
木の靴底が土を蹴る音に、一行は振り向いた。
目に飛び込んだのは、若い女がドレスを閃かせ、全力で走る姿だ。
ルージュサンとセラン、ムンは道を開けたが、避け損ねたオグが女にぶつかり、派手に尻餅を着いた。
「すみませんっ」
そう言って立ち上がろうとした女が、自分の裾を踏み、又膝を着く。
「捕まえてくれっ!」
野太い男の声がした。
反射的にオグが女の右手首を掴む。
今度はごま塩頭の男だった。
必死の形相で走ってくる。
「すまん。助かった」
息を切らせながら言うと、女に左手を伸ばす。
オグは急いで立ち上がり、女を背に庇った。
「それは家の娘だ。渡してくれ」
「止めてよっ。もう決めたの」
睨み合う二人を、オグが見比べる。
「渡しても逃がしても、後味が悪い。話を聞かせて下さい」
「悪いがあんたには関係ない」
「いいから放して下さいっ」
二人が同時に言う。
オグがまず、女を見た。
「こんな風に逃げても、親を心から振り切るなんて出来ない。きっと後悔する」
女はすがり付く様な目で、首を小さく横に振る。
「そうだ。とにかく家に戻ろう」
再び伸ばされた男の手を、オグが阻む。
「帰せるわけないだろう!」
オグの視線が、男の右手に注がれた。
その手にはナイフが握られていた。
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