ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園 Fの物語ー天使の寝顔ー

2020-10-03 22:00:00 | 大人の童話
「あの、ご相談があるのですが」
女将がルージュサンに声をかけたのは、ドラフと朝の挨拶を済ませたときだった。
「お連れ様に言われた時刻に、起こしに行ったのですが」
そう言って二人と、セランが泊まる部屋へと向かう。
扉を開けると、簡素な寝台で、セランが眠っていた。
身体を少し右下にして掛け布団を抱き、無心な寝顔だ。
三人がたてる物音に、ピクリともしない。
元々、僅かに上がっている口角が、清らかな祝福を表すようだ。
無垢の神々しさが、光の紗幕となって、彼を包み込んでいる。
「あの、声をお掛けしても起きないのですが、叩き起こして良いものかどうか」
女将が、妙に困っている。
ルージュサンの頬が、ぱっと輝いた。
「このままにしておいて下さい。ドラフさんの船は速い。出航してしまえば、諦めて都に帰るでしょう」
ドラフが驚いてルージュサンを見る。
「こいつがいると、お前が危ない目に会うのか?」
ルージュサンが、少し渋い顔をした。
「そうとも限らないんですが」
「じゃ、逆か」
ドラフが納得する。
「昨日、本人からも請け負ったからな。乗せてくよ」
「では、起こしますか?」
今度はドラフが渋い顔になって、セランを見た。
「いや、時間になっても起きないなら、俺が担いでく」
女将が大きく頷く。
ルージュサンが苦笑して、確信的に言った。
「我々が太陽の周りを回っているのだ」
「女神っ!!」
セランが飛び起きる。
そしてルージュサンを認め、幸福に顔を輝かせる。
「やはり貴女でしたか。私の女神。運命の恋人」
「おはようございます。起きる時間です」
「おはようございます。貴女に起こして貰えるなんて、僕はなんて幸せな男なんでしょう!。ああっ、今歌が浮かびました!歌っても」
そこまで言って、後の二人に気付いた。
「おはようございます、女将さん、ドラフさん。済みません。僕は寝坊したのですね」
そう言いながら凄い速さで身支度を整える。
最後に背負ったのはお気に入りのリュートだ。
「出来ましたっ!」
嬉しそうに三人に報告する。
「そうか。じゃあ、朝飯にしよう」
ドラフが言った。

「あいつは呪文で操れるのか?」
港までの道を、セランに先に歩かせて、ドラフが聞いた。
「あの呪文を証明するのが、セランの目標なんです。今度聞いてみて下さい。止めるまで話し続けますよ」
ルージュサンが笑って答える。
「面白い奴だと思ってはいたが・・・やっぱり置いてくれば良かったか?」
ルージュサンがすうっと、経営者の顔になる。
「契約は絶対、船乗り達は超一流、船は小さめで速い。だから高値で貸し切る客が後をたたない。そして良い給料が払えるから皆頑張れるし、船に投資し性能も上げられる。見事な好循環を何十年も続けてらっしゃる。事業主として、尊敬しています」
「天下のガーラント貿易当主に、言われると面映ゆいな。それも後三月で義弟のものか」
ドラフはそう言って、ルージュサンの頭を撫で、頬に手をやった。
「十二才で養女になって二十三年。お前はこれ以上なく立派に勤めあげた。お前と昔馴染みだってのは、俺の自慢だ。よく頑張ったな」
ルージュサンが嬉しそうに笑った。
「有難うドラフ」
笑顔を返し、ドラフが真顔になる。
「今ジャナっていうのは、それと関係あるのか?お前が船に乗せられた場所だよな」
「カナライから招かれたんです。代替わりの予行演習にも良い機会だし、宿命なら避けても追って来ますからね」
淡々と話すルージュサンに気負いはない。
「船乗りに戻るんなら、俺んとこに来い」
ルージュサンが目を丸くした。
「最高の誉め言葉ですね」
「そうでもないさ」
ドラフがウィンクをしてみせた。







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