中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

良い精神科医とめぐり合うには

2012年11月30日 | 情報
普段、お付き合いのない精神科医を、どうやって、どういう基準で選ぶかは、
精神疾患り患者本人や家族にとって重大な問題です。
早期発見・早期治療は、当然のこと、正しい診断・正しい治療が何よりも重要なことだからです。
以前にも、「北里大学医学部精神科学主任教授、北里大学東病院副院長、
医学博士 宮岡 等先生の講演より、精神科医の選び方と利用の仕方を紹介しました。

しかし、精神科専門医の先生には申し訳ないのですが、
現状は、自分にあった、的確な診断・治療をしてもらえる精神科専門医にめぐり合えるのは、
本当に難しい問題のようです。
さらに、精神科専門医は、大うつ病、双極性障害、適応障害、統合失調症等疾病別に専門化しています。
誤診があると、回復が遅れますし、薬害にもつながります。
精神疾患り患者本人や、支援する家族、さらには支援団体のみなさん、
主治医は、とことん納得のいくまで、慎重に選択してください。
そのためには精神科医を何回か変えることになっても躊躇しないでください。

参考までに、宮岡先生の提言を再掲します。
第107回日本精神神経学会学術集会 
北里大学医学部精神科学主任教授、北里大学東病院副院長、
医学博士 宮岡 等先生の講演より

A、はじめて精神科にかかったとき、以下のような場合には主治医(精神科)以外の意見を求めた方が良い
1)最初から同系統の薬剤が2剤以上処方されたとき
2)自記式アンケートの結果だけで診断しているかのようなとき
3)うつ病症状だけ質問したのち、「抗うつ薬をのんで休養をとれば治る」と説明されたとき
4)副作用について説明がなかった、あるいは副作用がないと説明されたとき
5)(施設の事情がありうるが)夜間や休日は一切対応できないと説明されたとき
6)(医師の事情がありうるが)主治医が「日本精神神経学会精神科専門医」でないとき
 ・心身医学会、心療内科学会専門医は専門が異なる
 ・心療内科だけ標榜している精神科医もいる
 ・若い医師は取得していないことがある

B、精神科で治療を続けているとき、以下のような場合には主治医(精神科)以外の意見を求めた方が良い
1)悪くなったと言うと薬がどんどん増えるとき
 症状悪化の場合、疾患の増悪、薬の副作用や退薬症状も要検討
2)同系統の薬剤が3種類以上処方されているとき
3)長期間の精神療法やカウンセリングでも改善しないとき
 精神科医の診察は不可欠、カウンセリングと精神科治療は区別

C、大切なこと
1)よく主治医に尋ねてほしい。質疑を通した信頼関係が不可欠
2)医師が説明するのを拒否したり、質問しにくいような雰囲気になるなら、別の医師の意見を聞くことも考慮

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「まずは元の職場への復帰」パート2

2012年11月29日 | 情報
精神疾患り患者が病状が回復して職場復帰する場合、復帰先は、「元の職場」が一般認識になっています。
これは、厚労省が策定した「職場復帰支援の手引き」に、「原則として、元の職場に復帰させる。」と記載されていることによります。
実務的なセミナーにおいて講師は常識というようなニュアンスで解説されますし、親切な対策本にも記載されています。

厚生労働省:「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き 」
ア「まずは元の職場への復帰」の原則
職場復帰に関しては元の職場(休職が始まったときの職場)へ復帰させることが多い。
これは、たとえより好ましい職場への配置転換や異動であったとしても、
新しい環境への適応にはやはりある程度の時間と心理的負担を要するためであり、
そこで生じた負担が疾患の再燃・再発に結びつく可能性が指摘されているからである。
これらのことから、職場復帰に関しては「まずは元の職場への復帰」を原則とし、
今後配置転換や異動が必要と思われる事例においても、まずは元の慣れた職場で、
ある程度のペースがつかめるまで業務負担を軽減しながら経過を観察し、
その上で配置転換や異動を考慮した方がよい場合が多いと考えられる。
ただし、これはあくまでも原則であり、異動等を誘因として発症したケースにおいては、
現在の新しい職場にうまく適応できなかった結果である可能性が高いため、適応できていた以前の職場に戻すか、
又は他の適応可能と思われる職場への異動を積極的に考慮した方がよい場合がある。
その他、職場要因と個人要因の不適合が生じている可能性がある場合、
運転業務・高所作業等従事する業務に一定の危険を有する場合、元の職場環境等や同僚が大きく変わっている場合などにおいても、
本人や職場、主治医等からも十分に情報を集め、総合的に判断しながら配置転換や異動の必要性を検討する必要がある。

