ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

先祖になる

2013-02-15 21:58:27 | あ行

主人公のおじいさんに
リアル“宮沢賢治”を見ました。


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「先祖になる」70点★★★★

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津波の被害にあった岩手県陸前高田市の山里で
流されずになんとか残った家に残り、
自力で暮らしを再建しようとする77歳の木こり老人のドキュメンタリー。

震災後31日めに現地に入った池谷薫監督が
その人に出会い、1年半かけて追いかけたものです。


正直なところ、最初は違和感もありました。

声で“自分”を登場させる方法も
あまり好きではないし

「ボロボロになってしまった小屋でなんとか暮らしている人に
お茶をいれてもらってるよね?いいの?」とか。

実際、監督も
「恥ずかしい話、食事を作ってもらったこともある」と答えているし。

でも監督も
いろいろ考え、迷われたのだと思います。
せめて、と撮影の合間に
がれきの片付けや買い出しなどをお手伝いをしたそうです。

それに
「じゃあ、お前何してたんだよ」といわれれば
返す言葉がないわけで。

なんにせよ
「とにかくこれを撮らねば。そして撮った。」ことの大切さは
観ているうちにじわじわとしみてきます。

それは完全に
主人公となる77歳の佐藤直志さんの力。


話のわからん行政に頼らず、
しかし常に穏やかで

決して怒りにまかせたり、投げやりならず、
地道にこれまでの生活を取り戻そうとする

まさに「宮沢賢治のような」彼に引き込まれていきます。


「自力で生きる術を持つ人間の強さ」と
そしてそういう人でも
「人は一人では生きていけないのだ」ということを
あらためて思う大事な機会でした。


直志さんの言う
「仮設の人たちも、勤労意欲をなくしちゃだめ」の言葉も重いですねえ。

地元の祭を復活させようと
がんばる青年団の姿にはおもわず涙がホロリしますが、

その様子を
青年団と同じ数くらい
大勢のマスコミやカメラが写しているんですわ。

その状況に
またかすかな違和感も覚えたりして。

自分にできることって、何でしょうね。


★2/16(土)から渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「先祖になる」公式サイト
コメント
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