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「やむを得ない事由」があれば,「直ちに」有期契約労働者を普通解雇することができるか?

2012-12-17 | 日記
Q222 「やむを得ない事由」があれば,解雇予告や解雇予告手当の支払なしに,「直ちに」有期契約労働者を普通解雇することができますか?


 民法628条は,「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても,やむを得ない事由があるときは,各当事者は,直ちに契約の解除をすることができる。」と規定しており,一見,「やむを得ない事由」があれば「直ちに」有期契約労働者を普通解雇することができるようにも読めますが,これは契約期間の定めや民法627条等に拘束されないことを言っているに過ぎず,原則として労基法上の解雇予告制度(労基法20条)の適用があります。
 したがって,使用者が有期契約労働者を期間途中で即時解雇するためには民法628条の「やむを得ない事由」が「天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」(労基法20条1項ただし書き)にも該当する場合とか,労働者が労基法21条各号の者に該当する場合でない限り,解雇予告手当の支払が必要となります。

弁護士 藤田 進太郎

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有期契約労働者を契約期間満了で雇止めしたところ,雇止めは無効だと主張してくる。

2012-12-17 | 日記
Q18 有期契約労働者を契約期間満了で雇止めしたところ,雇止めは無効だと主張してくる。


(1) 労契法19条
 有期労働契約は契約期間満了で契約終了となるのが原則です。
 しかし,労契法19条の要件を満たす場合は,使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で有期労働契約者からの有期労働契約の更新の申込み又は有期労働契約の締結の申込み当該申込みを承諾したものとみなされるため,雇止めをしても労働契約を終了させることはできません。




(有期労働契約の更新等)

19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって,使用者が当該申込みを拒絶することが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって,その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが,期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。


(2) 労契法19条の趣旨
 労契法19条は,東芝柳町工場事件最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決,日立メディコ事件最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決等の最高裁判決で確立している雇止め法理を制定法化して明確化を図り,認識可能性の高いルールとすることにより,紛争を防止する趣旨の条文です。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」では,「法第19条は,次に掲げる最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)の内容や適用範囲を変更することなく規定したものであること。」とされていますが,従来の雇止め法理では解雇権濫用法理の類推適用(濫用論)で処理されていたのに対し,本条は使用者の承諾みなしを規定したものであり,本条の構造は従来の雇止め法理とは異なっています。
 もっとも,雇止め法理を制定法化して明確化を図るという立法趣旨からすれば,本条の解釈にあたっては従来の雇止め法理が参考にされるものと考えられます。

(3) 更新に対する合理的期待の判断時期が「当該有期労働契約の契約期間の満了時」とされたことの意味
 本条2号では,更新に対する合理的期待の判断時期が「当該有期労働契約の契約期間の満了時」であると規定されていますが,これは従来の雇止め法理では明示されていなかったものです。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」では,「なお,法第19条第2号の『満了時に』は,雇止めに関する裁判例における判断と同様,『満了時』における合理的期待の有無は,最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものであること。したがって,いったん,労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず,当該有期労働契約の契約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても,そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならないと解されるものであること。」とされています。

(4) 有期契約労働者による有期労働契約の更新または締結の申込み
 従来の雇止め法理では,解雇権濫用法理の類推適用(濫用論)で処理されていたこともあり,有期契約労働者による有期労働契約の更新または締結の申込みは要件とはされていませんでした。
 これに対し,本条は有期労働契約の申込みに対する使用者の承諾を擬制することにより有期労働契約の更新または成立を認めるものであるため,有期労働契約者による有期労働契約の更新または締結の申込みが新たに要件として規定されました。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」では,「法第19条の『更新の申込み』及び『締結の申込み』は,要式行為ではなく,使用者による雇止めの意思表示に対して,労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもよいこと。」「また,雇止めの効力について紛争となった場合における法第19条の『更新の申込み』又は『締結の申込み』をしたことの主張・立証については,労働者が雇止めに異議があることが,例えば,訴訟の提起,紛争調整機関への申立て,団体交渉等によって使用者に直接又は間接に伝えられたことを概括的に主張立証すればよいと解されるものであること。」とされています。

(5) 「当該契約期間の満了後遅滞なく」の意味
 有期労働契約者による有期労働契約の締結の申込みは,当該契約期間満了後遅滞なくなされる必要があります。
 この要件が加えられることにより,使用者が契約期間終了後長期間不安定な法的状態に置かれ続けることを防止することができ,法的安定性に資することになります。
 もっとも,「当該契約期間の満了後遅滞なく」という要件は,必ずしも法律に詳しいわけではない労働者側に要求される要件であることを考慮すれば,比較的緩やかに解釈されることが予想されます。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」においても,「法第19条の『遅滞なく』は,有期労働契約の契約期間の満了後であっても,正当な又は合理的な理由による申込みの遅滞は許容される意味であること。」とされています。

(6) 労契法19条の効果
 使用者は,従前の有期労働契約の労働条件と同一の労働条件(契約期間を含む。)で,労働者からの有期労働契約の更新または締結の申込みを承諾したものとみなされます。
 これは,有期労働契約の更新または締結の申込みに対する使用者の承諾を擬制することにより有期労働契約の更新または締結を認めるものであり,従来の雇止め法理が解雇権濫用法理の類推適用(濫用論)で処理していたのとは効果が異なります。
 また,本条では,契約期間についても,従前の有期労働契約の労働条件と同一であることが明確にされています。

(7) 有期労働契約の類型
 「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会」(山川隆一座長)は38件にも及ぶ雇止めに関する裁判例を分析し,平成12年9月11日に「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」を発表しました。
 同報告では,有期労働契約の類型について,以下のような分析がなされています。

1 原則どおり契約期間の満了によって当然に契約関係が終了するタイプ
 [純粋有期契約タイプ]
  事案の特徴:
   ・ 業務内容の臨時性が認められるものがあるほか,契約上の地位が臨時的なものが多い。
   ・ 契約当事者が有期契約であることを明確に認識しているものが多い。
   ・ 更新の手続が厳格に行われているものが多い。
   ・ 同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例があるものが多い。
  雇止めの可否: 雇止めはその事実を確認的に通知するものに過ぎない。

2 契約関係の終了に制約を加えているタイプ
 1に該当しない事案については,期間の定めのない契約の解雇に関する法理の類推適用等により,雇止めの可否を判断している(ただし,解雇に関する法理の類推適用等の際の具体的な判断基準について,解雇の場合とは一定の差異があることは裁判所も容認)。
 本タイプは,当該契約関係の状況につき裁判所が判断している記述により次の3タイプに細分でき,それぞれに次のような傾向が概ね認められる。

