音楽が好きな犬だった。
横笛を吹き始めると、いつも、気持ち良さそうに、体を伏せて聴いていた。
そして抜群に頭が良かった。
じっくりと語り聞かせれば、概要は把握出来るようだった。
人への信頼を取り戻せれば、後は早かった。
預かって一年で、新しい飼い主に届けることになった。
最初の宿では、亭主と女将がほっとした様子だった。
一年前フィオーレが泊まってから『金狼』が出なくなったので、彼女がそうだったのではと、気を揉んでいたのだろう。
峠を越すと、急にフィオーレが警戒した。
ナザルに言われた通り、フィオーレの今後について『ミンガ』に大声で伝言を頼んで、先に進んだ。
海を渡って一日歩くと、目的の家に着いた。
歓迎され、勧められた椅子は、柔らかく、俺をしっかりと包み込み、深い眠りへと誘った。
目を覚ますと、フィオーレは飼い主達とすっかり馴染んでいた。
これなら安心だ。
「最近フィオーレが出迎えに来てくれない」
「子供達と一緒にお昼寝です。子守り上手の、本当に良いお姉さんぶりなんですから、我慢して下さい」
拗ねる夫をなだめながら居間に戻れば、ソファーベッドの上に、金と銀の塊がある。
「本当だ。境目が分からない」
見事に整った顏の、目尻は下がりっ放しだ。
「愛しい塊です」
優しい声で返す。
「僕も入って良いよね?」
「勿論です。愛しい人ですから」
極甘の微笑みを返してから、言葉にした。
「僕も愛しています。この上なく」
蕩けるように見つめ合う。
やがて、セランが三人を囲むように横になる。
ルージュサンは静かに、『船乗りの子守唄』を歌い始めた。
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