ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

人生、ブラボー!

2013-01-23 23:32:19 | さ行

『週刊朝日』の★取りで
男性と女性の評価が真っ二つなのが笑えた。

ワシはどうかって?
あ、一応“女性”票で・・・(笑)


「人生、ブラボー!」71点★★★★


****************************

2011年、カナダ。

42歳、独身のダヴィッド(パトリック・ユアール)に
ある面倒が巻き起こる。

23年前、彼は小遣い稼ぎに
693回の精子提供を行ったのだが

病院側がそれを大勢に提供し
彼の遺伝子を持つ、533人の子どもが生まれ(!)

さらに、そのうちの142人に
「身元を開示せよ」と訴訟を起こされたというのだ!

「そんなの知るか!」とシカトを決め込むダヴィッドだが
好奇心を抑えられず、
自分の子どもたちにこっそり会いに行くことに――。


****************************

まず題材のおもしろさに加点。

気の効いたセリフで笑わせて
のちホロリもいい。

ただ
全体にもっさり垢抜けないところがあり(特に編集かな)
無駄に長い感じが、ちょっと惜しいですねえ。


子どもたちから、なぜ彼が訴えられるのか?も
イマイチよくわからないんだけど、

まあそこはさておき、
借金ありの中途半端なダメ人間である主人公は
遺伝子上の自分の子どもが少し気になり始め

くじ引きのように一人一人のプロフィルをひいては
こっそり会いに行ってみる。


なかにはプロのサッカー選手がいたりと
けっこう嬉しいこともあり

名乗り出ることは出来ないけれど
主人公自身も彼らと触れ合ったり、知り合ったりすることで
人間的に成長していく・・・という展開。


言ってみれば“兄弟姉妹”な大勢の若者たちが
集まって団結しちゃったりする描写も
けっこう斬新で(笑)

まあフツーに楽しめたけど
男の人にとっては、タネをネタにされる点も含め
どこか引っかかるとこがあったりするのかしらん。

ワシにはわからんけどね。


★1/26(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「人生、ブラボー!」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みなさん、さようなら

2013-01-22 21:07:51 | ま行

団地、好きなんです。

「みなさん、さようなら」75点★★★★


*****************************

1981年。

小学生の悟(濱田岳)が住む団地は
肉屋にケーキ屋に薬局と、生活に必要な全てが揃う
“便利な街”だ。

そして小学校を卒業した悟は、
「この団地から一歩も出ないで生きてゆく」と決める。

隣に住む美人の優等生(波瑠)は
「そんなの無理だよ」と言うが――?!

*****************************


「ゴールデンスランバー」「ちょんまげぷりん」(傑作!笑)の
中村義洋監督の新作。


笑いと軽やかさはいつもどおりですが
今回は
いつもより重くどしんと強く感じるものがある。

一段、深く潜った感じがしますね。


なぜ主人公が団地から出なくなるのか?

最初は説明ナシなのですが
のちに明らかになると

これが
いきなりスッと温度が下がるような理由だったりするし。

現在の団地が抱える社会問題なども
とても上手に組み込まれている。

でも全体に淡く、優しいです。


相当に変わった主人公が
意外と女に不自由しないところとかドリーミーだし(笑)

同級生たちが居酒屋じゃなく
団地の集会所で同窓会を開いてくれたりとか。

そんな優しさに囲まれて
悟は
「ずっとこのままが続けばいいのに」とつぶやくわけですが


居心地のいい場所とは、「ぬるま湯」であり、呪縛である。
人は誰も、そこから出て、大人にならねばならぬのだ。

――というお話ですね。


で、番長は相当な団地好きなんですが、

宣伝会社の人に
「なんで好きなんですか?」と聞かれて
ハタ、と考えた。

・・・なんでだろ?
子ども時代、厳密には“団地”じゃないけど
住んでたマンションコミュニティーがほとんど団地だったし

ずっと団地に住みたいし

実際、いまも団地のようなマンションを
選んで住んでるし(笑)


ノスタルジーもあるけど

合理主義の象徴であり、
しかし人間関係も衣食住も、全てが凝縮され
狭い輪のなかで事足りてしまうという
ある種の世界のいびつさ……が理由かな。

大友克洋や岡崎京子も題材にしてるじゃないすか。
あの世代を、生きてきましたからね。

★1/26(土)から全国で公開。

「みなさん、さようなら」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ストロベリーナイト

2013-01-21 22:54:46 | さ行

昨日の「八重の桜」Twitterで大騒ぎでしたねえ。
西島秀俊氏って、人気あるんですねえ。

「ストロベリーナイト」70点★★★★


*****************************

警視庁捜査一課の姫川玲子(竹内結子)のもとに
事件の一報が入る。

被害者は龍崎組傘下の構成員の若者で
左目が縦に切り裂かれていた。

手口が数日間におきた2つの事件と符号することから
警察は連続殺人事件とみる。

そんななか、玲子は偶然
あるタレコミを受けるが――。

*****************************


誉田哲也氏原作で
2010年にスペシャル版が、12年には連ドラが放映された
人気シリーズなんだそうです。

ワシ、
名前は知ってたけど、観るのは初めて。

で、人気がなるほどなっとく。
竹内結子氏演じる姫川の
竹を割ったようなキャラが爽快。


ヤクザの内部抗争というハードな題材ながら
一歩も引かないし

にらみも効き、キビキビと歩き
裏に過去の苦しみを抱えている。


個人的にも昔好んで読んでた
海外ミステリで活躍する女探偵とか検死官とかを思い出せて
気持ちよかったですね。


さらに
彼女をあくまでも陰からサポートする西島秀俊氏との
対比の妙。

この構図は
女子にも好まれそうだなあ。


ほかの男連中も、彼女を上司としてちゃんと敬い
サポートしてくれてさ。
(現実には「ありえねー」な感じだけど・・・まあ竹内結子だったらありか。笑)


