本文を「お呼びですか?父上」
「ああ、ルージュサン。そこに座ってくれ」
子爵が指したのは、座面に緑の布を張った一見簡素な木の椅子だ。
けれどもそれは絶妙なカーブで背に馴染み、長時間の書類仕事でも、あまり疲れない。
壁の色によく合うその椅子は、ルージュサンの成長に合わせて、毎年作り替えられている。
「又、トラムの所かね」
「はい。子守唄を」
「本当にあれは、ひどくぐずるとお前でなければ寝付かない」
「姉冥利に尽きます」
再婚して直ぐの妊娠の兆しに、最初に気付いたのは、マルだった。
当人達も驚いて、大いに戸惑ったが、ルージュサンだけは手放しで喜んだ。
そして家族に溺愛され、トラタルムは元気に育っている。
「私ももう、六十だ。お前が十八になるのを機に代を譲って、相談役になろうと思う」
そして妻と一緒にトラタルムをあやしたり、川遊びをしたりして、少しのんびり過ごしたい。
子爵の気持ちに、ルージュサンはとうに気付いていた。
「承知しました」
覚悟は出来ている。
「同時に爵位も譲るから、そのつもりでいて欲しい」
「それは出来ません」
みるみるうちに、子爵の太い眉が吊り上がる。
「私は跡取りとしてお前を引き取った。お前もそれを受けたではないか!。血筋なんぞを気にしてるのなら、トラタルムは里子に出すぞっ!!」
顔を赤くしてルージュサンを怒鳴り付けた。初めて目にする子爵の剣幕に、ルージュサンは一瞬身を引いたが、直ぐに肩を戻した。
「最初から予測していました。心無い噂がたって、父上が再婚するかもしれない、そして子供が生まれるかもしれない、と。私は一時助け、中を継ぐ者。赤ん坊の時は助けそこなったようですが、私はそういう者。それで良いのです」
「お前はあの時、まだ十二だった」
「船乗りの中には、下世話な話が好きな者もいるものです。私は事業を伸ばして、トラムが大人になったら渡します。父上はトラムを一人前に育て上げ、爵位をお渡し下さい」
「いいや、全てをお前が継ぐのだ」
「爵位は本来、血統とは切り離せないもの。重々分かっているでしょう」
「お前が子を生んで、新しい血筋を作れば良い」
「父上、父上の心にお変わりが無いことも、その言葉に嘘が無いことも、私はよく分かっています。ですからここはお引き下さい。でなければ私は子も生めません」
視線が合った。
お互い本気だった。
数秒の後、若い一途さに、父が譲った。
「分かった。爵位の件は了承しよう。だが事業は別だ」
「爵位の体裁を保つには、事業が必要です」
「・・・・半分もあれば十分だ。半分はお前が継げ」
「では、出資額の半分を私のものとして、配当を頂くのはどうでしょう」
「それも、ずっと考えていたのか?」
「いえ、父上が再婚なさってからです」
「・・・そうか・・・」
子爵は目を伏せて、小さく笑った。
「かなわんな」
ルージュサンは、子爵が律儀な質であることを知っていた。自分が愛されていることも。そして、本気で対峙したときは、より愛している方が負けるということも。
…………………………………………………………………………
ルージュサンはトラタルムに玩具を、時々作ってあげていました。
猫は、魔を見張ってくれるお守りとして、贈り物に好まれていました。
ルージュサンの作った起き上がり小法師をイメージして。
材料
石
粘土
アクリル絵の具
ニス
道具
台
絵の具筆
パレット
ニス用筆
1 石を底にし、卵型に粘土を付ける。
2 乾かす。
3 アクリル絵の具で柄を描く。
4 乾かす。
5 ニスを塗る。
6 乾かす。
絵の具とニスは夫々2回に分けて塗りました。
入力
「ああ、ルージュサン。そこに座ってくれ」
子爵が指したのは、座面に緑の布を張った一見簡素な木の椅子だ。
けれどもそれは絶妙なカーブで背に馴染み、長時間の書類仕事でも、あまり疲れない。
壁の色によく合うその椅子は、ルージュサンの成長に合わせて、毎年作り替えられている。
「又、トラムの所かね」
「はい。子守唄を」
「本当にあれは、ひどくぐずるとお前でなければ寝付かない」
「姉冥利に尽きます」
再婚して直ぐの妊娠の兆しに、最初に気付いたのは、マルだった。
当人達も驚いて、大いに戸惑ったが、ルージュサンだけは手放しで喜んだ。
そして家族に溺愛され、トラタルムは元気に育っている。
「私ももう、六十だ。お前が十八になるのを機に代を譲って、相談役になろうと思う」
そして妻と一緒にトラタルムをあやしたり、川遊びをしたりして、少しのんびり過ごしたい。
子爵の気持ちに、ルージュサンはとうに気付いていた。
「承知しました」
覚悟は出来ている。
「同時に爵位も譲るから、そのつもりでいて欲しい」
「それは出来ません」
みるみるうちに、子爵の太い眉が吊り上がる。
「私は跡取りとしてお前を引き取った。お前もそれを受けたではないか!。血筋なんぞを気にしてるのなら、トラタルムは里子に出すぞっ!!」
顔を赤くしてルージュサンを怒鳴り付けた。初めて目にする子爵の剣幕に、ルージュサンは一瞬身を引いたが、直ぐに肩を戻した。
「最初から予測していました。心無い噂がたって、父上が再婚するかもしれない、そして子供が生まれるかもしれない、と。私は一時助け、中を継ぐ者。赤ん坊の時は助けそこなったようですが、私はそういう者。それで良いのです」
「お前はあの時、まだ十二だった」
「船乗りの中には、下世話な話が好きな者もいるものです。私は事業を伸ばして、トラムが大人になったら渡します。父上はトラムを一人前に育て上げ、爵位をお渡し下さい」
「いいや、全てをお前が継ぐのだ」
「爵位は本来、血統とは切り離せないもの。重々分かっているでしょう」
「お前が子を生んで、新しい血筋を作れば良い」
「父上、父上の心にお変わりが無いことも、その言葉に嘘が無いことも、私はよく分かっています。ですからここはお引き下さい。でなければ私は子も生めません」
視線が合った。
お互い本気だった。
数秒の後、若い一途さに、父が譲った。
「分かった。爵位の件は了承しよう。だが事業は別だ」
「爵位の体裁を保つには、事業が必要です」
「・・・・半分もあれば十分だ。半分はお前が継げ」
「では、出資額の半分を私のものとして、配当を頂くのはどうでしょう」
「それも、ずっと考えていたのか?」
「いえ、父上が再婚なさってからです」
「・・・そうか・・・」
子爵は目を伏せて、小さく笑った。
「かなわんな」
ルージュサンは、子爵が律儀な質であることを知っていた。自分が愛されていることも。そして、本気で対峙したときは、より愛している方が負けるということも。
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ルージュサンはトラタルムに玩具を、時々作ってあげていました。
猫は、魔を見張ってくれるお守りとして、贈り物に好まれていました。
ルージュサンの作った起き上がり小法師をイメージして。
材料
石
粘土
アクリル絵の具
ニス
道具
台
絵の具筆
パレット
ニス用筆
1 石を底にし、卵型に粘土を付ける。
2 乾かす。
3 アクリル絵の具で柄を描く。
4 乾かす。
5 ニスを塗る。
6 乾かす。
絵の具とニスは夫々2回に分けて塗りました。
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