 (1) 期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っている契約であると認められたもの
  [実質無期契約タイプ]
   事案の特徴: 業務内容が恒常的,更新手続が形式的であるものが多い。雇用継続を期待させる使用者の言動がみられるもの,同様の地位にある労働者に雇止めの例がほとんどないものが多い。
   雇止めの可否: ほとんどの事案で雇止めは認められていない。

 (2) 雇用継続への合理的な期待は認められる契約であるとされ,その理由として相当程度の反復更新の実態が挙げられているもの
  [期待保護(反復更新)タイプ]
   事案の特徴: 更新回数は多いが,業務内容が正社員と同一でないものも多く,同種の労働者に対する雇止めの例もある。
   雇止めの可否: 経済的事情による雇止めについて,正社員の整理解雇とは判断基準が異なるとの理由で,当該雇止めを認めた事案がかなりみられる。

 (3) 雇用継続への合理的な期待が,当初の契約締結時等から生じていると認められる契約であるとされたもの
  [期待保護(継続特約)タイプ]
   事案の特徴: 更新回数は概して少なく,契約締結の経緯等が特殊な事案が多い。
   雇止めの可否: 当該契約に特殊な事情等の存在を理由として雇止めを認めない事案が多い。

(8) 有期労働契約の実態を検討する際の考慮要素
 「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」によれば,裁判例における判断の過程をみると,主に次の6項目に関して,当該契約関係の実態に評価を加えているものとされています。
① 業務の客観的内容
 従事する仕事の種類・内容・勤務の形態(業務内容の恒常性・臨時性,業務内容についての正社員との同一性の有無等)
② 契約上の地位の性格
 契約上の地位の基幹性・臨時性(例えば,嘱託,非常勤講師等は地位の臨時性が認められる。),労働条件についての正社員との同一性の有無等
③ 当事者の主観的態様
 継続雇用を期待させる当事者の言動・認識の有無・程度等(採用に際しての雇用契約の期間や,更新ないし継続雇用の見込み等についての雇主側からの説明等)
④ 更新の手続・実態
 契約更新の状況(反復更新の有無・回数,勤続年数等),契約更新時における手続の厳格性の程度(更新手続の有無・時期・方法,更新の可否の判断方法等)
⑤ 他の労働者の更新状況
 同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等
⑥ その他
 有期労働契約を締結した経緯,勤続年数・年齢等の上限の設定等

(9) 労契法19条が適用された場合と正社員の解雇の差異
 従来,有期労働契約者の雇止めに解雇権濫用法理が類推適用された場合であっても,雇止め制限の判断基準は正社員の解雇の判断基準とは異なる扱いがなされてきました。
 例えば,日立メディコ事件最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決は,業績悪化を理由として人員削減目的の雇止めがなされた事案に関し,「右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上,雇止めの効力を判断すべき基準は,いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。」とした上で,「独立採算制がとられているYのP工場において,事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり,その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく,臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には,これに先立ち,期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかつたとしても,それをもつて不当・不合理であるということはできず,右希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。」と判断しています。

(10) 事前の対応
 「実質無期契約タイプ」と評価されないためにも,最低限,契約更新手続を形骸化させず,更新ごとに更新手続を行う必要があります。
 また,契約更新を拒絶する可能性があることを労働条件通知書等に明記してよく説明するとともに,不必要に雇用継続を期待させるような言動は慎むべきでしょう。
 有期契約労働者については,身元保証人の要否,担当業務の内容,責任の程度等に関し,正社員と明確に区別した労務管理を行うべきです。

(11) 雇止めが認められないリスクが高い事案の対応
 雇止めが無効となるリスクが高い事案においては,合意により退職する形にせざるを得ません。
 乗せ金の支払や年休の買い上げも検討せざるを得ないでしょう。
 年休を消化させたり,年休買い上げの合意を盛り込んだりしておくと,合意の有効性が認められやすくなります。

(12) 適性把握目的の有期労働契約の雇止め
 労働者の適性を評価・判断する目的で労働契約に期間を設けた場合は,期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き,契約期間は契約の存続期間ではなく,試用期間として取り扱われることになります(神戸弘陵学園事件最高裁第三小法廷平成2年6月5日判決)。
 労働者の適性を評価・判断する目的の期間満了による雇止めが有効とされるためには,試用期間満了時における本採用拒否と同様,解約権留保の趣旨・目的に照らして,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合であることが必要となる可能性があります。
 期間満了で労働契約を確実に終了させられるようにしておきたいのであれば,当初の労働契約書において,期間満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意をしておくとともに,期間満了により当初の労働契約は現実に終了させ,その後も正社員として勤務させる場合には,通常の正社員採用の際と同様,労働条件通知書を交付する等の採用手続を改めて行う必要があります。

弁護士 藤田 進太郎

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有期契約労働者を期間途中で普通解雇する場合に要求される「やむを得ない事由」

2012-12-17 | 日記
Q221 有期契約労働者を期間途中で普通解雇する場合に要求される「やむを得ない事由」とは,どの程度のもののことをいうのですか?


 「やむを得ない事由」は,「期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由」(菅野194頁)をいい,期間の定めのない労働契約における解雇の有効性を判断する際の客観的合理性,社会通念上の相当性(労契法16条)よりも厳格な要件と考えられています。

弁護士 藤田 進太郎

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有期契約労働者を契約期間満了前に普通解雇することはできますか?

2012-12-17 | 日記
Q220 有期契約労働者を契約期間満了前に普通解雇することはできますか?


 民法628条は,「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても,やむを得ない事由があるときは,各当事者は,直ちに契約の解除をすることができる。この場合において,その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは,相手方に対して損害賠償の責任を負う。」と規定しています。
 したがって,「やむを得ない事由」があれば,有期契約労働者を契約期間満了前に普通解雇することができます。

弁護士 藤田 進太郎

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精神疾患を発症して欠勤や休職を繰り返す。

2012-12-17 | 日記
Q12 精神疾患を発症して欠勤や休職を繰り返す。


(1) 業務による精神疾患悪化の防止
 精神疾患を発症して欠勤や休職を繰り返す社員については,まず,業務により精神障害が悪化することがないよう配慮する必要があります。
 精神疾患を発症していることを知りながらそのまま勤務を継続させ,その結果,業務に起因して症状を悪化させた場合は,労災となり,会社が安全配慮義務違反を問われて損害賠償義務を負うことになりかねません。
 社員が精神疾患の罹患していることが分かったら,それに応じた対応が必要であり,本人が就労を希望していたとしても,漫然と放置してはいけません。

