ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

マーサ、あるいはマーシー・メイ

2013-02-20 23:03:58 | ま行

これも実によくできた映画です。


「マーサ、あるいはマーシー・メイ」77点★★★★


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ニューヨーク州北部の、牧歌的な農場で
男女が共同生活をしている。

しかしある早朝、
マーサ(エリザベス・オルセン)が
その農場から逃げ出した。

マーサは疎遠だった姉(サラ・ポールソン)に連絡を取り、
彼女とその夫の別荘に居候する。

だが、久しぶりに会うマーサは奇行を繰り返し
姉夫婦を戸惑わせる。

マーサもまた
逃げ出してきた“あの場所”の記憶に苦しめられることに――。

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「ブラック・スワン」のスタジオが手がけた作品。

平和なのに、ミステリアス。
心理ホラーとも言える作品で
いや~
明るい昼間の映像なのにめちゃくちゃ怖い(笑)

でも見応えがある!

オススメ映画です。


農場で暮らす平和そうで、どこか奇妙な男女のコミュニティ。

実はそこはカルト集団で
リーダーの絶対支配のもと、悩める若者が集う場所なのだ。


そこから逃げだし、姉の家に逃げたマーサの現在と、
カルト集団にいた時期の回想シーンが
自然に、実にうまく繋げられていてお見事。


彼女がカルト集団に行くまでの背景は語られないけれど

姉みたいに“ふつう”に生きられず
自分の存在を認められない
悲惨な道筋だったことは想像できて、

カルト集団のリーダーはそこにつけ込み、
彼女に社会のなかでの「役割」を与え、
「あなたは必要な人だ」と自己肯定をさせることで、
逃れられぬマインド・コントロールするという。

怖っ。

だってそんなの
弱ったり、迷ったりしている人、特に若者なら
誰でも、いくらでも陥りそうな状況じゃないですか。

実際の事件とかも、いろいろ想起させるし。


そして
逃げ出しても、次第に追い詰められていく
主人公の苦しみを感じながら

「早くこの苦しみから開放してくれ!」と
思いつつ、そのハラハラを堪能しました。

演じるエリザベス・オルセンが
本当にハマリ役で

このまっさらな若さと無自覚な色気に溢れた
彼女でなければ、この映画は成り立たなかったでしょう。

あの無防備な唇と胸元・・・
真打ち“ポスト・スカヨハ”な気がしますわ(笑)


★2/23(土)からシネマート新宿ほか全国順次公開。

「マーサ、あるいはマーシー・メイ」公式サイト
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横道世之介

2013-02-19 21:59:08 | や行

2時間40分、ぜんっぜん辛くなかった。
もっと世之介といたかった。


「横道世之介」79点★★★★


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1987年、春。

18歳の横道世之介(高良健吾)は
大学進学のために、長崎から上京してきた。

大学でなぜかサンバサークルに入ったり、
一見とっつきにくそうな同級生(綾野剛)に
平気で声をかけたり、

フツーでいて、しかし不思議な“味”を持つ世之介は
様々な人と関わり、大学生活を送っていく。

ある日、世之介は
お嬢様ふうの祥子(吉高由里子)と出会うのだが――。

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試写室で人がブッと盛大に吹き出すのを
久々に聞きました(笑)


「キツツキと雨」も好きだったけど沖田修一監督、いいですねえ!

ホントにささやかなる、
しかし「ピン!」ときさせまくりの描写がうまい。

冒頭、斉藤由紀のAXIAの看板で(若い人、知らんでしょ。笑
テロップなしに、80年代が舞台であることを
静かにバーンとわからせて。

長崎から出てきたフツーの青年、世之介の
人懐っこく、スルリと人の懐に入っていく様を

すいすいと描いていく。

派手な事件が起こるわけでなく、
だれもが通ったような道を、繊細で温かなまなざしで描き、

見る人、誰もを優しさで包んでく。


見ていくうちに世之介は、誰もにとって
お人好しで、フツーで、
感じよくて、かけがえのない存在になっていき

そこに彼がいるだけでクスクス、ニッコリしてしまう。

演じる高良健吾がすごくいいね!


この先の予感に胸がキュッとなりますが
「彼に会えたことが嬉しい」と、心から思える、
そんな時間を過ごせると思いますよ。


映画が先だったので
見た後、原作を読もうと思ったけど
最初の数ページで「あ、映画と一緒だ!」と
なんか逆に保留中(笑)

原作ファンも必ず、納得できると思います。


★2/23(土)から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「横道世之介」公式サイト
コメント (4)
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世界にひとつのプレイブック

2013-02-18 13:51:48 | さ行

さあアカデミー賞で
どう動くでしょうねこれは。


「世界にひとつのプレイブック」73点★★★★


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妻の浮気で心のバランスを崩した
パット(ブラッドリー・クーパー)は

教師の仕事も失い、妻にも出て行かれてしまった。

妻とヨリを戻したい彼は
頭と身体を鍛えて“理想の男”になることを決意。

しかし、同居する
父(ロバート・デ・ニーロ)と母(ジャッキー・ウィーヴァー)の心配どおり
その思いは空回り気味だ。

そんなときパットは
近所に住む女性ティファニー(ジェニファー・ローレンス)と出会う。

しかし、彼女もちょっと、いや
かなり変わっていて――?!

