中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

精神疾患と労災に関する一考察(3)

2016年11月30日 | 情報

さて、仮説の提唱です。「精神障害の労災件数はもっと多いはず」と考えます。

理由1. 
厚労省ポータルサイト「こころの耳」において、相談件数上位2項目(15.4.16 こころの耳事務局長情報)は、
①職場の人間関係
②ハラスメント
だそうです。当然の結果ですよね。殆どが、仕事上の人間関係の問題ということでしょう。
即ち、相談の多くは、労災事案に該当するのではと推認できます。 

理由2.
データとしては、少し古くなりますが、厚労省も信憑性が高いと評価して引用しています。 
それは、特定非営利法人・自殺対策支援センターライフリンク 「自殺実態白書2008」です。
それによると自殺の危険経路は、ほとんど、業務上の理由がはじまりです。
①配置転換→過労+職場の人間関係→うつ病→自殺
②昇進→過労→仕事の失敗→職場の人間関係→うつ病→自殺
③職場のいじめ→うつ病→自殺

理由3. 
前述したように、会社側は、例え労災に該当と推認するも、私傷病として処理しているようです。
ですから、労災事案が隠されてしまうのです。

理由4. 
厚労省は、ストレスチェックを義務化しました。
繰り返しになりますが、理由は、職場での問題が多いから、です。
ストレスチェックを義務化した背景は、冒頭に紹介しましたが、厚労省もこのことは理解しているようです。
以下その証拠です。

ストレスチェック制度実施マニュアル67頁には、高ストレスの要因について、
「高ストレス状況では、一般的には、職場や職務への不適応などが問題となりうることから、面接実施者は、
基本的には、ストレスの要因が職場内に存在することを想定して、云々」とあります。
即ち、上記文章の「職場や職務への不適応など」及び「ストレスの要因が職場内に存在する」という表現からは、
多くは業務上の要因で、うつ病等の精神疾患をり患するものと読み取れます。
因みに、このことを厚労省の担当課に電話で問い合わせたところ、
「一般的には、という表現は、そのような理由で使っているのではない」との回答でした。
では、どのような理由で、「一般的には」という言葉を使用したのでしょうか?

また、余談ですが、ストレスチェックに要する、中小規模の事業場・企業の費用負担は、ばかになりません。
それでも、業務上の問題が「一般的」であるから、ストレスチェック制度を導入したのではないのでしょうか?

ストレスチェック制度の市場規模は、100億円単位と言われています。
ということは、この費用をストレスチェックを実施する各企業が負担することになるのです。
因みに、このことは、ストレスチェック制度の検討会でも取り上げられています。
厚労省の当時の担当課長は、検討委員からストレスチェックに関する費用増についての問題提起に対し、
それは「民民の問題」であると「明解に」回答しています。
ところが、この発言は、検討会の公式記録には記載されていませんが、
小生も傍聴していましたので、担当課長の発言ははっきりと記憶しています。
即ち、厚労省は、「民民の問題」であると委員の発言を一蹴したのは、
企業の費用負担が増えても、ストレスチェック制度は必要であると考えたからではないでしょうか。

 (4)へ続く

 

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精神疾患と労災に関する一考察(2)

2016年11月29日 | 情報

1.問題提起です。「精神疾患の労災認定件数が少ない」、と思いませんか?
なぜ、そうなるのか?その理由、その背景を探ってみましょう。

2.多くの労災事故の場合、会社が全てを手続きするのが慣例になっていますが、
法令上、労災事故は、原則、被災した労働者または遺族が会社の所在地を管轄する労働基準監督署長に
労災保険給付の支給請求をして、労働基準監督署長が支給を決定することになっています。

3.しかし、
・労働者には、そもそも精神疾患をり患したことが、労災ではないかという認識がない
・労働者には、労災申請のための証拠集めが難しい
  特に、ハラスメントの場合は、言った、言わない、の水掛け論になる
・労働者には、労災申請の方法が分からない
等の理由により、当該労働者が精神疾患をり患した原因が業務上ではないかと考えても、
事実上、労働者(≒従業員、社員)は、労災申請ができない状況にあると云えます。

4.なお、労災申請書には、事業主証明欄があり、原則として、被災事実や賃金関係の証明印が必要ですが、
事業主の証明がなくても、申請は可能であることを確認しましょう。

5.一方、労災事故が発生した場合、会社側は、法令に従い、事実を所轄の労基署に報告しなければなりません。
・労働安全衛生規則 第97条   
事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息
又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を
所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