(2) 所定労働時間内の通常業務であれば問題なく行える程度の症状である場合
 所定労働時間内の通常業務であれば問題なく行える程度の症状である場合は,時間外労働や出張等,負担の重い業務を免除する等して対処すれば足りるでしょう。

(3) 長期間にわたって所定労働時間の勤務さえできない場合
 長期間にわたって所定労働時間の勤務さえできない場合は,原則として,私傷病に関する休職制度がある場合は休職を検討し,私傷病に関する休職制度がない場合は普通解雇を検討せざるを得ません。

(4) 精神疾患を発症した社員が出社してきた場合の対応
 精神疾患を発症した労働者が出社してきた場合であっても,労働契約の債務の本旨に従った労務提供ができない場合は,就労を拒絶して帰宅させ,欠勤扱いにすれば足ります。

(5) 労働契約の債務の本旨に従った労務提供ができるかどうかを判断する際の職種や業務内容の範囲
 労働契約の債務の本旨に従った労務提供ができるかどうかは,職種や業務内容を特定して労働契約が締結された場合は当該職種等についてのみ検討すれば足りるケースが多いですが,職種や業務内容を特定せずに労働契約が締結されている場合は,現に就業を命じた業務について労務の提供が十分にできないとしても,当該社員が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供ができ,かつ,本人がその労務の提供を申し出ているのであれば,債務の本旨に従った履行の提供があると評価されるため(片山組事件最高裁第一小法廷平成10年4月9日判決),他の業務についても検討する必要があります。

(6) 専門医の助言の重要性
 労働契約の債務の本旨に従った労務提供があるかどうかを判断するにあたっては,専門医の助言を参考にする必要があります。
 本人が提出した主治医の診断書の内容に疑問があるような場合であっても,専門医の診断を軽視することはできません。
 主治医への面談を求めて診断内容の信用性をチェックしたり,精神疾患に関し専門的知識経験を有する産業医等への診断を求めたりして,病状を確認する必要があります。

(7) 指定医への受診を拒絶した場合の対応
 主治医の診断に疑問がある場合に,会社が医師を指定して受診を命じたところ,本人が指定医への受診を拒絶した場合は,労働契約の債務の本旨に従った労務提供がないものとして労務の提供を拒絶し,欠勤扱いとすることができる可能性がありますが,慎重な検討が必要となります。

(8) 私傷病に関する休職制度の趣旨
 私傷病に関する休職制度は,普通解雇を猶予する趣旨の制度であり,必ずしも休職制度を設けて就業規則に規定しなければならないわけではありません。
 休職制度を設けずに,私傷病に罹患して働けなくなった社員にはいったん退職してもらい,私傷病が治癒したら再就職を認めるといった運用も考えられます。

(9) 本人が精神疾患の発症や休職事由の存在を否定し,専門医による診断を拒絶する場合の対応
 明らかに精神疾患を発症しているにもかかわらず,本人が精神疾患の発症や休職事由の存在を否定し,専門医による診断を拒絶することがありますが,精神疾患等の私傷病を発症しておらず健康であるにもかかわらず,労働契約の債務の本旨に従った労務を提供することができていないとすれば,通常は普通解雇事由に該当することになります。
 本人の言っていることが事実だとすれば,普通解雇を検討せざるを得ない旨伝えた上で,専門医による診断を促すのが適切なケースもあるかもしれません。

(10) 精神障害を発症した社員が出社と欠勤を繰り返したような場合に備えた就業規則
 精神障害を発症した社員が出社と欠勤を繰り返したような場合であっても,休職させることができるようにしておくべきでしょう。
 例えば,一定期間の欠勤を休職の要件としつつ,「欠勤の中断期間が30日未満の場合は,前後の欠勤期間を通算し,連続しているものとみなす。」等の通算規定を置くか,「精神の疾患により,労務の提供が困難なとき。」等を休職事由として,一定期間の欠勤を休職の要件から外すこと等が考えられます。
 再度,長期間の欠勤がなければ,休職命令を出せないような規定を置くべきではありません。

(11) 休職させずに直ちに解雇した場合のリスク
 私傷病に関する休職制度があるにもかかわらず,精神疾患を発症したため労働契約の債務の本旨に従った労務提供ができないことを理由としていきなり解雇するのは,解雇権を濫用(労契法16条)したものとして解雇が無効と判断されるリスクが高いので,お勧めできません。
 解雇が有効と認められるのは,休職させても回復の見込みが客観的に乏しい場合に限られます。
 医学的根拠もなく,主観的に休職させても回復しないだろうと思い込み,精神疾患に罹患した社員を休職させずに解雇した場合,解雇が無効と判断されるリスクが高くなります。

(12) 本人が休職を希望している場合の対応
 本人が休職を希望している場合は,休職申請書を提出させてから,休職命令を出すとよいでしょう。
 休職申請書を提出させることにより,休職命令の有効性が争われるリスクが低くなります。
 「合意」により休職させる場合は,休職期間(どれだけの期間が経過すれば退職扱いになるのか。)についても合意しておく必要があります。
 通常,就業規則に規定されている休職期間は,休職「命令」による休職に関する規定であり,合意休職に関する規定ではありません。
 本人から休職申請書を提出させた上で,休職「命令」を出すのが,簡明なのではないでしょうか。

(13) 休職期間満了日の通知
 精神疾患が治癒しないまま休職期間が満了すると退職という重大な法的効果が発生することになりますので,休職命令発令時に,何年の何月何日までに精神疾患が治癒せず,労務提供ができなければ退職扱いとなるのか通知するとともに,休職期間満了前の時期にも,再度,休職期間満了日や精神疾患が治癒しないまま休職期間が満了すれば退職扱いとなる旨通知すべきでしょう。

(14) 欠勤日・休職期間を無給とすることの重要性
 欠勤と休職を繰り返されても,真面目に働いている社員が不公平感を抱いたり,会社の負担が重くなったりしないようにするために最も重要なことは,欠勤日,休職期間を無給とすることです。
 欠勤日や休職期間中も有給とした場合,会社の活力が失われてしまいかねません。
 欠勤日,休職期間を無休とした上で,傷病手当金支給申請に協力すれば十分です。

(15) 休職と復職を繰り返されないようにするための就業規則
 復職後間もない時期(復職後6か月以内等)に休職した場合には,休職期間を通算する(休職期間を残存期間とする)等の規定を置くべきでしょう。
 そのような規定がない場合は,普通解雇を検討せざるを得ませんが,有効性が争われるリスクが高くなります。

