中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

ストレスチェック制度解釈⑬

2014年11月29日 | 情報
ストレスチェック制度の法制化により、企業として新たな費用計上が必須となります。
EAPなどの外部機関に頼らず、社内の関係部門の努力だけで実施しようとしても、
制度設計、運営、結果の管理・保管に新たな費用は必要ですし、委嘱している産業医の業務量も増えますから、
産業医の委嘱料が増加することは必定でしょう。
どのくらいの費用計上が必要かというと、これは企業の対応方法、制度設計で大きく違ってきますので何とも言えません。

しかし、これを「法律で決まったことだから、仕方がない」として良いのでしょうか?
ストレスチェック制度の運用にかかる費用を「経費」と見るのか、「投資」として捉えるのか、
ここは、重要な経営判断を迫られます。

「経費」と捉えるのであれば、中小企業にとっては、見過ごすことが出来ない、新たな出費です。
「法令遵守」では、折角の費用投入が意味がなくなる、という意識はありませんか?
そうなんです、「法令遵守」では法令通りにするために必要な費用を計上するだけ、ということになるでしょう。
「円安」で輸入材料、燃料を中心に値上がりしていますし、国内は人手不足で人件費が高騰しています。
こうした状況にあって、経営者は、少しでも費用を削減したいのは、企業経営上、当然に考えることでしょう。
それなのに、ストレスチェックのために新たな費用を計上しなければなりません。
経営者は、「何とかならないのか、何とかしろ」と担当部門に検討指示を出します。

ですから、担当部門としては、ストレスチェック制度の運営費用を、今後の企業成長を図るために必要な、
先行投資としての位置づけを明確に打ち出さなければなりません。
法改正で、ストレスチェック制度が義務化されましたので、新たな費用計上が必要ですと、
経営者の経営判断を仰いでも、経営者は「あっ、そう」と言うわけがありませんから。

経営層の皆さんには、担当部門から上がってきた稟議を、簡単に認めてはいけません。
ストレスチェック制度の実施が、企業業績に寄与するのか、または、
企業業績に寄与する、ストレスチェック制度の実施とは、どういうことなのか、
経営層の皆さんは、徹底的に担当部門を追求してください。
「法制化されたので、実施しなければなりません」といった、担当部門の報告には、
はっきりと「ノー」を出し、再検討を指示してください。

最後に、ホットな情報をお伝えします。
厚労省の検討会(H24.11.27開催)においても、委員から質問が出ています。
産業医としては、どのくらいの費用を企業に請求して良いのだろうか?
産業医としては、3倍くらいの負担増であり、外部委託したとしても今までの業務量の2倍くらいになるだろう。
EAPに出費するくらいの額を請求しても良いのだろうか?
厚労省は、こうした新たな必要経費について、どのように考えているのか?
これに対する厚労省の回答です。
中小企業を意識して、安価で済むような制度設計も考えているが、新たな出費は、各企業負担でお願いしたい。
むしろ、ストレスチェック制度の導入により、新たな精神疾患者を出さないで済むなど、
一次予防として企業利益につながる、コストとしてではなく投資と考えてほしい、
従って、(長期的にみると)企業経営に貢献する制度であることを理解してほしい、
と担当の労働衛生課長は発言しています。


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12月1.2日は休みます

2014年11月28日 | 情報
1.2日は出張しますので、休載です。3日より再開します。
よろしくお願いします。

なお、ストレスチェック制度解釈の続編は、随時タイムリーに紹介します。
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ストレスチェック制度解釈⑫

2014年11月27日 | 情報
現在、検討会で、問題になっているのは、主に三つ。
ひとつは、ストレスチェック項目の選択・決定です。
これは、以前にも報告しましたし、継続して検討中ですので今回は省略します。
しかし、敢えて申し上げますが、中小企業にも受け入れやすい仕組みとしてほしいものです。
ところが、検討会では、「中小企業にも受け入れやすい」という視点が疎かにされているような気がしてなりません。

もうひとつは、派遣労働者への対応です。
しかし、派遣労働者については、未だに議論が煮詰まっていませんので、報告は先送りします。

三つ目は、「職場環境の改善」です。
なぜ、ストレスチェック制度の検討会に「職場環境の改善」が取り上げられているのかですが、
それは、改正安衛法の成立に伴う、衆議院・参議院の両院の附帯決議にあります。