6.報告を怠ると、いわゆる「労災かくし」をしたことになり、処罰の対象になります。
因みに、労災かくしとは、「労働災害が発生した場合、会社は労働基準監督署に
そのことを報告しなくてはなりません(義務です)が、その報告を怠る、又は虚偽の申告をすること」を指します。
加えて、労災保険未加入であったり、手続きが面倒であったり、会社側の無知などの理由で労災かくしが、度々発生します。
厚労省HPにも「労災かくしは犯罪です。」と明記されています。

7.さて、会社側は、従業員が精神疾患になっても、にわかに、労災か、私傷病か、判断できません。
故に、通常では、というより、ほぼ100%労災申請の手続きを行わないのが現状です。
本来であれば、労災事故に該当すると分かった時点で、労災申請しなければならないのですが、原則として無視しています。
ある意味で労災申請の手続きを行わないことは、やむを得ないことですが。
実態としては、会社側は、法令と、その運用実態を比較し、「ほぼ、労災に該当するな」と認識しても、
精神疾患の場合は、私傷病として「当然のように」処理する傾向にあるようです。

 8.実態の参考例として、東芝うつ病事件(最二小判平26.3.24)があります。
会社側は、表向き従業員が精神疾患になっても、にわかに、労災か、私傷病か、判断できないことを理由に
私傷病扱いで処理していたのです。ところが、裁判で精神疾患をり患したのは、業務上の理由であるとされたのです。
話題になった最近の判例ですから、みなさんよくご存じと思いますが、原告がほぼ全面勝訴となりました。

余談になりますが、この裁判で企業の労務管理上の新たな課題を突き付けられました。
それは、「自らの精神的健康に関する情報は、労働者のプライバシー情報であり、
通常は秘匿して就労し続けようとすることが想定される性質の情報である。」
「使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、
その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ、
上記のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調に悪化が看取される場合には、
上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、
必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要がある。」
ということです。

ということは、今後、労働安全衛生行政が、変化していくかもしれませんね。

 (3)へ続く

 

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精神疾患と労災に関する一考察(1)

2016年11月28日 | 情報

11月14日の当ブログ「退勤8分後に出勤も」において、
「当事案を含めて、まさに、地下に溜まったマグマが一気に噴き出した、という印象があります。
長時間労働、違法な残業等により精神疾患を発症した場合、労災の対象になることが、
多くの労働者の一般常識になってきたということでしょう。
ということは、従来よりの公表数字と、小生がこれまで接触してきた現象から導き出した、
小生の推論が正しいという印象を持ちました。
この推論は機会あるごとに、公表、説明してきましたが、
当ブログにおいても後日、詳しく発表することにします。」と記しました。
以下に、その内容を記します。

1.厚労省は、安衛法を改正し、昨年12月に「ストレスチェック」を義務化しました。
厚労省は、法改正の背景を以下のように説明しています。
・職業生活で強いストレスを感じている労働者の割合は高い状況で推移
・精神障害の労災認定件数が3年連続で過去最多を更新 等
法改正の背景は、詳細なデータの説明を省略しますが、厚労省発表のデータが証明しています。

2.厚労省は、一方で「患者調査」を実施していますが、最新の平成26年の調査で、
精神障害計で、3,175千人、気分障害(うつ病等)で、1,116千人と発表しています。

3.さて、より新しいデータもありますが、H26年度の実績で比較してみましょう。
精神障害等の労災補償件数は、497件(H26年度 厚労省発表)。
一方で、気分障害(うつ病等)の患者数(H26年 厚労省患者調査)は、111.6万人でした。

4.労働者に発病する精神障害は
(1)事故や災害の体験、仕事の失敗、過重な責任の発生等の業務による心理的負荷
(2)自分の出来事等の業務以外の心理的負荷
(3) 精神障害の既往歴等の個体側要因
が複雑に関係しあって発病するとされています。

5.ということは、極論すれば、労災補償件数497件以外は、私傷病か、個体要因になります。
即ち、統計資料から推定すれば、気分障害(うつ病等)の患者数(H26年 厚労省患者調査)111.6万人のうち、
少なくとも100万人以上は、私傷病か、個体要因になります。

6.これならば、ストレスチェック制度は不用ではないか、何のために法改正したのかという、疑問になります。

(2)へ続きます。

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(参考)OECD8原則

2016年11月25日 | 情報

法令上、ストレスチェックの実施期限である、11月30日が迫ってまいりました。
皆さまの事業場、企業では、どのような進捗状況でしょうか?

