大通りの端にある小さな空き地には、人だかりが出来ていた。
旅の一座が、大道芸を披露しているのだ。
市や祭りに合わせて各地を回り、この街はこれが最後だった。
二人組のアクロバットと、動く紙人形、大きなサイコロを使った芸が拍手で終わる。
西側に立てられた大きな板の陰に中年の男女が下がり、代わりに脚付きの篭を両手に持った女性が二人、中央に歩み出ると、今までとは異なるどよめきが起こった。
その内の一人が、街では知られたルージュサンだったからだ。
もう一人は、色違いの服を着た同年輩の美女だ。
二人はよく似ていた。
女性が板の横に戻ると、ルージュサンは両脇に篭を立て、中から掌に乗るほどの毬を取り出した。
赤地に金色を施した毬は、ルージュサンの赤毛に綺麗に馴染んでいた。
最初は二つ、直ぐにもう一つ、更に一つと、次々に増やしながら空中で回していく。
そして不意に、その中の一つを女性の横に投げた。
板の陰から少年が出て来て、反射的に受けとる。
戸惑う少年に女性が微笑み、篭から緑色の毬を取り出した。
少年が目を見開いて、女性から毬を受けとる。
そして唇を引き結び、鼻から息を吸い込むと、笑顔を作って両腕を広げた。
ビラ配りをしていた三人の中で、一番年嵩だった少年だった。
見物人から拍手が起こる。
少年が女性から次々と毬を受け取り、空中で輪を描かせる。
六個目になった時、客の一人が高く口笛を鳴らした。
少年の集中が僅かに乱れる。
毬が一つ落ちた。
女性がにこにこと緑色の毬を拾い上げ、ルージュサンに投げる。
ルージュサンはその毬を受け取って、自分の毬の輪に加えた。
そのまま暫く操って、毬を女性に投げ返す。
それは赤い毬に変わっていた。
いつの間にか、緑の毬は消えている。
女性が毬を差し出すと、少年は五つ操っていた中に、それを加えた。
少年の顔からは笑みが消え、額に汗が滲んでいる。
北側に立てられた板の横から、ルージュサンの足下に大きな玉が転がって来た。
ルージュサンは毬を操りながら、笑顔でその玉に乗る。
観客から歓声が上がった。
少年の手からまた、緑の毬が落ちる。
女性が毬を拾って放ると、ルージュサンは再びそれを加えて毬を回し、投げ返す。
それはやはり赤い毬で、緑色の毬はいつの間にか消えていた。
少年は毬を受け取り数回廻したが、今度は赤い毬を落とした。
小さな溜め息を吐くと全ての毬を女性に返し、少年は板の陰に姿を消した。
女性は少年の毬を篭に納めると、懐から大きな目隠しを出した。
女性が横に来るとルージュサンが玉から下り、背中を向ける。
目隠しをしてもらうとルージュサンは又玉に乗り、今度は足も使って自在に毬を遊ばせ始めた。
大盛り上がりの中、毬を連ねる様に篭に入れると、ルージュサンは西側の板の前に立った。
同時に北側に立てられた板の陰から、偉丈夫がするりと出てくる。
南の端まで歩くと男は振り向き、北側に立てられた板に立て続けにナイフを放った。
不審に思った見物人達も、次第にその意図に気付いていく。
男はナイフで、ここの国旗に描かれている、恵みの果実を形作っていたのだ。
十五本の赤いナイフでその作業を終えると、男はゆっくりと東側に移り、茶色いナイフを二本取り出した。
-カチャン-
男がナイフを高く掲げ、刃を打ち鳴らすと、ルージュサンがスラリと剣を抜く。
男がルージュサン目掛けてナイフを投げると、見物人が一斉に息を呑む。
ルージュサンがそれを剣で払うと、見物人がほっと力を抜く。
-ガッ ガッ ガッ-
二本目からはテンポよくナイフが投げられ、観客は息つく間もなく、その光景を見守っている。
十七回目に飛んで来た青いナイフを空高く弾くと、ルージュサンは素早く剣を鞘に納め、ナイフに持ち替える。
次に来た青いナイフに勢いよく投げつけると、二本一緒に左に跳ねた。
その先にある板に全員の視線が注がれる。
そこには国旗そのままに、茶色い知恵の鳥が、青い勇気の双眸を光らせ、赤い恵みの果実を抱いていた。
観客から歓声が上がり口笛が響く。
この事は人伝で都中に広がり、昼の興業は更に、午後にはそれ以上に、観客が詰め掛けた。
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