ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

シチリア!シチリア!

2010-12-19 17:44:57 | さ行

ちょっと長かったナ~。

「シチリア!シチリア!」63点★★☆


「ニュー・シネマ・パラダイス」の
ジョゼッペ・トルナトーレ監督が
出身地シチリアを舞台に描いた作品です。


1930年代、シチリアの町バーリア。

羊飼いの少年ペッピーノは
毎日を活き活きと過ごしている。


だがやがて美しいこの地にも
ファシズム支配や
第二次世界大戦などの影が漂い始める。

そんな時代を経て
よき青年に成長したペッピーノは
政治の世界に関わることになり……。


イタリア・シチリアの近代史を
三世代の家族の歴史に重ね
走馬灯のように駆けめぐる2時間37分。


特に序盤は
時間をはや回ししたかのように
テンポよくどんどんストーリーが進んでいき

アワワという
置いてきぼり感がありました。


ただ観ているうちに
あまり筋を追うことなどに
必死にならずとも

シチリアの美しい風景
時代の流れを
風のように感じるまま
身を任せればよいんだな、と
思えてきました。


1956年生まれの
トルナトーレ監督は
28歳までこの地にいたそうで

つまり映画で
主人公ペッピーノの息子にあたるのが
自分なんだと思う。


祖父、父の時代を描き
自分を形成したものを
総まとめしたかった、ということでしょう。


9ヶ月の準備期間にセット建設だけで1年、
そして撮影に1年半という
壮大なスケールからも
その意気込みが伝わってきました。


シチリア、日焼けしそうだけど
行ってみたいな-
ということで。


★12/18からシネスイッチ銀座ほかで公開中

「シチリア!シチリア!」公式サイト
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最後の忠臣蔵

2010-12-17 11:56:47 | さ行

役所広司さんは好きす。

「最後の忠臣蔵」73点★★★

あの忠臣蔵の“知られざる物語”
という設定です。


赤穂浪士の討ち入りから16年。
四十七士には一人だけ生き残りがいた。

寺坂吉右衛門(佐藤浩市)だ。


彼は遺族に討ち入りの真実を伝えるため
諸国を旅してきた。

ある日、旅先で吉右衛門は
かつての同胞
孫左右衛門(役所広司)の姿を見つけて驚く。


孫左右衛門は討ち入り前日に逃亡した
もう一人の生き残りだった。

忠義の鏡のような孫左右衛門は
なぜ逃亡したのか?

やがてその真実が明らかになる……。


忠義の心が意外な角度から描かれ
殺傷沙汰ではない
慈愛のドラマが見どころです。


まあ話が見えてくるまでが
相当に長いんですが(笑)