厚労省・ストレスチェック制度のQ&A
Q0-1 法に基づく第一回のストレスチェックは、法施行後いつまでに何を実施すればいいのでしょうか。
A 平成27 年12 月1 日の施行後、1 年以内(平成28 年11 月30 日まで)に、
  ストレスチェックを実施する必要があります(結果通知や面接指導の実施までは含みません。)

さて、ストレスチェックの実施に当たっては、個人情報を如何にして保護するかが、第一義です。
個人情報を秘匿できないようであっては、ストレスチェックを実施する意味がないと考えてください。
ですから、未だに、ストレスチェックを実施できていない、企業、事業場のみなさん、慌てないでくださいね。
そこで、あらためて、個人情報保護の基本原則を学びましょう。
それは、OECD8原則です。外務省のHPより転載します。

1.収集制限の原則
個人データの収集には制限を設けるべきであり、いかなる個人データも、適法かつ公正な手段によって、
かつ適当な場合には、データ主体に知らしめ又は同意を得た上で、収集されるべきである。

2.データ内容の原則
個人データは、その利用目的に沿ったものであるべきであり、かつ利用目的に必要な範囲内で正確、完全であり
最新なものに保たれなければならない。

3.目的明確化の原則
個人データの収集目的は、収集時よりも遅くない時点において明確化されなければならず、
その後のデータの利用は、当該収集目的の達成又は当該収集目的に矛盾しないでかつ、
目的の変更毎に明確化された他の目的の達成に限定されるべきである。

4.利用制限の原則
個人データは、第9条により明確化された目的以外の目的のために開示利用その他の使用に供されるべきではないが、
次の場合はこの限りではない。
(a)データ主体の同意がある場合、又は、(b)法律の規定による場合

5.安全保護の原則
個人データは、その紛失もしくは不当なアクセス、破壊、使用、修正、開示等の危険に対し、
合理的な安全保護措置により保護されなければならない。

6.公開の原則
個人データに係わる開発、運用及び政策については、一般的な公開の政策が取られなければならない。
個人データの存在、性質及びその主要な利用目的とともにデータ管理者の識別、
通常の住所をはっきりさせるための手段が容易に利用できなければならない。

7.個人参加の原則
個人は次の権利を有する。
(a)データ管理者が自己に関するデータを有しているか否かについて、データ管理者又はその他の者から確認を得ること
(b)自己に関するデータを、
(i)合理的な期間内に、
(ii)もし必要なら、過度にならない費用で、
(iii)合理的な方法で、かつ、
(iv)自己に分かりやすい形で、自己に知らしめられること。
(c)上記(a)及び(b) の要求が拒否された場合には、その理由が与えられること及びそのような拒否に対して
       異議を申立てることができること。
(d)自己に関するデータに対して異議を申し立てること、及びその異議が認められた場合には、
     そのデータを消去、修正、完全化、補正させること。

8.責任の原則
データ管理者は、上記の諸原則を実施するための措置に従う責任を有する。

外務省HP
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oecd/privacy.html
プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関するOECD理事会勧告(1980年9月(仮訳)

(参考)ストレスチェック制度Q&A①
2016年10月12日

久々のQ&Aです。締め切りが近づいてきました。
Q:個人情報の秘匿を、「しつこく」問われています。
例えば、面接指導に対象者を呼び出す場合、イントラネットを使用しても、手紙を利用しても、
対象者の呼び出しは秘匿できますが、対象者が面談のため離席するには上司の許可が必要ですから、
ここで、個人情報が少なくとも上司には必然的に漏れてしまいます。
面談対象者から個人情報が漏えいしたと言われれば、反論の余地はありません。
どのように対処すればよいのでしょうか?

A:これは、以前にもお答えしたと記憶していますが、制度の信頼性に関わる重要な問題ですので再度、確認しましょう。
ストレスチェック制度のキーワードは「信頼性」です。
これは、ストレスチェック制度の検討会において、委員のお一人である近畿大学法学部の三柴教授の提案でした。
そして、検討会において委員全員に了承されました。小生も全面的に賛同します。
なぜなら、労働者の信頼なくしては、ストレスチェック制度は成り立たないからです。
しかも、ストレスチェックは毎年、実施しなければならないからです。
労働者から信頼されない、ストレスチェックを毎年実施しても、なんら意味がありません。
大切な経費をどぶにタダで捨てているようなものでしょう。

さて、今回のストレスチェック制度では、衛生委員会を重要な機関として位置づけています。
ですから、悩ましい問題、処理の困った問題などは、全てこの衛生委員会に稟議して、機関決定しておけば
全従業員が納得できる規則になります。
すなわち、「面談指導の呼び出しで職場を一時的に離席する場合は、上司の了承を取らなければならない。
上司は、この事実を他に口外してはならない。」と規程すればよいでしょう。

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24日、休載します

2016年11月23日 | 情報

24日に、急きょ出張することになりました。
従って、本ブログは休載します。
再開は、25日になります、よろしくお願いします。

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