(16) 復職の可否の判断基準
 復職の可否は,休職期間満了時までに治癒したか(休職事由が消滅したか)否かにより判断されるのが原則です。
 ただし,職種や業務内容を特定せずに労働契約が締結されている場合は,現に就業を命じた業務について労務の提供が十分にできないとしても,当該社員が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供ができ,かつ,本人がその労務の提供を申し出ているのであれば,債務の本旨に従った履行の提供があると評価されるため(片山組事件最高裁第一小法廷平成10年4月9日判決),他の業務についても労働契約の債務の本旨に従った労務提供ができるかどうかについても検討する必要があります。

(17) 休職期間満了時までに精神疾患が治癒せず,休職期間満了時には不完全な労務提供しかでき なかったとしても,直ちに退職扱いにすることができないとする裁判例
 例えば,エール・フランス事件東京地裁昭和59年1月27日判決は,「傷病が治癒していないことをもって復職を容認しえない旨を主張する場合にあっては,単に傷病が完治していないこと,あるいは従前の職務を従前どおりに行えないことを主張立証すれば足りるのではなく,治癒の程度が不完全なために労務の提供が不完全であり,かつ,その程度が,今後の完治の見込みや,復職が予定される職場の諸般の事情等を考慮して,解雇を正当視しうるほどのものであることまでをも主張立証することを要するものと思料する。」と判示しています。
 休職期間満了時までに精神疾患が治癒せず,休職期間満了時には不完全な労務提供しかできなかったとしても,直ちに退職扱いにすることができないとしたのでは,休職期間を明確に定めた意味がなくなってしまい,使用者の予測可能性・法的安定性が害され妥当ではないと考えられますが,反対の立場を取るにせよ,このような裁判例が存在することを理解した上で対応を検討していく必要があります。

(18) 復職の可否を判断する上でも専門医の助言はやはり重要
 復職の可否を判断するにあたっては,専門医の助言を参考にする必要があります。
 本人が提出した主治医の診断書の内容に疑問があるような場合であっても,専門医の診断を軽視することはできません。
 主治医への面談を求めて診断内容の信用性をチェックしたり,精神疾患に関し専門的知識経験を有する産業医等への診断を求めたりして,病状を確認する必要があります。

(19) 指定医への受診を拒絶した場合の対応
 主治医の診断に疑問がある場合に,会社が医師を指定して受診を命じたところ,本人が指定医への受診を拒絶した場合は,休職期間満了時までに治癒していない(休職事由が消滅していない)ものとして取り扱って復職を認めず,退職扱いとすることができる可能性がありますが,慎重な検討が必要となります。

(20) 休職制度の公平・平等な運用
 休職制度の運用は,公平・平等に行うことが重要です。
 勤続年数等により異なる扱いをする場合は,予め就業規則に規定しておく必要があります。
 休職命令の発令,休職期間の延長等に関し,同じような立場にある社員の扱いを異にした場合,紛争になりやすく,敗訴リスクも高まる傾向にあります。

(21) 精神疾患の発症と労災
 精神疾患の発症の原因が,長時間労働,セクハラ,パワハラによるものだから労災だとの主張がなされることがあります。
 精神疾患の発症が労災か私傷病かは,『心理的負荷による精神障害の認定基準』(基発1226第1号平成23年12月26日)を参考にして判断することになりますが,その判断は必ずしも容易ではありません。
 実務的には,労災申請を促して労基署の判断を仰ぎ,審査の結果,労災として認められれば労災として扱い,労災として認められなければ私傷病として扱うこととすれば足りることが多いものと思われます。

(22) 労災だった場合の民事上のリスク
 精神疾患の発症が労災の場合,療養するため休業する期間及びその後30日間は原則として解雇することができません(労基法19条1項)。
 休職期間満了による退職も認められないと考えるのが一般的です。
 欠勤が続いている社員を解雇しようとしたり,休職期間満了で退職扱いにしたりしようとした際,精神疾患の発症は労災なのだから解雇等は無効だと主張されることがあります。
 また,精神疾患の発症が労災として認められた場合,業務と精神疾患の発症との間に,法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)が認められたことになるため,労災保険給付でカバーできない損害(慰謝料等)について損害賠償請求を受けるリスクも高くなります。

弁護士 藤田 進太郎

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懲戒解雇と退職金不支給の関係について,教えて下さい。

2012-12-15 | 日記
Q219 懲戒解雇と退職金不支給の関係について,教えて下さい。


 懲戒解雇事由に該当する場合を退職金の不支給・減額・返還事由として規定しておけば,懲戒解雇事由がある場合で,当該個別事案において,退職金不支給・減額の合理性がある場合には,退職金を不支給または減額したり,支給した退職金の全部または一部の返還を請求したりすることができます。
 退職金の不支給・減額事由の合理性の有無は,労働者のそれまでの勤続の功を抹消(全額不支給の場合)又は減殺(一部不支給の場合)するほどの著しい背信行為があるかどうかにより判断されます。
 懲戒解雇が有効な場合であっても,労働者のそれまでの勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為はない場合は,例えば,本来の退職金の支給額の30%とか50%とかいった金額の支払が命じられることがあります。

弁護士 藤田 進太郎

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懲戒解雇等の懲戒処分が濫用に当たるかどうかを検討するに際し,念頭に置くべきアドバイスを何か下さい。

2012-12-15 | 日記
Q218 懲戒解雇等の懲戒処分が濫用に当たるかどうかを検討するに際し,念頭に置くべきアドバイスを何か下さい。


 懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職等の退職の効果を伴う懲戒処分については,懲戒権濫用の有無が厳格に審査されますし,紛争となりやすい傾向にあります。
 退職の効果を伴う懲戒処分については,特に慎重に行うようにして下さい。

弁護士 藤田 進太郎

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転勤を拒否する。

2012-12-15 | 日記
Q7 転勤を拒否する。


(1) 転勤を拒否された場合に最初にすべきこと
 転勤を拒否する社員がいる場合は,まずは,転勤を拒否する事情を聴取し,転勤拒否にもっともな理由があるのかどうかを確認する必要があります。
 転勤が困難な事情を社員が述べている場合は,より具体的な事情を聴取するとともに裏付け資料の提出を求めるなどして対応することになります。
 認められる要望かどうかは別にして,本人の言い分はよく聞くことが重要です。
 本人の言い分を聞く努力を尽くした結果,転勤拒否にもっともな理由がないとの判断に至った場合は,再度,転勤命令に応じるよう説得することになります。
 それでも転勤命令に応じない場合は,懲戒解雇等の処分を検討せざるを得ませんが,懲戒解雇等の処分が有効となる前提として,転勤命令が有効である必要があります。

