
翌朝は快晴だった。
エクリュ村出身の老夫婦は、息子夫妻と孫を連れて見送りに来た。
「何も出来なくてすまない」
白髪の老人がセランに言った。
「本当に。『神の子』がいないばっかりに」
老婦人がそう付け加えながら、弁当を渡す。
その手はすぐに、男の子の肩に置かれた。
珍しそうに一行を眺めるその子の頬はふっくらとしていて、オパールとトパーズより、二つ三つ年嵩に見えた。
ルージュサンはその子の前に屈んだ。
「おはようございます。私はルージュサン=コラッド。貴方の名前を教えて貰えますか?」
「ケッタ」
「ケッタ。良い名前ですね」
ルージュサンがケッタの頭を撫でる。
「ルージュサンもね」
ケッタもルージュサンの頭を撫で返す。
場の雰囲気が、一気に和らぐ。
「有難う」
そう言ってルージュサンが立ち上がった。
「私の母親は、私を逃がす為に自らを傷付け、私の義母は息子の将来を思って、罪に手を染めました」
ルージュサンの視線が老婦人に注がれる。
「セランの両親が詳しく知っていたら『神の子』が生まれないよう、仕向けていたかもしれません。親なら当然の気持ちですから。けれども実際は何もしなくても『神の子』は生まれませんでした。生まれるものなら何をしても生まれ、生まれないものなら何をしても生まれない。宿命とはそういうものなのだと思います」
ルージュサンがにっこりと笑った。
「そしてこの旅を私達は選んだ。それだけのことなのです」
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