両院の付帯決議(抜粋)を紹介します。

「ストレスチェック制度については、労働者個人が特定されずに職場ごとのストレスの状況を事業者が把握し、
職場環境の改善を図る仕組みを検討すること。」
(参議院厚生労働委員会)(衆議院厚生労働委員会)

そして、ストレスチェック制度の検討会では、 両院の付帯決議を受けて、
「ストレスチェックの結果を職場環境の改善に活かすためには、集団的な分析を行うことが適当である。
具体的な分析方法は、国が標準的な項目として示す「職業性ストレス簡易調査票」を使用する場合は、
「職業性ストレス簡易調査票」に関して公開されている「仕事のストレス判定図」によることが適当である。」とされました。
即ち、ストレスチェックの結果について集団的な分析を行えば、集団単位の傾向値が見いだされるので、
これを根拠にして、集団、即ち、部門長をトップとする組織、あるいは課長をトップとする組織の
意識改善、管理監督者の行動変容による、組織の環境改善に結びつけてもらおうということのようです。

そこで気になることがあります。
両院の付帯決議の取扱いがよく分らないのですが、立法と行政との間で、コミュニケーションは無いのでしょうか?
行政側としては、いきなり、決議だけ突きつけられても、困りますよね。
どのような意図と背景があるのか、立法側に聞いてみたいですよね。
ヒアリングしているのでしょうか。検討会には、そのような報告はありませんが。
それに、立法側、即ち国会議員の先生には、「職場環境の改善」という言葉の認識は薄いでしょう。
どなたか、知恵のあるスタッフの方が作文したものと推測できます。
行政と立法、両者の「断絶」、言い過ぎであればコミュニケーション不足は問題でしょう。

それはともかくとして、
ストレスチェック制度の検討会のメンバーは、精神科医、産業医、医師会、労働者側代表等々です。
メンタルヘルス問題には見識をお持ちなのでしょうが、「職場環境」についての理解・見識があるのでしょうか?
検討会メンバーである東京医科大学名誉教授の下光先生が、ただ一人この領域の権威ですが、
検討会の中で、まず「職場環境の改善」とは何かを、まず認識・共有する必要があるでしょう。
しかし、そのような動きは全くありません。
いきなり、上述したような結論が用意されていたように感じます。

要するに「職場環境」という言葉が「一人歩き」しているように感じます。
全くの無関係とは言えませんが、ストレスチェックをすれば「職場環境」は改善されるのでしょうか。
最終的にどのような扱い、位置づけになるのが不明ですが、
受け入れ側の企業・事業所にとって、ストレスチェックの結果を集団的分析して、
職場の環境改善を図りなさいと言われても、困惑するのではないでしょうか。
ですから、企業・事業所の関係者の方は、今から、「職場環境の改善」についての研究を、検討してください。

・職場環境とは
職場において労働者を取り巻く、さまざまな環境を意味します。
主に上司や同僚との人間関係のあり方が中心となりますが、そればかりではなく、照明や騒音などの室内環境等も含む
幅広い領域における「環境」をいいます。
労働安全衛生法では、使用者は職場環境を改善し、労働者にとって働きやすいものとする配慮義務を負うと定められていますが、
職場環境が悪化すると、労働者の精神的・肉体的状況も悪化する傾向があることから、
「風通しの良い職場環境」をつくることがよいとされています。
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ストレスチェック制度解釈⑪

2014年11月26日 | 情報
もうご存知ことと思いますが、施行日が決まりました。
ストレスチェックと面接指導の実施は、予定通り、平成27年12月1日となりました。
大事なことは、「なんだ 、来年の12月1日か」と油断してしまうことです。

現在は、行政検討会、労働政策審議会安全衛生分科会での検討が、来年1月中をめどに行われ、
3月中には省令・指針等が策定される予定となっています。
その検討会の中で、現在ストレスチェックサービスを行っている、EAP2社と独法1機関のヒアリングが行われました。
(第2回ストレスチェックと面接指導の実施方法等に関する検討会、平26.10.30)
注目すべき発言として、各機関とも、「施行までの時間が短い、当局には速やかに政省令の改正作業を進めてほしい」
との要望が出されたことがあげられます。