(2) 転勤命令の有効性
 転勤命令が有効というためには,①使用者に転勤命令権限があり,②転勤命令が権利の濫用にならないことが必要です。

(3) 転勤命令権限
 就業規則に転勤命令権限についての規定を置いて周知させておけば,通常は①転勤命令権限があるといえることになります。
 併せて,入社時の誓約書で転勤等に応じること,就業規則を遵守すること等を誓約させておくべきでしょう。
 社員から,勤務地限定の合意があるから転勤命令に応じる義務はないと主張されることがありますが,勤務地が複数ある会社の正社員については,勤務地限定の合意はなかなか認定されません。
 他方,パート,アルバイトについては,勤務地限定の合意が存在することが多いのが実情です。
 平成11年1月29日基発45号では,労働条件通知書の「就業の場所」欄には,「雇入れ直後のものを記載することで足りる」とされており,「就業の場所」欄に特定の事業場が記載されていたとしても,勤務地限定の合意があることにはなりません。
 ただし,それが雇入れ直後の就業場所に過ぎないことや支店への転勤もあり得ることをよく説明しておくことが望ましいことは言うまでもありません。

(4) 転勤命令が権利の濫用にならないか
 ①使用者に転勤命令権限の存在が認定されると,次に,②転勤命令が権利の濫用にならないかどうかが問題となります。
 正社員については,通常は転勤命令が認められるため,②転勤命令が権利の濫用にならないかどうかが主要な争点になることが多くなっています。
 使用者による配転命令は,
① 業務上の必要性が存しない場合
② 不当な動機・目的をもってなされたものである場合
③ 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき
等,特段の事情のある場合でない限り権利の濫用になりません(東亜ペイント事件最高裁第二小法廷昭和61年7月14日判決)。

(5) ①業務上の必要性
 ①業務上の必要性については,東亜ペイント事件最高裁判決が,「右の業務上の必要性についても,当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤務意欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」と判示していることもあり,企業経営上意味のある配転であれば,存在が肯定されることになります。
 ただし,①業務上の必要性の程度は,②③の要件を満たすかどうかにも影響するため,①業務上の必要性が高いことの主張立証はしっかり行う必要があります。

(6) ②不当な動機・目的
 ②不当な動機・目的に関しては,退職勧奨したところ退職を断られ,転勤を命じたような場合に,問題にされることが多い印象です。
 通常の対策としては,①業務上の必要性を説明できるようにしておけば足りるでしょう。
 また,退職勧奨は,行き当たりばったりで何となく行うのではなく,事前に十分に戦略を練ってから計画的に行う必要があります。

(7) ③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無
 ③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無に関しては,社員の配偶者が仕事を辞めない限り単身赴任となり,配偶者や子供と別居を余儀なくされるとか,通勤時間が長くなるとか,多少の経済的負担が生じるといった程度では,③労働者の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとはいえません。
 必須のものではありませんが,③労働者の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるか否かを判断する際は,単身赴任手当や家族と会うための交通費の支給,社宅の提供,保育介護問題への配慮,配偶者の就職の斡旋等の配慮がなされているか等も考慮されることになります。

(8) 育児介護休業法26条
 就業場所の変更を伴う配置転換について子の養育又は家族の介護の状況に配慮する義務があること(育児介護休業法26条)には,注意が必要です。
 育児,介護の問題ついては,本人の言い分を特によく聞き,転勤命令を出すかどうか慎重に判断する必要があります。
 本人の言い分をよく聞かずに一方的に転勤を命じ,本人から育児,介護の問題を理由として転勤命令撤回の要求がなされた場合に転勤命令撤回の可否を全く検討していないなど,育児,介護の問題に対する配慮がなされていない場合は,③労働者の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとして,転勤命令が無効とされるリスクが高まることになります。
 裁判例の動向からすると,特に,家族が健康上の問題を抱えている場合や,家族の介護が必要な場合の転勤については,労働者の不利益の程度について慎重に検討した方が無難と思われます。

(9) 転勤命令違反を理由とした懲戒解雇の有効性
 転勤命令自体が無効の場合は,転勤命令拒否を理由とする懲戒解雇は認められません。
 有効な転勤命令を正社員が拒否した場合は重大な業務命令違反となるため,懲戒解雇は懲戒権の濫用(労契法15条)とはならず有効と判断されることが多いですが,焦って直ちに懲戒解雇すると無効と判断されることがあります。
 有効な配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇が無効とされた事例では,懲戒解雇が性急に過ぎることが問題とされることが多くなっています。
 社員が転勤に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供する等して転勤命令に従うよう説得する努力を尽くし,転勤命令に従う見込みが乏しいことを確認してから,懲戒解雇を行うべきと考えます。

弁護士 藤田 進太郎

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懲戒解雇の懲戒権濫用の有無を判断するにあたっては,どのような点を検討する必要がありますか?

2012-12-13 | 日記
Q217 懲戒解雇の懲戒権濫用の有無を判断するにあたっては,どのような点を検討する必要がありますか?


 懲戒権濫用の有無を判断するにあたっては,規律違反行為により職場から排除しなければならないほど職場秩序を阻害したのかが問題となり,
① 規律違反行為の態様(業務命令違反,職務専念義務違反,信用保持義務違反等)
② 程度,回数
③ 改善の余地の有無
等を総合検討することになります。

弁護士 藤田 進太郎

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管理職なのに残業代を請求してくる。

2012-12-13 | 日記
Q21 管理職なのに残業代を請求してくる。


(1) 管理職≠「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)
 管理職であっても,労基法上の労働者である以上,原則として労基法37条の適用があり,週40時間,1日8時間を超えて労働させた場合,法定休日に労働させた場合,深夜に労働させた場合は,時間外労働時間,休日労働,深夜労働に応じた残業代(割増賃金)を支払わなければならないのが原則です。
 当該管理職が,労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)に該当すれば,労働時間,休憩,時間外・休日割増賃金,休日,賃金台帳に関する規定は適用除外となりますので,その結果,労基法上,使用者は時間外・休日割増賃金の支払義務を免れることになりますが,裁判所の考えている管理監督者の要件を充足するのは,本社の幹部社員など,ごく一部と考えられます。
 中小企業の場合,管理監督者の実態を有する管理職は,取締役とされていることも多い印象です。
 通常は,管理監督者扱いとすることで残業代の支払義務を免れることができると考えるべきではありません。

(2) 管理監督者と深夜割増賃金
 管理監督者であっても,深夜労働に関する規定は適用されますので,管理職が管理監督者であるかどうかにかかわらず,深夜割増賃金(労基法37条3項)を支払う必要があることに変わりはありません(ことぶき事件最高裁第二小法廷平成21年12月18日判決)。

