★★☆

琳派好きにお勧めします



開幕!! 春の美術展

2023-02-24 14:50:31 | 絵画(レビュー感想)
美術館、展示枯れの2月から、
いよいよ春の始動が…

直近の鑑賞リストを作ってみた
 
1.“江戸絵画の華【第2部】京都画壇と江戸琳派”
出光美術館 2/21〜3/26

2.“ダムタイプ2022:remap”
アーティゾン美術館 2/25〜5/14

3.“ルーブル美術館展”
国立新美術館 3/1〜6/21

4.“東福寺展” 
東京国立博物館  3/7〜5/7




【1部】は、若冲の世界的コレクション:プライスコレクションの一部が出光美術館に譲渡された記念展。残念ながら予約が間に合わなく未見となりました。【2部】は早めに予約しました。



開催内容は、HPより、
『第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(主催:国際交流基金)の日本館展示に選出されたのは、日本のアート・コレクティブの先駆け的な存在であるダムタイプ。1984年の結成時から一貫して、身体とテクノロジーの関係を独自な方法で舞台作品やインスタレーションに織り込んできた彼女/彼らは、坂本龍一を新たなメンバーに迎え、ヴェネチアで新作《2022》を発表しました。「ポスト・トゥルース*」時代におけるコミュニケーションの方法や世界を知覚する方法について思考を促す本作を、帰国展として再構成してご紹介します。』
※ポスト・トゥルースとは、2016年(第58回米国大統領選挙)を皮切りに膾炙した、「客観的な真実」よりも「主観的あるいは叙情的な意見」が集団的な影響力をもちやすくなった現代の状況を指す言葉。

坂本龍一の参加、「ポスト・トゥルース」という語彙で足を運びます。



こちらも、初日の様子を観てきますʘ⁠‿⁠ʘ






小説 夏物語 川上未映子

2023-02-23 01:20:09 | 本(レビュー感想)


2019年7月 発刊

あらすじは、文庫版ブックカバー
より

『大阪の下町で生まれ小説家を目指 し上京した夏子。 38歳の頃、 自分 の子どもに会いたいと思い始め る。子どもを産むこと、 持つこと への周囲の様々な声。 そんな中、 精子提供で生まれ、 本当の父を探 す逢沢と出会い心を寄せていく。 生命の意味をめぐる真摯な問いを 切ない詩情と泣き笑いの筆致で描 く、全世界が認める至高の物語。』

「ヘブン」2009年「すべて真夜中の恋人たち」2011年「夏物語」2019年と話題作を読んでみた。

川上未映子の小説は、詩人が書く小説のイメージだったが、「夏物語」はそのイメージを大きく裏切り、関西弁を入れた文体は、谷崎潤一郎の「細雪」下巻を思わせ、先に先に進ませるリズムがあり、ラディカルなテーマにも関わらず、読むことに快感を覚えた。

男と女、親と子、人間の生殖に切り込む物語は、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」にも通じる。

舞台は、第一部(2008年夏)と第二部(2016年夏〜2019夏)で構成される。
第一部は、作者の芥川賞作品「乳と卵」を下敷きにして、大阪の下町で姉巻子とその娘緑子を中心に妹夏子が絡み、第二部は小説家を目指して上京し、小説を一冊発刊した30代半ばになった夏子の物語。

38歳になった夏子は、子どもを持つことにとり憑かれる。
しかし、夏子は長くセカンドバージンであり、セックスには昔から嫌悪感を持っていた。
精子提供で子どもを産む(AID)という方法に行きついた。

AIDへの興味から、精子提供で生まれた逢沢と出会い、デートするようになる。


逢沢と一緒に見た「ナビ派」の展覧会で、二人が一番気に入った作品がヴァロットンの「ボール」だった。

フェリックス・ヴァロットン
“ボール” 1899年 

明るい広場にボールで遊ぶ少女、奥の暗い森では男女が何やら話している…


逢沢と同じく、精子提供で生まれた女性が、夏子に語る。

『子どもを生む人はさ、みんなほんとに自分のことしか考えないの。 生まれてく る子どものことを考えないの。子どものことを考えて、子どもを生んだ親なんて、この世界にひとりもいないんだよ。ねえ、すごいことだと思わない? それで、たいていの 親は、自分の子どもにだけは苦しい思いをさせないように、どんな不幸からも逃れられ るように願うわけでしょう。でも、自分の子どもがぜったいに苦しまずにすむ唯一の方法 っていうのは、その子を存在させないことなんじゃないの。』
衝撃的文章です…


★★★★★

大げさではなく、傑作です
しかも、歴史的









A2Zについて

2023-02-17 11:19:37 | 本(レビュー感想)

山田詠美と川上未映子。



山田詠美の「A2Z」と川上未映子の「すべて真夜中の恋人たち」を続けて読んだ。どちらも小説に関わる主人公だ。編集者と校閲者。川上未映子の作品はあるいは、「A2Z」から何らかのインスパイアを受けたのかもしれない。“冬子”という名前、“交通事故”、“春分・秋分”と“夏至・冬至”など類似点がいくつもある…