そうなんです、意外と残されている時間は短いのです。
皆さま方の企業・事業所における準備状況は如何ですか?
アドバイスできることとしては、現在は、情報収集・下準備期間と位置付けて、情報を集めてください。
そして、来年3月には、省令・指針等が発表されますので、いよいよそれぞれの企業における制度設計に入ることになります。
しかし、そう難しいことではありません。行政から対応要領が発表されますので、それに従って準備すればよいのです。
むしろ、それぞれの企業・事業所においては、ストレスチェック制度をスムーズに実施できるような
環境を整えることが大切になります。
即ち、ストレスチェック制度とは何か、何のために実施するのか、実施したことによる効果はどういうことなのか、
等々の事前の教育・広報活動です。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000057909.html

厚生労働大臣は、本日、労働政策審議会(会長 樋口 美雄 慶應義塾大学商学部教授)に対して、
「労働安全衛生法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令案要綱」、「労働安全衛生法施行令等の一部を改正する政令案要綱」、
「労働安全衛生法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令案要綱」について諮問を行いました。

これらの諮問を受け、本日、同審議会安全衛生分科会(分科会長 土橋 律 東京大学大学院工学系研究科教授)で審議が行われ、
同審議会から妥当であるとの答申がありました。
厚生労働省は、この答申を踏まえて速やかに政省令の改正作業を進めます。

<労働安全衛生法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令案>
 労働安全衛生法の一部を改正する法律(平成26年法律第82号)に関して、以下のとおり施行期日を定めます。(平成26年10月公布・施行予定)

1. 以下の改正事項の施行期日を、平成26年12月1日とします。
○ 法第88条第1項に基づく届出の廃止
○ 電動ファン付き呼吸用保護具の譲渡制限・型式検定の対象への追加

2. 以下の改正事項の施行期日を、平成27年6月1日とします。
○ 職場における受動喫煙防止措置の努力義務化
○ 重大な労働災害を繰り返す企業に対する指示・勧告・公表を行う制度の創設
○ 外国に立地する検査・検定機関を登録制度の対象とする見直し

3. 以下の改正事項の施行期日を、平成27年12月1日とします。
○ ストレスチェックと面接指導の実施
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メール相談の内容

2014年11月25日 | 情報
働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」(厚生労働省)の事務局を担当されている、
石見さんの話のよると、当ポータルサイトにあるメール相談は、殆どがパワハラと職場の人間関係だそうです。
パワハラも、ひとつの人間関係ですから、相談の殆どが、職場における人間関係であると言えますね。

最近の裁判例でみても、いじめ自殺の予見可能性と上司職員らの指導監督義務についてが争点となった、
国(護衛艦たちかぜ〔海上自衛隊員暴行・恐喝〕)事件(東京高裁平26.4.23判決)のように、
実は、周囲の殆どの人間が、パワハラの実態を承知していたのですね。
人間は、自分に火の粉が降りかからない限り、周囲にどのような事態が発生していようと無視します。
下手に関わりあうと、どのような迷惑を被るかもしれないという恐れから、近いよらないようにします。
みなさんも、少なからず経験があるでしょう。
小生も、目の前でパワハラが行われている事実がありながら、無視しました。自分には関係のないことだからと。

ここにパワハラ問題を、事態が大事にならないうちに解決できない要因があります。
そして、組織の責任者には、報告が届きませんし、責任者の眼のとどかないところで事態は進行します。

事業所内で、うつ病をり患する原因は、昇進・昇格、異動・転勤、そしてパワハラが三大要因と云われています。
すべてにわたり、背後に職場の人間関係が介在していますね。
勿論、本人がまいた種、本人の責任、ということもあります。
しかし、例えば異動・転勤の場合、異動・転勤先の関係者が温かく当事者を受け入れることができれば、
不安と期待をないまぜに持った当事者の精神状態も、穏やかにしていることが出来ることでしょう。
温かい一言で、うつ病をり患することが回避できるのです。
うつ病の始まりは、異動・転勤先における、周囲の「無視」からスタートすると、小生は経験的に結論付けています。
異動・転勤先における当事者の上位職は、このことに最新の配慮をしていただきたいと考えています。

余談ですが、小生の疑問の一つがいまだに解決しません。
それは、「人間は、なぜハラスメントをするのか」です。
職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」(座長:堀田力さわやか福祉財団理事長)の提言
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000021hkd.html
をはじめ、各界の専門家が、たくさんの提言・提案をしていますが、
どれを見ても、いじめ・嫌がらせをどう防ぐか、どのようにしていじめ・嫌がらせを回避できるか、といった方法論ばかりです。
根源的な問いはありません。上述の円卓会議の報告書も同様です。
みなさんは、どのようにお考えですか?
そして、どのような解決策を講じているのでしょうか?
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