ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

故郷よ

2013-02-05 21:18:33 | か行

3.11のときに、編集作業中だったそう。
あまりの符号にゾクリとします。


「故郷よ」74点★★★★


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1986年4月26日。

チェルノブイリ近くの平和なプリピャチ村で
新婦アーニャ(オルガ・キュリレンコ)は
幸せな結婚式を挙げていた。

しかし、式の途中で
新郎が仕事に呼び出される。

原発技術者のアレクセイ(アンジェイ・ヒラ)は
6歳の息子と妻を避難させ、プリピャチの街に残る。

そして彼らは
戻ってはこなかった――。

それから10年後。
アーニャの、アレクセイの運命は――?

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チェルノブイリ事故の前夜とその日、
そして10年後を描いた劇映画。

ドキュメンタリーではない形で
現地で撮影されたのは初めてだそうで

人々が最悪の事故によって引き裂かれる様子が、
静かに、しかし毅然としたトーンで写された力作です。


原発事故前の
平穏な日常を送る人々の様子と
その後の対比といい
静かなパニック映画であり、ホラーという感じもする。

「それ」が起こると
木が枯れ、魚や鳥が死に、
住民たちは何も知らされないまま退去させられ、
故郷に帰れなくなる――。

いやでも福島がだぶりますが
本作は3.11直前に撮影され
震災のときに編集中だったそう。

73年生まれの女性監督がこの問題に向き合い、
まさに警鐘を鳴らさんとしていたときの、このタイミングに驚きます。


その土地の動物たちが殺されるのも
見ていられないつらさだけれど
まさしく、我々の国で起こっていることと同じ。
目をそらしてはいけないこと。

さらに
この映画の本領は「事故後」にあるでしょう。

事故前の陽光溢れる美しさから
事故後に対称的にどんよりと曇っていく風景。

同じく人々の表情も
どんより晴れないもので覆われる。

10年後、そこがどうなっているのか。
それは過去からの予言かもしれない。

そして映像にはまさしく
事故により、何かを失い
「さまよってしまった」虚ろな人間の心が、映っているんです。

10年後、その土地に住み着く
意外な人々のくだりも、胸をつかれる感じ。

ドキュメンタリー映画「プリピャチ」(2/22にDVD発売)
併せてみると、さらに深まると思います。


★2/9(土)からシネスイッチ銀座ほかで公開。

「故郷よ」公式サイト
コメント (2)
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