
ダコタは、食前酒のうちから、速いペースで杯を重ねた。
酔いにつられて口が軽くなっていくと、フォッグがサーブ以外の出入を禁じた。
「私とデザントは双子なのです。私が先に生まれたのに、この国では後から生まれた方が兄。だから私は結婚した時、宮殿を追い出されたのだ。貰う手当ては雀の涙で、許されるのはささやかな趣味だけ。この屋敷さえ、王家からの借り物だ。おかしいと思いませんか?」
「それで婚外子とはいえ、王の第一子の私とフォッグを結婚させて、あちらを継がせようと思われたのですよね?」
ダコタが大きく頷いた。
「貴女は話しが早くて良い。私とデザントはいつも一緒で、何もかも同じだった。けれど長兄の耳が不自由になった途端、私達は別物にされてしまった。上から順に跡を取るのが絶対ならば、次の王は貴女だ。ルージュサン」
「妹や弟が黙っていると?」
「我々は切り札を持っている。上手く使えば押さえ込める」
ダコタの顔は真っ赤で、肩が斜めになって来ている。
「父上、早めにお休みになられては?」
フォッグが曖昧な笑みで促した。
「そうか?」
ダコタは怪訝そうな顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「そうか。花の話で気が合ったようだしな。思う存分、語り明かしてくれ」
足元の覚束ないダコタの腰に軽く手を回し、フォッグが寝室まで送って行く。
その姿を見送りながら、ルージュサンは顎先に片手を当てた。
二人でゆったりと夕食を終えると、フォッグは自室にルージュサンを誘った。
薔薇談義で盛り上がり、従兄弟同士という気安さもあってか、口調も大分砕けている。
続きの間はアイボリーを基調に薄茶と淡い緑、そしてアクセントに、程よく明るい色を配してある、居心地の良い部屋だった。
「今日はラットンさんはいないのですか?」
「使いに出しているんだ。戻りは十日後」
「なるほど」
「ここまで来るってことは、私達と組むってことでいいんだよね?」
フォッグがルージュサンの目を覗き込む。
「その前に『切り札』を見せて下さい」
「もっともだ」
フォッグが苦笑した。
「父の書斎にあるんだ。ちょっと待ってて」
フォッグはすたすたと部屋を出て、程なくして戻って来た。
手には丸めた白い紙だ。
「確認して」
ルージュサンにポン、と渡す。
ルージュサンは一読し、静かに返した。
「王妃の不貞を盾に取って、妹達を、黙らせるつもりなのですね」
「まあ、そんなとこです」
フォッグは手紙をチェストの引き出しに入れた。
そしてルージュサンの左手首を握る。
「分かってるよね?これは契約なんだ」
そのままゆっくりと寝台へと進み、静かに押し倒す。
「それは、誰の願いですか?」
ルージュサンの目が光った。
「それは、本当に貴方が、心から望んでいる人生なんですか」
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