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「ザ・ファイター」の
デヴィッド・O・ラッセルが監督&脚本。

「ちょっと病んでる人の物語」はいまどき珍しくないけど
本作は
主人公パット自身の視線を追うような、
ラフなカメラワークが秀逸。

それが笑いを生み、作品に力を与えてる。

パットを取り巻く人々との距離感もリアルに伝わり、
例えば彼に応対した相手が
「この人ビミョー・・・」とか「まずった・・・」とか思う
その気持ちが顔にモロ出ちゃってるところとか(笑)

逆に「ドキッ」としちゃう瞬間などが
触れられそうに生き生きと感じられて
おもしろいんです。

撮影は日本生まれのマサノブ・タカヤナギ。
「バベル」の第2班も担当してるそうです。

でもって
本年度のアカデミー賞では
作品賞・監督賞・主演&助演賞と主要部門にすべてノミネート。

正直「そこまで『おお!』か?」って感じはありますが(笑)
それでもラスト、発表会での高揚は
「リトル・ミス・サンシャイン」以来の「うしっ!」で、
おすすめできます。

賞では番長、
パットの母親役ジャッキー・ウィーバーが
助演女優賞に値すると思いました。

★2/22(金)からTOHOシネマズシャンテほか全国で公開。

「世界にひとつのプレイブック」公式サイト
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先祖になる

2013-02-15 21:58:27 | あ行

主人公のおじいさんに
リアル“宮沢賢治”を見ました。


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「先祖になる」70点★★★★

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津波の被害にあった岩手県陸前高田市の山里で
流されずになんとか残った家に残り、
自力で暮らしを再建しようとする77歳の木こり老人のドキュメンタリー。

震災後31日めに現地に入った池谷薫監督が
その人に出会い、1年半かけて追いかけたものです。


正直なところ、最初は違和感もありました。

声で“自分”を登場させる方法も
あまり好きではないし

「ボロボロになってしまった小屋でなんとか暮らしている人に
お茶をいれてもらってるよね?いいの?」とか。

実際、監督も
「恥ずかしい話、食事を作ってもらったこともある」と答えているし。

でも監督も
いろいろ考え、迷われたのだと思います。
せめて、と撮影の合間に
がれきの片付けや買い出しなどをお手伝いをしたそうです。

それに
「じゃあ、お前何してたんだよ」といわれれば
返す言葉がないわけで。

なんにせよ
「とにかくこれを撮らねば。そして撮った。」ことの大切さは
観ているうちにじわじわとしみてきます。

それは完全に
主人公となる77歳の佐藤直志さんの力。


話のわからん行政に頼らず、
しかし常に穏やかで

決して怒りにまかせたり、投げやりならず、
地道にこれまでの生活を取り戻そうとする

まさに「宮沢賢治のような」彼に引き込まれていきます。


「自力で生きる術を持つ人間の強さ」と
そしてそういう人でも
「人は一人では生きていけないのだ」ということを
あらためて思う大事な機会でした。


直志さんの言う
「仮設の人たちも、勤労意欲をなくしちゃだめ」の言葉も重いですねえ。

地元の祭を復活させようと
がんばる青年団の姿にはおもわず涙がホロリしますが、

その様子を
青年団と同じ数くらい
大勢のマスコミやカメラが写しているんですわ。

その状況に
またかすかな違和感も覚えたりして。

自分にできることって、何でしょうね。


★2/16(土)から渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「先祖になる」公式サイト
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ダイ・ハード/ラスト・デイ

2013-02-14 20:15:43 | た行

公開日の今日の朝まで
情報解禁NGだったんですよ。

どんだけー(笑)

「ダイ・ハード/ラスト・デイ」64点★★★☆

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“ツイてない男”こと
NY市警のジョン・マクレーン(ブルース・ウィリス)。

今回の“ツキのなさ”は
息子の不祥事から始まった。

長らく音信不通だった
息子ジャック(ジェイ・コートニー)が
なんとモスクワで逮捕されたというのだ。

「いったい、何をやらかしたんだ」――とボヤきつつ
モスクワにやってきたマクレーン。

しかし、というか
やはり、というか

もっと思いがけない展開が彼を待っていて――?!

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大ヒットシリーズの5作目。

1988年から始まってるんですから、
ブルース・ウィリス、25年間ジョン・マクレーンやってんですから

いや、もう、それだけで素晴らしいし
嬉しいですよね(笑)


今回はマクレーンの息子が登場。

なにかをやらかしてモスクワで逮捕され
「このドラ息子が!」と思ってきてみたら
実は息子は秘密捜査官になっていた!という
実の親子にあるまじき、このざっくりさ(笑)

で、悪態をつきながらも
しかたなく相棒になり、一緒に暴れまくる。


どんだけ車潰すんだー!どんだけ火薬使うんじゃー!
アクションエンタテイメントの原点に帰るようなド派手さ。

格別に「ほお」という話じゃないけど
中身も難しくなく
98分っていうのがいい。

マクレーン刑事もさすがに「もうオレも歳だよな」と
ボヤきネタが多くなってますが

そんな彼が半袖白Tになってくれると
やっぱり「キター!」と盛り上がるもんです。


息子役のジェイ・コートニーは
「アウトロー」で話の鍵を握る、あのスナイパー役の彼。

本人が両作を見比べてたとしたら

廃墟のような場所での撃ち合いとか
似たようなシーンあるけど、
まあ、一口に「アクション映画」って言っても
ずいぶん違うもんだなあと

改めて思うんじゃないかしらん、とか
勝手に思ったりして(笑)

★2/14(木)から全国で公開。

「ダイ・ハード/ラスト・デイ」公式サイト
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