(3) 管理職からの残業代請求に対するリスク管理
 管理監督者としていた社員から労基法37条に基づく割増賃金の請求を受けるリスクを負いたくない場合は,管理監督者とする管理職の範囲を狭く捉えて上級管理職に限定し,その他の管理職は最初から管理監督者としては取り扱わずに残業代を満額支給し,基本給や賞与等の金額を抑えることで,総賃金額を調整したほうが無難かもしれません。

(4) 管理職本人が残業代不支給に同意していたり,就業規則で管理職には残業代を支給しない旨定めたりした場合
 労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は無効となり,無効となった部分については労基法で定める基準が適用されます(労基法13条)。
 就業規則等で管理職には残業代を支給しない旨規定したり,管理職本人が残業代不支給に同意したりしていたとしても,直ちに残業代の支払義務を免れるわけではありません。

(5) 管理監督者の判断基準
 管理監督者は,一般に,「労働条件の決定その他労務管理について,経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ,管理監督者であるかどうかは,
① 職務の内容,権限及び責任の程度
② 実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度
③ 待遇の内容,程度
等の要素を総合的に考慮して,判断されることになります。

(6) ①職務の内容,権限及び責任の程度
 ①職務の内容,権限及び責任の程度を検討するにあたっては,労務管理を含む事業経営上重要な事項にかかわっているか,事業経営に関する決定過程にどの程度関与しているか,現場業務(管理監督以外の仕事)にどの程度従事していたか,他の従業員の職務遂行・労務管理に対する関与の程度,管理監督者として扱われている社員の割合等が考慮されるます。

(7) ②実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度
 ②実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度を検討するにあたっては,タイムカード等による始業終業時刻管理の有無,欠勤控除の有無等が考慮されます。

(8) ③待遇の内容,程度
 ③待遇の内容,程度を検討するにあたっては,役職手当や賃金の額が役職に見合っているか,社内における賃金額の順位,管理職になった後の賃金総額と管理職になる前の賃金総額との比較等が考慮されます。

弁護士 藤田 進太郎

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懲戒解雇も懲戒権濫用法理の規制を受けるとのことですが,根拠条文はありますか?

2012-12-13 | 日記
Q216 懲戒解雇も懲戒権濫用法理の規制を受けるとのことですが,根拠条文はありますか?


 労契法15条では,「使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と規定されており,懲戒解雇も懲戒権濫用法理の規制を受けることになります。

弁護士 藤田 進太郎

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勝手に残業して,残業代を請求してくる。

2012-12-13 | 日記
Q20 勝手に残業して,残業代を請求してくる。


(1) 不必要に残業をする社員への対応
 不必要に残業をする社員に対しては,注意,指導して,改めさせる必要があります。
 長時間労働は,残業代(割増賃金)請求の問題にとどまるものではなく,過労死,過労自殺,うつ病等の問題にもつながりますので,放置してはいけません。

(2) 早く帰るように注意しても帰らない社員への対応
 不必要な残業を止めて帰宅するよう口頭で注意しても社員が指導に従わない場合は,現実にオフィスから外に出るまで指導する必要があります。
 終業時刻後も社内の仕事をするスペースに残っている場合,残業していると評価される可能性が高くなります。
 残業させる必要がない場合は,社内の仕事をするスペースから現実に外に出すべきでしょう。
 最低限,タイムカードを打刻させるとか,現実に働いていた時間を自己申告させるとかする必要がありますが,いつまでも部屋に残っているのを放置していると,タイムカード打刻後も残業させられていたとか,実際の残業時間よりも短い残業時間の自己申告を強制された主張されて,残業代請求を受けるリスクが生じることになります。
 やはり,現実に,社内の仕事をするスペースから外に出すのが本筋でしょう。

(3) 所定労働時間に仕事に集中しない社員の労働時間
 仕事の合間に,食事したり,仕事とは関係のない本を読んだり,おしゃべりしたり,居眠りした場合であっても,まとまった時間,仕事から離脱したような場合でない限り,所定の休憩時間を超えて労働時間から差し引いてもらえないのが通常です。
 居眠り等が目に余る場合は,その都度,上司が注意,指導して仕事させるのが本筋です。
 上司が部下の注意,指導,教育を怠っていたのでは,無駄な残業はなくなりません。

(4) 残業代支払の基本的な発想
 残業させたら残業代の支払を免れることはできないという前提で考える必要があります。
 ①残業自体を減らすことで残業代の発生を抑制するか,②残業代を支払済みにしておく必要があります。

(5) 能力が低い社員,真面目に仕事をしない社員の残業代
 本人の能力が低いことや,所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことが残業の原因であった場合であっても,現実に残業している場合は,残業時間として残業代の支払義務が生じることになります。
 本人の能力が低いことや,所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことは,注意,指導,教育等で改善させるとともに,人事考課で考慮すべき問題であって,残業時間に対し残業代を支払わなくてもよくなるわけではありません。

(6) 一定金額以上は残業代を支払わない約束
 一定金額の残業手当を支給し,その金額の範囲内で残業を行う旨合意されていたとしても,残業手当の金額を超えて労基法上の割増賃金が発生している場合は,不足額部分の支払義務が生じることになりますので,そのような合意で割増賃金の支払額を限定することはできません。
 例えば,「月5万円の残業代を払うから,5万円の範囲内で残業して下さい。」と伝えていたとしても,社員が現実に残業した時間で残業代を計算した結果,残業代の金額が5万円を超えた場合は,原則として追加の割増賃金の支払を余儀なくされることになります。

(7) 上司の責任・管理能力
 部下に残業させて残業代を支払うのか,残業させずに帰すのかを決めるのは上司の責任であり,上司の管理能力が問われることになります。
 その日のうちに終わらせる必要がないような仕事については,翌日以降の所定労働時間内にさせるといった対応が必要となります。

(8) 黙示の残業命令
 明示の残業命令を出していなくても,残業していることを知りながら放置していた場合は,想定外の時間にまで残業していたような例外を除き,黙示の残業命令があったと認定されるのが通常です。
 実際の事案では,どれだけ残業していたのかはよく分からなくても,残業していたこと自体は上司が認識しつつ放置していることが多いというのが実情です。
 上司が残業に気付いたら,残業をやめさせて帰宅させるか,残業代の支払を覚悟の上で仕事を続けさせるか,どちらかを選択する必要があります。

