それから十三年。
ルージュサンは健全な事業者との、共存共栄を目指した。
結果、悪辣な事業者は淘汰され、事業を手放す者はルージュサンを頼って、事業は大きく育っていった。
子爵は生来頑健だったか、病を得、息子に爵位が似合う年まで、届きそうになかった。
子爵の顔の浮腫みは、昨日一気に引いて、肌は蝋のように透き通っていた。
秋の陽が薄く黄ばんで、寝床を半分照らす。
ルージュサンは日を背負って、右横の椅子に座っていた。
「ルージュサン」
看護人は部屋の外だ。
「はい。父上」
「私の命はもう尽きる」
ルージュサンは否定しない。
「お前は期待以上に事業を伸ばしたが、私は、トラムが大人になるまで育てきれない。約束を果たせなかったな」
「代わりに私が後見人を務めます」
「宜しく頼む」
差し出された手を、ルージュサンが握る。
握り返した子爵の手は骨ばっていて、思いの外、力強かった。
「私は一時助けて、中を継ぐ者。ご安心下さい」
「覚えているか?出会った次の日、私と分かって助けたのか、と、聞いたのを」
「はい」
子爵が小さく笑う。
「あの時もお前は『はい』と、答えた。もし『いいえ』だったら、お前を跡取りにはしなかった。揉め事に不必要に手を出したか、腹を割って話そうとしている相手に、嘘をついたかだからな」
「そうでしたか」
ルージュサンの話すペースはゆっくりだ。
「私と出会った日、スリにお金を払わないでいてくれたことを、覚えていますか?」
「もちろん」
「あの時父上は、子供の自負を尊重してくれました。もし払っていたなら、父としては、信頼しなかったでしょう」
子爵が小さく声をたてて笑った。ルージュサンもつられて笑う。
二人の笑い声は次第に大きくなり、子爵の咳き込む音で途絶えた。
「久しぶりに、笑った」
握った手は、離さないままだ。
「歌ってくれないか」
「何の歌を?」
「子守唄を。トラムが今でも大好きな、船乗りの歌を」
「承知しました」
穏やかに微笑み合って、歌の船は滑り出した。
子爵は目を閉じ、深い、深い、眠りについた。
…………………………………………………………………………
子爵の最初の奥様は『仕事が終われば、使用人も同じ家の住人』と、色や柄違いの寝巻きを、全員分縫いました。
『住み込みの使用人は一日中仕事中』が、常識だった中、異色だったその考え方は、徐々に広まり、やがて来る民主化を受け入れる精神的土壌の一つとなりました。
夫人亡き後、寝巻きは子爵のポケットマネーで、仕立て屋に注文するようになりました。
ルージュサンの寝巻きをイメージしたワンピース
ルージュサンは健全な事業者との、共存共栄を目指した。
結果、悪辣な事業者は淘汰され、事業を手放す者はルージュサンを頼って、事業は大きく育っていった。
子爵は生来頑健だったか、病を得、息子に爵位が似合う年まで、届きそうになかった。
子爵の顔の浮腫みは、昨日一気に引いて、肌は蝋のように透き通っていた。
秋の陽が薄く黄ばんで、寝床を半分照らす。
ルージュサンは日を背負って、右横の椅子に座っていた。
「ルージュサン」
看護人は部屋の外だ。
「はい。父上」
「私の命はもう尽きる」
ルージュサンは否定しない。
「お前は期待以上に事業を伸ばしたが、私は、トラムが大人になるまで育てきれない。約束を果たせなかったな」
「代わりに私が後見人を務めます」
「宜しく頼む」
差し出された手を、ルージュサンが握る。
握り返した子爵の手は骨ばっていて、思いの外、力強かった。
「私は一時助けて、中を継ぐ者。ご安心下さい」
「覚えているか?出会った次の日、私と分かって助けたのか、と、聞いたのを」
「はい」
子爵が小さく笑う。
「あの時もお前は『はい』と、答えた。もし『いいえ』だったら、お前を跡取りにはしなかった。揉め事に不必要に手を出したか、腹を割って話そうとしている相手に、嘘をついたかだからな」
「そうでしたか」
ルージュサンの話すペースはゆっくりだ。
「私と出会った日、スリにお金を払わないでいてくれたことを、覚えていますか?」
「もちろん」
「あの時父上は、子供の自負を尊重してくれました。もし払っていたなら、父としては、信頼しなかったでしょう」
子爵が小さく声をたてて笑った。ルージュサンもつられて笑う。
二人の笑い声は次第に大きくなり、子爵の咳き込む音で途絶えた。
「久しぶりに、笑った」
握った手は、離さないままだ。
「歌ってくれないか」
「何の歌を?」
「子守唄を。トラムが今でも大好きな、船乗りの歌を」
「承知しました」
穏やかに微笑み合って、歌の船は滑り出した。
子爵は目を閉じ、深い、深い、眠りについた。
…………………………………………………………………………
子爵の最初の奥様は『仕事が終われば、使用人も同じ家の住人』と、色や柄違いの寝巻きを、全員分縫いました。
『住み込みの使用人は一日中仕事中』が、常識だった中、異色だったその考え方は、徐々に広まり、やがて来る民主化を受け入れる精神的土壌の一つとなりました。
夫人亡き後、寝巻きは子爵のポケットマネーで、仕立て屋に注文するようになりました。
ルージュサンの寝巻きをイメージしたワンピース
『大人のかんたんソーイング』2019~2020秋冬号 21番をアレンジして作りました。
材料
布(メイン) 160cm×150cm
布(別布A) 32cm×110cm
布(別布B) 5cm×18cm
布(別布C) 5cm×12cm
布(別布D) 5cm×8cm
糸
道具
裁縫道具一式
ミシン一式
1 の番の前身ごろ中央を8cmカットし、縫い代1cmを別布Aの縫い代2cmでくるむように縫い付ける。
2 別布Aが10cm幅で出るように、左右同じ幅でタックを取る。
3 別布B、別布Cは縫い代1cmで夫々リボンを作り、別布Dで中央を縫い止め、前身ごろ中央わ上から20cmの所に縫い付ける。
糸
道具
裁縫道具一式
ミシン一式
1 の番の前身ごろ中央を8cmカットし、縫い代1cmを別布Aの縫い代2cmでくるむように縫い付ける。
2 別布Aが10cm幅で出るように、左右同じ幅でタックを取る。
3 別布B、別布Cは縫い代1cmで夫々リボンを作り、別布Dで中央を縫い止め、前身ごろ中央わ上から20cmの所に縫い付ける。
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