でも久々にゆったりと
威風堂々とした
時代劇を観た、という感じ。


人形浄瑠璃「曽根崎心中」の刹那に
登場人物の心をダブらせた演出や

スローで丹念なテンポの展開など
外国人や年配者にも好まれそう。


「十三人の刺客」と
対照的なアプローチですが

ともに役所広司主演であることのほか
映像に不思議な符号もあり

まさに双璧をなす印象ですねえ。


こちらのちょっととぼけ感も出してる
役所さんのほうが
個人的には好みだけど。


重要な役どころを担う
桜庭ななみも大健闘す。


年末、大掃除も終えて
ゆったりした気分で鑑賞したいものです。


★12/18から全国で公開。

「最後の忠臣蔵」公式サイト
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君を想って海をゆく

2010-12-15 13:52:58 | か行
この現状を知らなかったことに
パッと水をかけられたような
衝撃がありました。

「君を想って海をゆく」79点★★★★


フランス最北端の町カレ。

ドーバー海峡を挟んで
イギリスが目の前にあるこの場所に

イラクから3ヶ月間歩き続けてきた
クルド人少年がたどり着く。

彼は恋人のいるイギリスに渡ろうと
ある作戦を思いつき
フランス人の水泳コーチ(ヴァンサン・ランドン)に
泳ぎを教えてもらうが……。



国境の町が抱えるクルド人難民と
彼らを受け入れるか否かで揺れる
フランス人たちの現実を、

実際に起きた出来事をモチーフに
上手にフィクションとしてつづった作品。


社会事情をなんにも知らなくても
わかりやすく
ちゃんとドラマとして楽しめるのがすごい。


実際、番長も
イラクから地続きの
フランスでは当然起こりうることなのに
こんな状況をまったく知らなかった。

まだまだ世の中で起きている出来事に
目を開いてないなと、
思い知りました。


映画にも登場するように
クルド難民を支援するボランティアがいるいっぽうで

難民と関わると罪にもなるので、
現地のフランス人たちは
知らず存ぜずをある意味、強いられている。


その「無関心」や「無視」
ときには「不寛容」な環境のリアリティが
しっかり描かれているので

そんななかで人の善良さが
決してはっきりとした
正義を盾に割りきれるものではないということが
すごくよく理解できます。


主人公の水泳コーチのように
あるときは手をさしのべたり
あるときは無視したり、
矛盾のなかで揺れているんだろうなと。


その揺らぎが映画的には
スッキリしなかったりもするのだけど、
考えてみれば自然なことなんだなあと
思うわけです。


水泳コーチを演じるのは
「すべて彼女のために」で
鬼気と気迫の演技を見せた
ヴァンサン・ランドン。

ちょっとしょぼさの漂う演技で
自分の立ち居地を決めがたい男を
見事に演じていました。


またしても
世の中を教えてくれるよき1本に
出合えたなあという感じ。

ぜひ、見て欲しいです。


★12/18からヒューマントラストシネマ有楽町で公開。ほか全国順次公開。

「君を想って海をゆく」公式サイト
現在発売中の『週刊朝日』ツウの一見で
クルド難民問題に詳しい
勝又郁子さんにお話を聞いています。

いかにこの物語にリアリティがあるか
なぜ地元民が不寛容にならざる得ないのか

背景をわかりやすく解説していただいてますので
こちらもぜひご一読を☆
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バーレスク

2010-12-14 12:02:25 | は行
クリスティーナ・アギレラの
腹の底から出てくる歌声、
マジすごいっす――!


「バーレスク」84点★★★★


これぞミュージックエンターテインメント!という
楽しさと興奮に満ちた映画です。


田舎娘アリ(クリスティーナ・アギレラ)は
歌手を夢見てロサンゼルスへ。

バーやクラブで仕事を探すが
なかなか見つからない。

そんなとき、出合ったのが
“バーレスク”。

そこはバーでもストリップでもない
ステージパフォーマンスを魅せる
オトナの社交場だった。

経営者テス(シェール)の歌声に
魅了されたアリは
ウェイトレスとしてバイトを始める。

そんなアリについに
チャンスが巡ってきた――!?



パッとしない田舎娘が
ステージで歌い出すあの瞬間――
もう思い出すだけで、マジ鳥肌立ちます!


期待通り、体が動き
汗と情熱がほとばしっちゃう
エンターテインメント。


曲数もステージングもたっぷりで

若い娘たちの群舞の迫力とか
なんか
AKB48のパフォーマンスから
つい目が離せなくなっちゃう感じに似てますねえ。←オヤジ(笑)。


日常生活で突然歌い出すような
ミュージカルではなく

歌と芝居の世界がちゃんと
分かれてるのもいい。

しかし
シェール(64歳?!)の若さもすごいけど
え?アギレラって、もうすぐ30?

見えない~ピッチピチ~
意外!


さらに田舎娘をサポートするのが
「プラダを着た悪魔」と似たような
カマキャラの
スタンリー・トゥッチなんですから!

んもう、ツボ心得てるっ!


★12/18から丸の内ルーブルほか公開

「バーレスク」公式サイト
コメント (2)
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バスキアのすべて

2010-12-13 14:22:36 | は行
昔観た「バスキア」(1996年)より
断然おもしろかったですねえ。

「バスキアのすべて」79点★★★★


1970年~80年代の
NYアートシーンを駆け抜けた
画家バスキアのドキュメンタリーです。


17歳で彗星のごとく現れ
あのウォーホルやマドンナらに
可愛がられた彼が

27歳でこの世を去るまでを

バスキア本人のインタビューや
制作風景を織り交ぜて綴った
非常に貴重なフィルム。


というのも本作は
当時バスキアの友人だった
タムラ・デイビス監督(女性)が撮影したもの。

彼の突然の死でそのままになっていたものを
20年以上経て公開したそうです。


当事者が
70~80年代のアートシーンの熱気を
「いまだから振り返られる」という
客観性があり

またきらめく才能がどのようにして
世に出ていくものなのかがわかって
実におもしろい。


そしてバスキアの落書きのようなアートが
どうやって生み出されるのか
(決して、テキトーにあらず!)

その方法論と制作方法が
本人の言葉と

さらに評論家の解説で
とてもわかりやすく解き明かされている。


ゆえにきちんとした
“美術評論”でもあるところが
本作の素晴らしいところなのです。

彼の作品を
「現代を読みとくメッセージだ」と評する
老評論家の鋭い解説に
しびれました。

評論家って、すごいなぁ。

こうありたいものですねえ。

ちなみに
「バスキア」(96年)を監督したのは
「潜水服は蝶の夢を見る」(07年)のジュリアン・シュナーベル。
彼もインタビューに答えており

なぜバスキアの映画を撮ったか
話しています。

それを見ながら
シュナーベルがこの時代
超人気アーティストだったことも
改めて思い出した次第です。


★12/18からシネマライズで公開。ほか全国順次公開。

「バスキアのすべて」公式サイト

毎度おなじみ『週刊朝日』ツウの一見で
なんと写真家の操上和美さんに
この映画についてお話を伺いました。

当時、NYで活躍していた操上さんにとっても
バスキアの創作風景などは新鮮だったそう。

12/21発売号で掲載予定と思います。
お楽しみに☆
コメント (2)
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