猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

飢餓海峡

2014-04-24 03:00:49 | 日記
1965年の日本映画「飢餓海峡」。
戦後間もない頃。昭和22年に北海道を襲った台風により、青函連絡船・層雲丸が転覆、
多くの死傷者が出る。函館警察は身元不明の遺体を2体発見するが、それらの遺体は
連絡船の乗船名簿に該当しなかった。
同日、北海道岩幌町の質店に強盗が押し入り、一家を殺害して放火するという事件が
起きた。火は延焼し、町の大半を焼き尽くす大火となった。
函館署の弓坂刑事(伴淳三郎)は、身元不明の2遺体が質店襲撃犯3人のうちの2人であり、
強奪した金をめぐる仲間割れで殺されたと推測する。
同じ頃、青森県大湊の娼婦・杉戸八重(左幸子)は、一夜を共にした犬飼と名乗る客
(三国連太郎)から大金を渡され、驚く。その後弓坂刑事が大湊に現れて八重を尋問する
が、八重は犬飼をかばって何も言わなかった。犬飼にもらった金で八重は家の借金を
清算し、東京へ出ていった。犬飼への恩を忘れることはなく、金を包んであった新聞
紙と、犬飼の爪を肌身離さず持っていた。
10年後、八重はふと目にした新聞の紙面に驚愕する。舞鶴で食品会社を経営する事業
家・樽見京一郎という男の記事の写真を見て、八重は犬飼だと確信する。八重は犬飼
に礼を言うため舞鶴に出掛ける。

水上勉氏の小説の映画化である。182分の大作だが、多少中だるみはあるものの、とて
もおもしろく観ることが出来た。サスペンスとしてもだが人間ドラマとしても一級品
と言えるのではないだろうか。人物造形が良く出来ていて、物語に入り込めた。
モノクロ映画で舞台が戦後間もない頃なので、ずっと陰惨な雰囲気が漂っている。
戦後の日本がいかに貧しかったかを思い知らされ、その当時の人たちのことを思うと
胸が痛くなる。もちろんリアルに知ることは出来ないのだが。
とにかく三国連太郎、伴淳三郎、左幸子の熱演がすばらしかった。この人たち、3人
とも亡くなっているんだなあ。三国連太郎演じる犬飼の人生が哀れだ。極貧ゆえいつの
間にか犯罪に加担してしまうことになり、後に自分を守るために殺人者になってしまう。
殺人は共感出来ないが、犬飼は何のために生まれてきたのだろう、という悲しみが湧い
てくるのだ。
ある刑事が会議の時、「犬飼の生家を見た時、その貧しさに愕然とした。こういう家で
育った人間はどういうふうになるのだろうと思った。罪の意識を持たない人間になるの
ではないかと思った」「犬飼はもっと人間らしく生きたいと思っていたはず」といった
セリフを言うのだが、それらの言葉が本当に悲しかった。
八重という少し頭の弱い女は見ていてイライラした。途中犬飼が登場しなくなって、
八重中心の話になるのだが、それがちょっと長かったと思った。あんなに時間を取らな
くても良かったのではないか。大体礼が言いたいからといって、犬飼が何かして警察に
追われていることを知っていながら、犬飼の正体を知っている自分が会いにいこうと
するものだろうか。
全編に漂う陰惨さと哀しさも含めて、とてもいい映画だった。



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コメント
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