ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

君を想って海をゆく

2010-12-15 13:52:58 | か行
この現状を知らなかったことに
パッと水をかけられたような
衝撃がありました。

「君を想って海をゆく」79点★★★★


フランス最北端の町カレ。

ドーバー海峡を挟んで
イギリスが目の前にあるこの場所に

イラクから3ヶ月間歩き続けてきた
クルド人少年がたどり着く。

彼は恋人のいるイギリスに渡ろうと
ある作戦を思いつき
フランス人の水泳コーチ(ヴァンサン・ランドン)に
泳ぎを教えてもらうが……。



国境の町が抱えるクルド人難民と
彼らを受け入れるか否かで揺れる
フランス人たちの現実を、

実際に起きた出来事をモチーフに
上手にフィクションとしてつづった作品。


社会事情をなんにも知らなくても
わかりやすく
ちゃんとドラマとして楽しめるのがすごい。


実際、番長も
イラクから地続きの
フランスでは当然起こりうることなのに
こんな状況をまったく知らなかった。

まだまだ世の中で起きている出来事に
目を開いてないなと、
思い知りました。


映画にも登場するように
クルド難民を支援するボランティアがいるいっぽうで

難民と関わると罪にもなるので、
現地のフランス人たちは
知らず存ぜずをある意味、強いられている。


その「無関心」や「無視」
ときには「不寛容」な環境のリアリティが
しっかり描かれているので

そんななかで人の善良さが
決してはっきりとした
正義を盾に割りきれるものではないということが
すごくよく理解できます。


主人公の水泳コーチのように
あるときは手をさしのべたり
あるときは無視したり、
矛盾のなかで揺れているんだろうなと。


その揺らぎが映画的には
スッキリしなかったりもするのだけど、
考えてみれば自然なことなんだなあと
思うわけです。


水泳コーチを演じるのは
「すべて彼女のために」で
鬼気と気迫の演技を見せた
ヴァンサン・ランドン。

ちょっとしょぼさの漂う演技で
自分の立ち居地を決めがたい男を
見事に演じていました。


またしても
世の中を教えてくれるよき1本に
出合えたなあという感じ。

ぜひ、見て欲しいです。


★12/18からヒューマントラストシネマ有楽町で公開。ほか全国順次公開。

「君を想って海をゆく」公式サイト
現在発売中の『週刊朝日』ツウの一見で
クルド難民問題に詳しい
勝又郁子さんにお話を聞いています。

いかにこの物語にリアリティがあるか
なぜ地元民が不寛容にならざる得ないのか

背景をわかりやすく解説していただいてますので
こちらもぜひご一読を☆
コメント (2)
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