山田詠美と川上未映子。
山田詠美の「A2Z」と川上未映子の「すべて真夜中の恋人たち」を続けて読んだ。どちらも小説に関わる主人公だ。編集者と校閲者。川上未映子の作品はあるいは、「A2Z」から何らかのインスパイアを受けたのかもしれない。“冬子”という名前、“交通事故”、“春分・秋分”と“夏至・冬至”など類似点がいくつもある…
2つの小説は資質の違いを表している。山田詠美は文章家でストーリーテラーだ。川上未映子は詩人で読み手の想像力を喚起させる。
日本の巨匠なら、三島由紀夫と川端康成にたとえられる。
三島由紀夫の代表作「金閣寺」の冒頭は『幼時から父は、私によく、金閣のことを語った。』
「雪国」は、『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。』
文章家と詩人の資質の違いをしめしている。
山田詠美の「A2Z」の冒頭はこうである。『たった二十六文字で、関係のすべてを描ける言語がある。』題名の「A2Z」すなわちアルファベットの説明だ。
「すべて真夜中の恋人たち」は『真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。』詩の冒頭から始まっている。
高山真の「エゴイスト」は、恋愛のエゴイズムが一つのテーマだが、山田詠美は「A2Z」で次のように書いている。
『恋愛が いかに身勝手な自分を正当化しながら進行するものかを知らないようだったから。相手を思 うふりして、皆、自分の都合で動いてる。本当に相手の都合を第一に考えられるようになった時、その恋は、いつのまにか形を変えていたりする。 退化する。あるいは、進化する。』
山田詠美の文章家ぶりがよくわかる。
さて、「A2Z」ですが、2001年に読売文学賞を受賞しているそうですが、知りませんでした。
ミーハーな私は、深田恭子主演でドラマ化されるという情報で手に取ったわけです。
『恋愛小説の主人公は、いつだってその気だ。照れることを知らない。私たちは照れる。けれど、そうしながらも、主人公の役を降りない。』
・ある人妻のブログみたいです
『恋が上手く行って いる時には仕事も上手く行く。けれど、仕事を上手く行かせようとすると、なかなか恋は上 手く行かなくなる。そんな時、男はいいなって、ちょっぴり思う。あの人の仕事ぶりに惚れ ましたなんて、平気で女の子に言われてる。 彼女の仕事ぶりに惚れました、なんて恋を仕 掛けてくれるなんて、ほとんどいない。仕事に対する厳しさを垣間見せると、少なからぬ 男たちが後ずさりしてしまうのだ。』
・恋愛と仕事、あるあるですね
『「男に手入れされている自分の体が、私は好きなのよ」
今日子は、風呂上がりの脚にローションを塗る私を見て言った。ふん、悪かったね。でも、私は、 男のために自分で手入れした体も好きなのだ。当てのない自分磨きなんてものは、 女性向け雑誌で微笑んでいるいい女とやらにまかせておけば良い。私は、好きな手で触 れられることを思うのが好きだ。』
・いさましい!
『世の中、恋愛だけではないだろうという意見は正しい。 しかし、恋愛抜きで良いというものでもないだろう。どんな高価な化粧品より、男の体は時に有効。一万円の美容液より、好きな男に吹きかけられる息の方が、保護の才能に絞り ることもある。』
・科学的にも正しそうです
★★★★☆
「すべて真夜中の恋人たち」と一緒に読まれる事をお勧めします
ストーリーは(映画公式ページより)
自分を守る鎧のようにハイブランドの服に身を包み、気ままながらもどこか虚勢を張って生きている浩輔と、最初は戸惑いながらも浩輔から差し伸べられた救いの手をとった、自分の美しさに無頓着で健気な龍太。惹かれ合った2人は、時に龍太の⺟も交えながら満ち⾜りた時間を重ねていく。亡き⺟への想いを抱えた浩輔にとって、⺟に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし彼らの前に突然、思いもよらない運命が押し寄せる――。』