ですから、お会いする企業の人事労務担当の皆さんから、「復職させるのは、元の職場」ですよね、と確認を求められます。
実際はどうなのでしょうか?
職場復帰支援が制度化されている企業は、調査結果では57.5%であるが、制度化している企業において、
具体的には、どのような支援策があるのかという質問(複数回答)に対して、
「配置転換(休職前の部署と異なる部署への異動)」を実施していると回答した企業の割合が68.3%にも上っています。
3分の2以上の企業が、「職場復帰支援の手引き」とは異なる対応をしています。
労務行政研究所 2010年企業のメンタルヘルス対策に関する実態調査https://www.rosei.or.jp/research/pdf/000008212.pdf

実務では、当然の結果と考えてよいでしょう。
推測ですが、「元の職場」では困ることがあるのでしょうね。
例えば、物流部門で配送車の運転手だった、工場の生産ラインで製品の検査をしていた、
業務が2直3交代のシフトだった、なんて言ったら困りますよね。
だから、同じ事業所、同じ部門でも、少しだけシフトするといったように。

従って、上記の調査でも、前職とは少しでも異なる仕事に就くことになれば、
「配置転換(休職前の部署と異なる部署への異動)」を実施していると回答することになり、
結果として、このような高い数値になったのでは考えています。

ところで、「元の職場」の定義をどのように解釈されていますか?

結論としては、最大限で「元の事業所」、最小限で「元の職務」ということになるでしょう。
例えば、「元の事業所」が、1万人規模で、本社機能、生産機能、物流機能等が統合されているような場合は、
それぞれの事業部(機能)が「元の事業所」と考えましょう。
例えば、工場のような生産機能のみであれば、
工場には、生産・仕上げ・原材料の購入・物流・管理・人事・労務等たくさんの業務がありますが、
全体を「元の事業所」と考えてもよいでしょう。ですから、「元の職場」も、この場合かなり広いと解釈できます。

一方で、「元の職務」ですが、「元の職務」に限定する必要はないでしょう。
例えば「A事業所B事業本部C事業部D本部E部F課G係H担当」であれば、
「H担当」に戻すのではなく、「E部」くらいに復職先の対象を広げても構わないでしょう。
「元の職場」とは、当該者の職場復帰が可能になるのであれば、
当該者の希望を織り込みながら、企業・組織の実態に合わせて、柔軟に考えてもよいということでしょう。

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どこまで介入すべきか

2012年11月28日 | 情報
大うつ病を初めとする、企業におけるメンタルヘルス問題は、深刻さを増しています。
なぜか、多くの経営層は、不況下における経営立て直しに心を奪われているから、メンタルヘルス問題への関心が薄いのです。
特に、中小企業の場合は、経営層が決断しないと、実行には移せない構造となっています。

しかし、一部企業においては、反対に人事労務部門の過剰介入といってもよいほどの動きも目立ちます。
(社)日本精神保健福祉連盟 常務理事の大西守先生は、「企業はリハビリ施設ではない」と断言されています。
もちろん、大西守先生は、同時に復職支援の重要性も訴えていらっしゃいます。

要するに、「企業が、医療領域にまで踏み込んだことをする、すなわち過剰介入である。」と力説されています。
まったく同感です。
やらなければならないことをやらないで、やらなくてもよいことをする、ということですね。
既に、常識的な考えになっている、「事例性と疾病性」に例えると、企業の人事労務部門は、
「事例性」にこだわらなければならないのに、「疾病性」のほうに、どうしても目が向いてしまうということなのでしょう。

病気のことは、あくまでも休職者、または精神疾患り患者が自己責任において治療しなければならないのに、
会社が、あの病院を受診しろと指示するとか、リワーク施設に通所することを義務付けるとか、ということですね。

日本を代表する企業の中には、休職前のパフォーマンスを発揮できるようになったら復職を認めます、というのみで、
復職支援制度なんて、まったく関係はありませんという有名企業もあります。
しかし、ここまで割り切ると、争いになった場合、不利になる可能性があります。

結論です。休職発令時や、休職中は、主治医と休職者に任せ、会社は具体的な「指示」をしないことです。
することは、連絡を絶やさないこと、言いたいことはアドバイスに止めること、正しい、的確な情報提供をすること、等です。

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御社の試し出勤制度は適法ですか?