2つの小説は資質の違いを表している。山田詠美は文章家でストーリーテラーだ。川上未映子は詩人で読み手の想像力を喚起させる。

日本の巨匠なら、三島由紀夫と川端康成にたとえられる。



三島由紀夫の代表作「金閣寺」の冒頭は『幼時から父は、私によく、金閣のことを語った。』

「雪国」は、『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。』

文章家と詩人の資質の違いをしめしている。



山田詠美の「A2Z」の冒頭はこうである。『たった二十六文字で、関係のすべてを描ける言語がある。』題名の「A2Z」すなわちアルファベットの説明だ。

「すべて真夜中の恋人たち」は『真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。』詩の冒頭から始まっている。



高山真の「エゴイスト」は、恋愛のエゴイズムが一つのテーマだが、山田詠美は「A2Z」で次のように書いている。


『恋愛が いかに身勝手な自分を正当化しながら進行するものかを知らないようだったから。相手を思 うふりして、皆、自分の都合で動いてる。本当に相手の都合を第一に考えられるようになった時、その恋は、いつのまにか形を変えていたりする。 退化する。あるいは、進化する。』

山田詠美の文章家ぶりがよくわかる。



さて、「A2Z」ですが、2001年に読売文学賞を受賞しているそうですが、知りませんでした。

ミーハーな私は、深田恭子主演でドラマ化されるという情報で手に取ったわけです。



ドラマは観ませんが、小説は大変面白かった。AからZすなわち26話に区切られて進行する物語には、1話ずつ、“a”なら“accident”という英単語が仕込まれています。オシャレですね。

物語は“相関図”を見ていただければわかる通り、編集者夫婦にそれぞれ恋人がいるという設定です。


本作より、山田詠美の文章家ぶりを少しご堪能ください…

『恋愛小説の主人公は、いつだってその気だ。照れることを知らない。私たちは照れる。けれど、そうしながらも、主人公の役を降りない。』


・ある人妻のブログみたいです


『恋が上手く行って いる時には仕事も上手く行く。けれど、仕事を上手く行かせようとすると、なかなか恋は上 手く行かなくなる。そんな時、男はいいなって、ちょっぴり思う。あの人の仕事ぶりに惚れ ましたなんて、平気で女の子に言われてる。 彼女の仕事ぶりに惚れました、なんて恋を仕 掛けてくれるなんて、ほとんどいない。仕事に対する厳しさを垣間見せると、少なからぬ 男たちが後ずさりしてしまうのだ。』


・恋愛と仕事、あるあるですね


『「男に手入れされている自分の体が、私は好きなのよ」
今日子は、風呂上がりの脚にローションを塗る私を見て言った。ふん、悪かったね。でも、私は、 男のために自分で手入れした体も好きなのだ。当てのない自分磨きなんてものは、 女性向け雑誌で微笑んでいるいい女とやらにまかせておけば良い。私は、好きな手で触 れられることを思うのが好きだ。』


・いさましい!


『世の中、恋愛だけではないだろうという意見は正しい。 しかし、恋愛抜きで良いというものでもないだろう。どんな高価な化粧品より、男の体は時に有効。一万円の美容液より、好きな男に吹きかけられる息の方が、保護の才能に絞り ることもある。』


・科学的にも正しそうです



★★★★☆


「すべて真夜中の恋人たち」と一緒に読まれる事をお勧めします



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映画 エゴイスト

2023-02-16 17:38:34 | 映画(レビュー感想)


ストーリーは(映画公式ページより)


『14 歳で⺟を失い、⽥舎町でゲイである⾃分を隠して鬱屈とした思春期を過ごした浩輔。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、仕事が終われば気の置けない友人たちと気ままな時間を過ごしている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである⺟を⽀えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太。

自分を守る鎧のようにハイブランドの服に身を包み、気ままながらもどこか虚勢を張って生きている浩輔と、最初は戸惑いながらも浩輔から差し伸べられた救いの手をとった、自分の美しさに無頓着で健気な龍太。惹かれ合った2人は、時に龍太の⺟も交えながら満ち⾜りた時間を重ねていく。亡き⺟への想いを抱えた浩輔にとって、⺟に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし彼らの前に突然、思いもよらない運命が押し寄せる――。』


ほぼ原作通りの映画

ベッドシーンや龍太の“売り”のシーン、度々の3丁目飲み会などはサービス映像なんだろう

男性二人の演技は自然な感じで、違和感は感じられない

原作も“同性愛者の哀しみ”はそれほどの比重を占めていなかったが、少年期特有の容赦ない軽蔑はもう少し描かれてもよかったかな…

浩輔役の鈴木亮平は、ゲイになりきろうという研究の跡がうかがえる
龍太役の宮沢氷魚は、ポッと上気した素振りなどが初々しく美しい




恋愛におけるエゴイズムをテーマにするなら、原作以上に浩輔が自分のエゴのために龍太を縛り、死に至らしめた事を演出しても良かったのでは…

場面の緊張感を出すためか、手持ちカメラによる映像は?!疑問だ…

★★★☆☆

私は原作をお勧めしますが、
映画だけ観るとそれなり
なんでしょう