(9) 事前申告制と残業代
 残業する場合には,上司に申告してその決裁を受けなければならない旨就業規則等に定められていたとしても,実際には決済を受けずに仕事をしていて,上司がそれを知りつつ放置していた場合は,黙示の残業命令により残業していたと認定され,残業代の支払を余儀なくされるリスクがあります。
 就業規則を整備しても,実態を伴わなければ,残業代請求対策として不十分です。

(10) 部下が上司の知らないところで残業したような場合
 「上司が先に帰って,部下が上司の知らないところで残業したような場合も,残業代を支払わなければならないのですか?」といった質問を受けることがありますが,弁護士に相談するような事案はたいてい,毎日のように部下が残業をしているのを上司が知りながら放置しているケースです。
 部下がたまたま1日だけ,上司の知らないうちにこっそり残業したといった程度の場合は,残業代の支払いを拒絶できる余地がありますが,そのような場合は,弁護士に相談しなければならないような問題にはならないのが通常です。

(11) タイムカードと労働時間
 残業代請求の訴訟では,タイムカードに打刻された出社時刻と退社時刻との間の時間から休憩時間を差し引いた時間が,その日の実労働時間と認定されることが多くなっています。
 タイムカードの打刻時間が,実際の労働時間の始期や終期と食い違っている場合は,それを敢えて容認してタイムカードに基づいて割増賃金を支払うか,働き始める直前,働き終わった直後にタイムカードを打刻させるようにすべきでしょう。

(12) 自己申告制と労働時間
 基本的には申告どおりの労働時間が認定されますが,自己申告された労働時間が,実際の労働時間に満たない場合は,実際の労働時間に基づいて残業代が算定されることになります。
 自己申告制は,適切に運用しないと,隠れ残業時間(残業代不払い)が生じるリスクを負うことになりかねません。
 パソコンのオンオフのログで在社時間をチェックし,自己申告の労働時間との齟齬が大きい場合には事情説明を求める等の工夫をすべきでしょう。

(13) 長時間労働のリスク
 長時間労働は,過労死,過労自長時間労働は,過労死,過労自殺,うつ病等の問題が生じやすいという問題があります。
 当該社員の人生が破壊されるだけでなく,職場の雰囲気も悪くなり,会社が高額の損害賠償義務を負うこともあります。
 本人の同意があったとしても,月80時間を超えるような時間外労働を恒常的にさせるのは勧められません。

弁護士 藤田 進太郎

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まずは戒告処分をしてみて,反省の色が見られないようなら,同じ事実を理由として懲戒解雇できるか?

2012-12-12 | 日記
Q215 まずは戒告処分をしてみて,反省の色が見られないようなら,同じ事実を理由として懲戒解雇したいのですが,問題ないでしょうか?


 懲戒処分には一事不再理の原則が適用されるため,懲戒処分を行った事実と同一の事実について,懲戒解雇することはできません。

弁護士 藤田 進太郎

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残業代込みの給料であることに納得して入社したにもかかわらず,残業代の請求をしてくる。

2012-12-12 | 日記
Q19 残業代込みの給料であることに納得して入社したにもかかわらず,残業代の請求をしてくる。


(1) 残業代は支払わない旨の合意の有効性
 残業代(割増賃金)の支払は労基法37条で義務付けられているものですが,労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,労基法で定める基準に達しない労働条件を定める部分についてのみ無効となり,無効となった部分は労基法で定める労働基準となります(労基法13条)。
 したがって,労基法37条に定める残業代を支払わないとする合意は無効となるため,残業代を支払わなくても異存はない旨の誓約書に署名押印させてから残業させた場合であっても,使用者は残業代の支払義務を免れることはできません。

(2) 残業代は全額,賃金に含まれている旨の合意の有効性
 割増部分(残業代に相当する金額)を特定せずに,基本給に残業代全額が含まれる旨合意し,合意書に署名押印させていたとしても,これを有効と認めてしまうと,残業代を支払わずに時間外労働等をさせるのと変わらない結果になってしまうため,残業代の支払があったとは認められません。
 この結論は,年俸制社員であっても,変わりません。
 モルガン・スタンレー・ジャパン(超過勤務手当)事件東京地裁平成17年10月19日判決では,割増部分(残業代に相当する金額)が特定されていないにもかかわらず,基本給に残業代が含まれているとする会社側の主張が認められていますが,基本給だけで月額183万円超えている(別途,多額のボーナス支給等もある。)とか,労働者が自らの判断で営業活動や行動計画を決めることができていた等,追加の残業代の請求を認めるのが相当でない特殊事情があった事案であり,通常の事例にまで同様の判断がなされると考えることはできません。

(3) 固定残業代の有効要件
 残業代が賃金に含まれている旨の合意が有効であるというためには,通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分とを判別することができる必要があります。

(4) 割増部分(残業代に相当する金額)が特定されているといえるための要件
 支給した残業代の額が労基法37条及び同法施行規則19条の計算方法で計算された金額以上となっているかどうか(不足する場合はその不足額)を計算できる定め方であれば,通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分とを判別することができると評価することができるものと思われます。

(5) 固定残業代で不足する場合の残業代支払義務
 労基法上の計算方法で残業代の金額を計算した結果,残業手当等の金額で不足する場合は,不足額を当該賃金の支払期(当該賃金計算期間に対応する給料日)に支払う法的義務が生じることになります。

(6) 割増部分(残業代に相当する金額)が特定されていない場合の残業代支払義務
 割増部分(残業代に相当する金額)が特定されていない場合は,残業代が全く支払われていない前提で残業代が算定され,その支払義務を負うことになります。
 その結果,残業代計算の基礎賃金が高くなり,残業代の弁済があったとも認められないことになる。

(7) 小里機材事件東京地裁昭和62年1月30日判決
 小里機材事件東京地裁昭和62年1月30日判決は,「傍論」で,「仮に,月15時間の時間外労働に対する割増賃金を基本給に含める旨の合意がされたとしても,その基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区別されて合意がされ,かつ労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている場合にのみ,その予定割増賃金分を当該月の割増賃金の一部又は全部とすることができるものと解すべき」判断しています。
 そして,控訴審判決である東京高裁昭和62年11月30日判決はこの地裁判決の判決理由を引用して控訴を棄却し,上告審の最高裁第一小法廷昭和63年7月14日判決も高裁の認定判断は正当として是認することができるとして上告を棄却しています。
 このため,労働者側から,割増部分が「明確に」区別されていないから残業代の支払がなされていると評価することはできないとか,労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されていないから固定残業代部分を残業代の弁済と評価することはできないとかいった主張がなされることがあります。
 この論争を回避するためには,固定残業代の「金額」を明示して給与明細書・賃金台帳の時間外手当欄等にもその金額を明確に記載しておくとともに,賃金規定に労基法所定の計算方法による額が固定残業代の額を上回る場合にはその不足額を支払う旨規定し,周知させておくとよいでしょう。
 もっとも,労基法所定の計算方法による額が固定残業代の額を上回る場合にはその不足額を支払わなければならないことは労基法上当然のことであり,裁判実務上,この点を独立の要件とは考えないのが一般的です。

(8) 固定残業代とそれ以外とを金額で明確に分けた場合の固定残業代の有効性
 労働条件通知書等において基本給と時間外手当を明確に分けて「基本給○○円,残業手当○○円」と定め,給与明細書や賃金台帳でも項目を分けて金額を明示しているものについては,支給した残業代の額が労基法37条及び同法施行規則19条の計算方法で計算された金額以上となっているかどうかを容易に計算できるため,通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分とを判別することができるものといえ,有効性が否定されるリスクは低いと思われます。
 ただし,「基本給15万円,残業手当15万円」といったように,残業手当の比率が極端に高い場合は,合意内容があまりにも労働者に不利益なため,合意の有効性が否定されるリスクが高くなりますので,避けるべきです。
 やり過ぎはよくありません。

(9) 基本給に○○時間分の残業代を含むとした場合の有効性
 「基本給には,45時間分の残業手当を含む。」といった規定の仕方も広く行われており,一応,通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分とを判別することができるといえなくもありませんので,一般には有効と考えられています。
 しかし,給与明細書・賃金台帳の時間外手当欄が空欄となっていたり,0円と記載されていたりすることが多く,一見して残業代が支払われているようには見えないため,残業代は支払済みと言ってみても説得力が今一つで,なかなか納得してもらえません。
 また,「45時間分の残業手当」が何円で,残業手当以外の金額が何円なのかが一見して分からず,方程式を解くようなやり方をしないと,残業代に相当する金額と通常の賃金に相当する金額を算定できなかったり,45時間を超えて残業した場合にどのように計算して追加の残業代を計算すればいいのか分かりにくかったりすることがあるため,有効性が否定されるリスクが残ります。
 労基法上,深夜の時間外労働(50%増し以上),法定休日労働の割増賃金額(35%増し以上)等は,通常の時間外労働の割増賃金額(25%増し以上)と単価が異なりますが,どれも等しく「45時間分」の時間に含まれるのか,あるいは時間外勤務分だけが含まれており,深夜割増賃金や法定休日割増賃金は別途支払う趣旨なのか,その文言だけからでは明らかではないこともあります。
 支給した固定残業代の額が労基法37条及び同法施行規則19条の計算方法で計算された金額以上となっているかどうか(不足する場合はその不足額)を容易に計算できるような定め方にしておくべきでしょう。
 予定されている残業時間以上の残業をした場合に,不足する残業代の計算がなされ,追加で残業代が支給されているような場合は,このような合意も有効とされやすい傾向にあります。
 他方,残業代の精算がなされていない場合は,無効とされるリスクが高まることになります。

(10) 手当の名目と固定残業代
 営業手当,役職手当,特殊手当等,一見して残業代の支払のための手当であるとは読み取れない手当を残業代の趣旨で支給する場合は,賃金規定等にその全部又は一部が残業代の支払の趣旨である旨明記して周知させておく必要があります。
 労働条件通知書や賃金規定等に残業代の趣旨で支給する旨明記されていないと,裁判所に残業代の支払であると認定してもらうのが難しくなります。
 これに対し,「残業手当」「時間外勤務手当」等,一見して残業代(割増賃金)の支払のための手当であることが分かる名目で支給し,給与明細書や賃金台帳にその金額の記載がある場合は,リスクが小さくなります。

(11) 手当に残業代が含まれるとするケース
 営業手当,役職手当,特殊手当等,一見して残業代の支払のための手当であるとは読み取れない手当の「一部」を残業代の趣旨で支給する場合にも,割増部分(残業代に相当する金額)を特定して支給しないと,残業代の支払とは認められません。
 例えば,役職手当として5万円を支給し,残業代が含まれているという扱いにしている場合,役職者としての責任等に対する対価が何円で,残業代が何円なのか分からないと,残業代の支払が全くなされていないことを前提として残業代額が算定され,支払義務を負うことになります。
 管理監督者についても,役職手当に深夜割増賃金が含まれるとしたような場合は,同様の問題が生じ得ます。

(12) 望ましい固定残業代の比率
 固定残業代の比率は,月例賃金全体の20%程度に抑えることが望ましいところです。
 残業の多い職場でも,月例賃金全体の30%程度に抑えるべきです。
 固定残業代の金額が月例賃金全体の40%以上だと,固定残業代の比率が高く,やり過ぎという印象ですので,残業時間の削減を真剣に検討せざるを得ないものと思われます。

(13) 固定残業代の比率を高くすることのリスク・デメリット
 固定残業代の比率が高い会社は,賃金単価が低いことが多く(極端な場合は時給1000円を下回り,賞与を考慮しないとパート・アルバイトよりも時給単価が低いことさえあります。),優秀な社員が集まりにくく,社員の離職率も高くなりがちで,有能な社員ほど,すぐに退職してしまう傾向にあります。
 固定残業代の比率が高い会社は,体裁が悪いせいか,採用募集広告では,固定残業代の比率が高いことを隠そうとする傾向にあります。
 その結果,入社した社員は騙されたような気分になり,すぐに退職したり,トラブルに発展したりすることになりがちです。
 固定残業代の比率が高い会社は,長時間労働が予定されていることが多く,1月あたりの残業時間が80時間とか,100時間に及ぶことも珍しくありません。
 長時間労働を予定した給与体系を採用し,長時間労働により社員が死亡する等した場合は,会社が多額の損害賠償義務を負うことになるだけでなく,代表取締役社長その他の会社役員も高額の損害賠償義務を負うことになるリスクもあります。
 万が一,長時間労働で社員が死亡するようなことがあった場合,職場環境に与えるダメージは極めて大きく,社員の士気が下がったり,優秀な社員が退職してしまったりするリスクが高くなります。

弁護士 藤田 進太郎

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就業規則に懲戒解雇事由が定められていない会社の懲戒解雇

2012-12-11 | 日記
Q214 労働者が重大な企業秩序違反行為を行った場合であれば,就業規則に懲戒解雇事由が定められていなくても,懲戒解雇することができますよね?


 就業規則において懲戒解雇事由が定められていない場合には,労働者が重大な企業秩序違反行為を行った場合であっても,懲戒解雇することはできません。

弁護士 藤田 進太郎

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