2012年11月27日 | 情報
東京精神神経科診療所協会理事で、石井メンタルクリニック院長の石井一平先生は、
「試し出勤制度は、患者から有効という意見が圧倒的だ」と述べられています
(東京精神神経科診療所協会主催 産業メンタルヘルス研修講座 対象は、精神科専門医・産業医・保健師等 平成24.11.17開催)。

「試し出勤制度」は、MH疾患者が職場復帰するうえで、必須のシステムと云ってもよいでしょう。
厚労省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」においても、
「試し出勤制度」の重要性が説かれています。
しかし、今や「バイブル」化した「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」には、
具体的な方策は提示されていません。ですから、企業は、この手引きを参考にしながら、自社にふさわしい
「試し出勤制度」を制定することになります。
当然に、各社まちまちの「試し出勤制度」が出来上がります。そして、この制度が果たして、適法なのか、
違法なのかが問われることになります。違法が疑われる場合には、トラブルに繋がる可能性があります。
専門書や雑誌の特集、また、どのようなセミナーにおいても講師の先生は、慎重に、適法かどうかを考慮しながら
制度設計しなければなりません、と解説します。ところが具体的には、各社が研究してくださいと言われるだけです。
そこで、企業の担当者は、一生懸命に考えて制度設計します。

結果、どうなるか。目を疑いたくなるような、「試し出勤制度」が出来上がります。
例えば、休職中の従業員に、練習と称して、仕事をさせるような制度をよく見ます。

休職とは、定められた期間を限度にして、従業員としての身分を維持したまま、
私傷病の治療・療養を続けるために業務を中断することであります。
解雇すべき事由がありながら、解雇を猶予する制度でもあります。
ですから、休職中は「労働者性」はありませんし、当然に労災保険は適用外です。
この休職者に仕事をさせるということは、会社の指揮命令下におくのですから、「労働者性」が発生します。
すなわち、会社側も従業員側も、まったく意識しないうちに、会社は休職者を復職させたことになります。
まったく矛盾した対応になります。

今のところ、労組もメンタルヘルス問題には、さほど関心がないように見受けられますし、
知識も不足しているように感じますので、トラブルは少ないようですが、早晩に問題化するのは必至と考えます。
また、企業の顧問弁護士の先生も、労働法の専門家は少ないのが現状です。
ましてや、中小零細企業では、顧問弁護士との契約などは覚束ないでしょう。

詳しくは、拙著『中小企業の「うつ病」対策』をお読みください。
また、相談は、橋本社会保険労務士事務所 s-hahsi@ya2.so-net.ne.jpまで。
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リワークの必要性

2012年11月26日 | 情報
労働者が長期間、会社を休職して療養すれば、メンタルヘルス疾患に限らずやはり体力・気力が予想以上に低下するものです。
産業医科大の中村先生が述べておられるように、「病の寛解」=「社会復帰」と安易に考えないこと、です。

そこで、ますます「リワーク」の重要性が認識されるようになりました。
「リワーク」(Re-Work)とは、ある程度まで回復した休職中のメンタルヘルス不調者を対象に、
復職に向けたウォーミングアップを行うことをいいます。
いきなり職場へ戻って働きはじめるのではなく、専門の公的機関や医療機関などに通い、
オフィスに似た環境で実施されるさまざまな復職支援プログラムを通じて再発リスクを軽減させます。
療養生活から本格的な職場復帰へ、無理なくスムーズに移行させるのがねらいです。
「試し出勤」を実施する前に、治療の一環として行うのが「リワーク」です。

「リワーク」は、公共機関が行う無料のプログラムから、民間の医療機関が行う有料のプログラムまで、
たくさんの選択肢があります。なお、民間の医療機関は有料ですが、ほんどで健康保険が適用されます。

また、「リワーク」は、主治医の理解と指導のもとに行ってください。主治医の承認なしに「リワーク」を行うと、
主治医との信頼関係にひびが入りますし、病状をかえって悪化させてしまう恐れもありますので、注意が必要です。
また、リワーク機関の中には、主治医の変更を条件とする機関もありますので、パンフレットや説明に注意してください。

一方、「リワーク」の重要性が認識されるようになったことから、
「リワーク」を、復職サポートの一環として、義務化している企業も出てきています。
確かに「リワーク」は有効ですが、会社が指示した「リワーク」で病状が悪化した場合には、
指示した企業の責任を問われる可能性もあります。
「リワーク」も、あくまでも任意による「リワーク」として位置付けておく必要があります。
復職は、原則として、従業員の責任で行わなければなりません。
会社のサポートも必要ですが、過剰な介入もトラブルにつながることがあると理解してください。

ここで、治療から復職までのステップを再確認しましょう。

うつ病の発症

治療. 場合によっては、休職・入院も

主治医の指導で、リワーク訓練

試し出勤・復職

原則として、元の職場に復帰

軽症の場合は、主治医や産業医の判断で省略することもありますが、原則として慎重にステップアップすることが大切です。
企業がどこまで介入するのか、どこからが過剰なのか、安全配慮義務とも微妙にからむ問題です。

詳しくは、拙著『中小企業の「うつ病」対策』をお読みください。
また、相談は、橋本社会保険労務士事務所 s-hahsi@ya2.so-net.ne.jpまで。
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