その日の午後も又、四人は黙々と歩いていた。
ムンとルージュサンは寝不足の筈だったが、疲れた様子は無い。
そのルージュサンの足が、ピタリと止まった。
《すみません。少し先に行きます》
《どうしたの?》
セランが聞いた。
《トラブルが起きそうなんです》
言うなりルージュサンが走り出す。
《僕も手伝います》
《俺も行く》
セランとムンも走り出す。
《有難う。ムンさんは援護を、セランは相手の矢が終わったら、お願いします》
《分かった。オグ、隠れてベイと荷を守ってろ》
振り向いても、ムンは足を止めない。
砂をけたてて三人が走る。
大きな砂山を駆け上がる途中で、ラクダと人の悲鳴が聞こえた。
すぐに丘の上の盗賊達と、道に白装束の一行が目に入る。
ルージュサンが走りながらナイフを投げる。
ムンは足を止めて矢を放った。
その全てが盗賊達の肩に刺さって、弓を持つ者が居なくなる。
盗賊達は驚きながらも、丘から降り始めた。
その脚をムンの矢が狙った。
セランの吹き矢も加わって、又数人、転がり落ちた。
矢を免れた盗賊達が、女達に襲い掛かろうとする。
それを庇う男達と盗賊達の間に、ルージュサンが踊り込む。
首、みぞおち、頭と、峰打ちで盗賊達を薙ぎ倒していく。
残像さえ追えないほどのその速さに、身動きのとれない者もいる。
刀を振り下ろすなり回した蹴りで、最後の一人が地に這った。
「ルージュサン」
腰のベルトが一際美しい、白装束の若い男が、出番の無かった剣を納めた。
「逞しくなられましたね、カン=ザザ=ジン殿。妹君の輿入れですか?」
八百屋で会ったかのような気軽さで、ルージュサンが問う。
「はい。タムの族長の所です。前妻を亡くして七年、やっと諦めがついたらしい」
「おめでとうございます。あの方は優しい方ですからね。きっと幸せになられるでしょう」
「有難うございます。それを」
カンが足下に視線を移す。
「最近旅人を襲ってるやつらです。身なりが聞いた通りだ。全く不運です」
カンが視線をルージュサンに戻して、胸の前に両手で菱形を作った。
最大の敬意を表すサインだ。
「けれど貴女方に会えたのは、望外の幸運でした。一族を代表して感謝申し上げます。こんな言葉では全く足りない。先ずは婚礼の宴にお招き致します」
「どういたしまして。当然のことをしたまでです。有り難いお申し出ですが、先を急ぐのです」
「そうですか。残念です・・・ではこの盗賊どもも、こっちで処分します」
「高価な荷ではなく、花嫁を狙っていました。これ迄は金目の物を奪うだけではありませんでしたか?」
「今までのはカムフラージュで、狙いは妹だってことか?」
カンが太い眉を寄せた。
「最近ユナ族との小競り合いが続いてる。あいつらか」
「用意周到に偽装する必要が、ユナ族にありますか?」
カンが喉に手を当てて考えた。
「確かにないな。じゃあどこだろう。うちとユナ族の結び付きが強まるのを嫌う部族は・・」
「訊けば早いでしょう?兄さん」
薄いベールを何重にも被った花嫁が、すっ、と前に出た。