おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

少女は自転車にのって

2022-08-30 06:46:29 | 映画
「少女は自転車にのって」 2012年 サウジアラビア / ドイツ


監督 ハイファ・アル=マンスール
出演 ワアド・ムハンマド リーム・アブドゥラ

ストーリー
厳格なイスラム教が支配する国サウジアラビアの首都リヤド。
ある朝、ワジダは男の子の友達アブドゥラと喧嘩をするが、彼は「男に勝てるわけないだろう」と言い捨てて自転車で走り去る。
10歳のおてんば少女ワジダは、近所の男の子アブダラと自転車競争がしたくてたまらない。
ワジダが通う女子校では、戒律を重んじる女校長がいつも目を光らせ、笑い声を立てただけで注意が飛ぶ。
制服の下はジーンズとスニーカー、ヒジャブ(スカーフ)も被らず登校するワジダは当然、問題児扱いだ。
学校の帰り、綺麗な緑の自転車がトラックで運ばれるのを目にしたワジダは、思わず追いかける。
自転車は雑貨店に入荷したもので、値段は800リヤルだった。
帰宅後、ワジダは自転車が欲しいと母に懇願するが、全く相手にしてもらえないので、自分でお金を貯めて買おうと決意する。
手作りのミサンガを学校でこっそり友達に売り、上級生の密会の橋渡しのアルバイトをするものの、800リヤルには程遠い。
そんな中、密会の橋渡しがバレ、退学になりかけるワジダだったが、母が校長に謝罪し事なきを得る。
その夜、父と母の喧嘩の声が聞こえてきた。
父は家を継ぐ男子を得るために、第二夫人を迎えようとしているらしい。
そんな時、コーランの暗誦コンテストに優勝すると賞金1000リヤルがもらえると知る。
コーランは大の苦手のワジダだったが、賞金で自転車を買おうと、迷うことなく立候補する。
宗教クラブにも入りコーランを暗記、美しく暗唱できるよう毎日練習を重ねるワジダ。
そしていよいよ大会当日となり、ワジダは次々とコンテストを勝ち抜いていくが……。


寸評
映画の面白さのひとつに、異文化と接することが出来るということがあると思うのだが、今回はサウジアラビアにおけるイスラム社会の戒律の世界に接した。
映画を見ていて、思わず日本人に生まれていてよかったなあと思ったし、日本女性なら尚更そう感じたのではないかと思う。

映画が進むにつれてサウジアラビアの女性をめぐる厳しい状況が次から次へと描かれる。
女の子が自転車に乗ることもままならないし、異性と遊ぶこともダメだ。
ワジダは全身を覆う黒い服の下にジーンズとスニーカーを着用していて、それが女校長先生や親との間に、軋轢を生んでいく。
さらに、サウジは一夫多妻制で、ワジダの父親は男の子が欲しいらしく、別の女性と結婚するために家を出てしまうことが正当化されているのだ。
母親は反発し悲嘆にくれるが、サウジはそれを受け入れざるを得ない男性社会でもあるようだ。
本来なら暗く重たくなるような世界なのに、そうならないのは、ワジダのはつらつとした日常を通して描いているからで、それがこの映画の魅力でもあると思う。

言ってみれば少女物語、青春物語なのだが、社会背景がここに描かれているようなものであるなら、それが全く違ったものに見えてくる。
ワジダが他の少女と違うのは映画が始まってすぐにわかる。
履物が違い、服装も違うし、態度も優等生ではなさそうなのだ。
しかし、ミサンガを売って小遣いを稼ぎ、密会の取り持ちでは両方から手数料をせしめるチャッカリ屋でもある。
少女は反抗的でもあり、規制に抵抗しているようでもあり、我々の世代で言えば学生運動の闘士のようにも見えてくる。
彼女が社会に対する抵抗運動をしているとすれば、我々がそれを行った年齢に比すると、彼女の年齢は10歳は若いのではないか?
もっとも、あの年齢で婚約者の写真を持っていた子がいたなあ・・・。
所変われば品変わるだなあ・・・。

ラストはこの物語の結末にピッタリで、疾走する自転車のワジダがさわやかな余韻を残して、未来への希望を物語っているようでもあった。
母親の行為、ワジダの笑顔、見送る自転車屋のおやじさんの顔などが、変革を予感させているようでもあった。
自転車が登場するシーンはファンタジックだったなあ・・・。

この映画は理不尽な因習に対するワジダのしたたかな抵抗を通して、サウジ社会が抱える女性たちの生きづらさを浮き彫りにしていたが、前述のように未来への確かな希望を力強く描き出した映画でもあった。
女性映画監督ハイファ・アル=マンスールに拍手!