全編、常にド雨な映像も迫力で
ラストがより引き立つという。

ちょっと血や扇情的な描写は多いけどね。


ドラマ未見でも問題ないし

「そたい」とか「そいち」とか
専門用語がわからないことくらいかな。


★1/26(土)から全国で公開。

「ストロベリーナイト」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日

2013-01-20 01:50:14 | ら行

想像するどんな“動物モノ”とも違いました。
やっぱりアン・リー監督、だからですかね。


「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」3D版 71点★★★★


*****************************

カナダ、モントリオール。

あるライター(レイフ・スポール)が
「おもしろい話が聞けるよ」と紹介され
インド系カナダ人のパイ(イルファン・カーン)を訪ねる。

パイが彼に語り始めたのは、
16歳の自分(スラージ・シャルマ)が経験した
途方もない冒険話。

それは少年がトラと漂流した227日間の物語だった――。

*****************************


アカデミー賞11部門ノミネートの話題作。
(音楽&視覚効果賞は、いけるんじゃないかな・・・)


しかし
異常な動物好きとして
「悲しい話なんじゃないの?」と正直、敬遠していたんです。
心ちぎれるの、いやなんだんもん。


でも、この映画は
想像するどんな「動物もの」とも違っていました。

まず
冒険が始まるまで30分以上かかります。
長いです(笑)

主人公の少年とトラが島に漂着するのかと思ったら
ホントに海の上で「漂流」してる。


そして安易に思いがちな
「トラと少年の間に絆と友情が・・・」なんて
ファンタジーに足を突っ込んだような
甘っちょろさは一蹴され
そのへんは実にシビア。

それでも残酷な描写などはうまく避けられており、
見やすい。

シビアな現実と“嘘みたいな”寓話性の融合。
そしてそれを裏付けるスケール感と映像美。


これがディズニーの動物モノだったりしたら
まったくこうはならないだろう、という感じで
一筋縄ではいかなさ加減は、さすが
アン・リー監督、なのでしょうね。


なにより映像がキレイ!
3Dなのに明るい!

夜行生物で光輝く夜の海やクジラ遭遇シーンなど、
リアリティあるんだけど
ファンタジックに美しくもあり、
ネイチャー系の美映像が好みな方には大いにおすすめです。

お話も
「なさそうで、ありそうで、やっぱりない?」と
ちょっと不思議な味わいが残りました。


お子さんのいる方に
「見せて大丈夫?」と聞かれましたが
まったくもってOKだと思います。

動物が生き生きと描かれ、
嵐のなかをゆく小舟などアトラクションなみの迫力だし、
残酷すぎず、少しだけ考えさせる。


ただ、ラストも余韻も含め
どちらかといえば大人向けかなと思います。

また、長すぎるのは否めません。
冒頭20分は優に削れそうなので
そこは惜しいです。


1/25(金)から全国で公開。

「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カラカラ

2013-01-19 21:26:27 | か行

外国人が日本に持つエキゾチシズムが
いいほうに作用した好例。

「カラカラ」70点★★★★

************************

教授職をリタイアし、沖縄に気功のワークショップにやってきた
初老のカナダ人男性ピエール(ガブリエル・アルカン)。

那覇で道に迷っていた彼は
英語を話せる純子(工藤夕貴)に助けられる。

そして純子は
ピエールの沖縄見聞旅につきあうことになり――?


************************

沖縄を舞台に
カナダ出身監督が描く、
カナダ人オヤジの自分探しムービー。

沖縄といえば・・・をあらかじめイメージしている我々にとって
冒頭に登場するホテルをはじめ(ロケ、どこかな・・・)

静かで洗練されたオキナワの姿に、一瞬ハッとする。

ミニマルで禅的な美しさのとらえかたは、
やはり外国人ならではのセンスでしょう。

街で声をかけてきた日本人女性(工藤由貴)とアッサリ寝て(苦笑)
DV夫から逃げる彼女を助けて・・・・・・と、
一見、ベタっぽい異邦人のモラトリアム映画なのに、

主人公の異文化への感動や畏怖が
ものすごく素直に映っているので
意外にスッと入ってくる。

米軍の存在についても
自然に、でもちゃんと気にして描いているし

芭蕉布に興味を持ち、骨董のやちむん(焼き物)を愛でるなんざ、
なかなツウだねおっさん(笑)

そして
「自分は何をしたいのか」「何を見つけたいのか」と、
異国をさ迷う主人公は
結局最後に「自分」を見つけるのだ。

それは
カナダ出身で、20代を日本で過ごし、
沖縄に家も持ってるらしい
監督の心の旅そのものかもしれません。

工藤夕貴氏が、ふっくらと健康的で気持ちよい演技。
英語も上手だし。


久々に沖縄をフラフラしたくなりました。

ちなみにカラカラとは
沖縄の泡盛を注ぐ酒器のことです。


★1/19(土)から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「カラカラ」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする