ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園ーFの物語ー 薔薇の館

2020-12-05 09:32:35 | 大人の童話
「私は今、困っています」 
 迎えの馬車の中で、フォッグがルージュサンに笑いかけた。
 そうすると目尻が下がり、本当に困っているように見える。
「何故ですか?」
 ルージュサンは、少しも困っていない。
「私は、身長と顔と蹴鞠には、まあまあ自信があったんです。けれどコラッドさんを見て、私の顔などあだ物だと思い知ったし、背も高過ぎて均整を欠く。蹴鞠はメロにさえ敵わない」
「いつも彼と練習を?」
「はい。暇にあかせて」
「彼は好青年ですね」
フォッグが目を細めた。
「メロは素直で欲がない。隣にいるとほっとします」
「雇われて、長いのですか?」
「彼が二十歳の時からなので、十二年になります。コラッドさんは、どうなんですか?」
「四年前、一緒に拉致されたんです。以来雛の様に付いて来ます」
「雛?じゃあ恋人ではないんですね?」
フォッグが嬉しそうに瞬きをした。
「友人の息子ではあります。見た目だけでも置いておく価値はあるでしょう?」
ルージュサンが、悪戯っぽく微笑みかける。
「確かに!」
二人は声をたてて笑った。

 庭には何十種類もの、花が咲き乱れていた。
 クリーム、ピンク、淡いパープル。
 丸い五弁、縮れた小さな花、吊り鐘型。
まるで野の様に細やかな変化を見せるよう、全てが算し尽くされている。
 つる薔薇が渡されているアーチの奥には東屋が、庭の隅には温室が、美しく配されていた。
 馬車を降りるなり歓声を上げたルージュサンに、フォッグは少し驚きながら、庭の案内を始めた。
「暇にあかせていじっているんです。こんなに喜んで頂けるとは」
「これ程繊細な庭を、拝見したのは初めてです。このアーチに絡ませてある薔薇の、名前を教えて頂けますか?花弁の曲線が、とても美しい」
「『ポーラ』です。亡き母の名前を付けました」
フォッグが嬉しそうに語る。
「貴方が作られたのですね!もしやこの薔薇も貴方が?」
 東屋の入り口で、ルージュサンが蔓薔薇を手に取った。
 形は『ポーラ』と同じだが、クリーム色の花弁の縁から、淡いピンクが差し込んでいる。
「よく分かりますね。一番気に入ってます」
「あの温室で品種改良を?」
「楽しいですよ。右の白薔薇もそうです」
「こちらは葉の色も面白いですね。一体いくつ作られたのですか?」
「三十ちょっとです。そんなことより、薔薇がお好きなんですね。同好の士とは、嬉しい限りだ」
フォッグは満面の笑みだ。
「素晴らしい才能も、本人には当然のこと。案外気付きにくいものなのですね。それにしても素晴らしい」
 ルージュサンが溜め息を吐いた。

先ずは一通り、その後じっくりと庭を味わってから、フォッグとルージュサンは家屋に入って行った。
食堂では初老の男が、苛々と部屋の中を、行ったり来たりしていた。
二人に気付くと両腕を広げ、おおらかそうに微笑んでみせた。
「初めまして。ダコタ=カナライア、フォッグの父です。庭が随分、お気に召したご様子ですね」
「お招き有難うございます。ルージュサン=ガーラントと申します。本当に素晴らしい庭で、眼福でした」
「おや、そうですか」
ダコタが片眉を上げた。
「それでは息子と結婚しては如何ですか?毎日眺めて暮らせますよ」
「夫付きの庭ですか。じっくり検討させて頂きます」
 ルージュサンが笑顔で返す。
「是非お願い致します。貴女のように、一緒にいて楽しい女性は初めてです」
 フォッグも笑顔で頷く。
「ところで息子から聞いたんだが、ジャナ生まれの船育ちで、父親と妹がこの町に居るというのは本当かね?」
 ダコタが何気なさを装おって聞いた。
「弟もです。ご安心を。私は貴殿方が求めている者です。叔父上」
ルージュサンがダコタの視線を捕らえた。



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