「あの、ご相談があるのですが」
女将がルージュサンに声をかけたのは、ドラフと朝の挨拶を済ませたときだった。
「お連れ様に言われた時刻に、起こしに行ったのですが」
そう言って二人と、セランが泊まる部屋へと向かう。
扉を開けると、簡素な寝台で、セランが眠っていた。
身体を少し右下にして掛け布団を抱き、無心な寝顔だ。
三人がたてる物音に、ピクリともしない。
元々、僅かに上がっている口角が、清らかな祝福を表すようだ。
無垢の神々しさが、光の紗幕となって、彼を包み込んでいる。
「あの、声をお掛けしても起きないのですが、叩き起こして良いものかどうか」
女将が、妙に困っている。
ルージュサンの頬が、ぱっと輝いた。
「このままにしておいて下さい。ドラフさんの船は速い。出航してしまえば、諦めて都に帰るでしょう」
ドラフが驚いてルージュサンを見る。
「こいつがいると、お前が危ない目に会うのか?」
ルージュサンが、少し渋い顔をした。
「そうとも限らないんですが」
「じゃ、逆か」
ドラフが納得する。
「昨日、本人からも請け負ったからな。乗せてくよ」
「では、起こしますか?」
今度はドラフが渋い顔になって、セランを見た。
「いや、時間になっても起きないなら、俺が担いでく」
女将が大きく頷く。
ルージュサンが苦笑して、確信的に言った。
「我々が太陽の周りを回っているのだ」
「女神っ!!」
セランが飛び起きる。
そしてルージュサンを認め、幸福に顔を輝かせる。
「やはり貴女でしたか。私の女神。運命の恋人」
「おはようございます。起きる時間です」
「おはようございます。貴女に起こして貰えるなんて、僕はなんて幸せな男なんでしょう!。ああっ、今歌が浮かびました!歌っても」
そこまで言って、後の二人に気付いた。
「おはようございます、女将さん、ドラフさん。済みません。僕は寝坊したのですね」
そう言いながら凄い速さで身支度を整える。
最後に背負ったのはお気に入りのリュートだ。
「出来ましたっ!」
嬉しそうに三人に報告する。
「そうか。じゃあ、朝飯にしよう」
ドラフが言った。
「あいつは呪文で操れるのか?」
港までの道を、セランに先に歩かせて、ドラフが聞いた。
「あの呪文を証明するのが、セランの目標なんです。今度聞いてみて下さい。止めるまで話し続けますよ」
ルージュサンが笑って答える。
「面白い奴だと思ってはいたが・・・やっぱり置いてくれば良かったか?」
ルージュサンがすうっと、経営者の顔になる。
「契約は絶対、船乗り達は超一流、船は小さめで速い。だから高値で貸し切る客が後をたたない。そして良い給料が払えるから皆頑張れるし、船に投資し性能も上げられる。見事な好循環を何十年も続けてらっしゃる。事業主として、尊敬しています」
「天下のガーラント貿易当主に、言われると面映ゆいな。それも後三月で義弟のものか」
ドラフはそう言って、ルージュサンの頭を撫で、頬に手をやった。
「十二才で養女になって二十三年。お前はこれ以上なく立派に勤めあげた。お前と昔馴染みだってのは、俺の自慢だ。よく頑張ったな」
ルージュサンが嬉しそうに笑った。
「有難うドラフ」
笑顔を返し、ドラフが真顔になる。
「今ジャナっていうのは、それと関係あるのか?お前が船に乗せられた場所だよな」
「カナライから招かれたんです。代替わりの予行演習にも良い機会だし、宿命なら避けても追って来ますからね」
淡々と話すルージュサンに気負いはない。
「船乗りに戻るんなら、俺んとこに来い」
ルージュサンが目を丸くした。
「最高の誉め言葉ですね」
「そうでもないさ」
ドラフがウィンクをしてみせた。
女将がルージュサンに声をかけたのは、ドラフと朝の挨拶を済ませたときだった。
「お連れ様に言われた時刻に、起こしに行ったのですが」
そう言って二人と、セランが泊まる部屋へと向かう。
扉を開けると、簡素な寝台で、セランが眠っていた。
身体を少し右下にして掛け布団を抱き、無心な寝顔だ。
三人がたてる物音に、ピクリともしない。
元々、僅かに上がっている口角が、清らかな祝福を表すようだ。
無垢の神々しさが、光の紗幕となって、彼を包み込んでいる。
「あの、声をお掛けしても起きないのですが、叩き起こして良いものかどうか」
女将が、妙に困っている。
ルージュサンの頬が、ぱっと輝いた。
「このままにしておいて下さい。ドラフさんの船は速い。出航してしまえば、諦めて都に帰るでしょう」
ドラフが驚いてルージュサンを見る。
「こいつがいると、お前が危ない目に会うのか?」
ルージュサンが、少し渋い顔をした。
「そうとも限らないんですが」
「じゃ、逆か」
ドラフが納得する。
「昨日、本人からも請け負ったからな。乗せてくよ」
「では、起こしますか?」
今度はドラフが渋い顔になって、セランを見た。
「いや、時間になっても起きないなら、俺が担いでく」
女将が大きく頷く。
ルージュサンが苦笑して、確信的に言った。
「我々が太陽の周りを回っているのだ」
「女神っ!!」
セランが飛び起きる。
そしてルージュサンを認め、幸福に顔を輝かせる。
「やはり貴女でしたか。私の女神。運命の恋人」
「おはようございます。起きる時間です」
「おはようございます。貴女に起こして貰えるなんて、僕はなんて幸せな男なんでしょう!。ああっ、今歌が浮かびました!歌っても」
そこまで言って、後の二人に気付いた。
「おはようございます、女将さん、ドラフさん。済みません。僕は寝坊したのですね」
そう言いながら凄い速さで身支度を整える。
最後に背負ったのはお気に入りのリュートだ。
「出来ましたっ!」
嬉しそうに三人に報告する。
「そうか。じゃあ、朝飯にしよう」
ドラフが言った。
「あいつは呪文で操れるのか?」
港までの道を、セランに先に歩かせて、ドラフが聞いた。
「あの呪文を証明するのが、セランの目標なんです。今度聞いてみて下さい。止めるまで話し続けますよ」
ルージュサンが笑って答える。
「面白い奴だと思ってはいたが・・・やっぱり置いてくれば良かったか?」
ルージュサンがすうっと、経営者の顔になる。
「契約は絶対、船乗り達は超一流、船は小さめで速い。だから高値で貸し切る客が後をたたない。そして良い給料が払えるから皆頑張れるし、船に投資し性能も上げられる。見事な好循環を何十年も続けてらっしゃる。事業主として、尊敬しています」
「天下のガーラント貿易当主に、言われると面映ゆいな。それも後三月で義弟のものか」
ドラフはそう言って、ルージュサンの頭を撫で、頬に手をやった。
「十二才で養女になって二十三年。お前はこれ以上なく立派に勤めあげた。お前と昔馴染みだってのは、俺の自慢だ。よく頑張ったな」
ルージュサンが嬉しそうに笑った。
「有難うドラフ」
笑顔を返し、ドラフが真顔になる。
「今ジャナっていうのは、それと関係あるのか?お前が船に乗せられた場所だよな」
「カナライから招かれたんです。代替わりの予行演習にも良い機会だし、宿命なら避けても追って来ますからね」
淡々と話すルージュサンに気負いはない。
「船乗りに戻るんなら、俺んとこに来い」
ルージュサンが目を丸くした。
「最高の誉め言葉ですね」
「そうでもないさ」
ドラフがウィンクをしてみせた。
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