ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園ーFの物語ー 会いたい人には何度でも会いたい

2020-10-18 22:25:10 | 大人の童話
「ルージュサン」
珍しく静かな声でセランが呼び掛けた。
「何ですか?」
後ろの寝台でルージュサンが答える。
「僕のご両親は許嫁で、適度な距離のある家族でした。お陰で僕は、のびのびと育ちました」
「そうですか」
「そのせいか、母が亡くなって父が再婚しても、素直に喜ぶことが出来ました。それどころか『運命の恋』に、感嘆したものです。父はその後すぐに亡くなりましたが、義母は逞しい人なので、心配は無かったと思います。現に店を上手く切り盛りしてくれています」
「はい」
「けれど僕は、母にもう一度会いたいです。いえ、何度でも会って、母の好きな歌を聞いてもらいたいです。父にも会いたいです。会って、運命の相手と生きていくと、貴女を紹介して、安心してもらいたいです」
「私の同意は?」
「いりません。紹介するのは僕ですから」
「変わった理屈ですね。覚えておきます」
「どうぞ」
セランが少しぶっきらぼうに言う。
「貴女は実のご両親に、会いたくないんですか?」
「母には会いたい。父には会ってみたい、といったところでしょうか」
「それは、この旅と関係ありますか?」
「目的ではありませんが、父には会うことになるかもしれません」
「お母様には?貴女をさらわれそうになって、助ける為に船荷に紛れ込ませたんですよね。生きているんでしょう?」
「私を育てた船長が、二十年前に探し出してくれました。その時に母から、十年前に二人が和解したときに二人から、手紙をもらいました。私には会いたくないそうです」
「だから会わないんですか?」
「はい」
沈黙が続いた後、ルージュが言った。
「お休みなさい。せめて夢で、会えるといいですね」



「おはようございます。朝食をおもちゃのまちしました」
声を掛け、行儀よく入ってきたアスルは、慌ててトレーをテーブルに置いた。
「おはようございます。有難うございます」
そう言って、ルージュサンが立った横の寝台には、セランが起き上がれないよう、縄が張ってあったのだ。
「どつくタイミングを逃しましたか?」
「いえ、今説明します。セラン、起きて下さい。朝食ですよ」
「え、あ、愛しのルージュサン。貴女に起こしてもらえるなんて、まるで新婚みたいですね」
うっとりとルージュサンを見上げてから、何気なく起き上がろうとして、セランは縄に引っ掛かった。
ゴンツ!!
寝台に後頭部を打ち付ける。
「何っ、何ですか?これ!」
セランの驚きをよそに、ルージュサンが質問をする。
「以前船旅をした時は、雑魚寝でもよく眠れたと、言っていましたね」
「はい?そうです」
「起きた時、何か変わったことはありませんでしたか?」
セランは黒目を斜め上に寄せた後、大きく頷:た。
「そう言えば、皆さん僕のいた反対側の壁に、固まっていました」 
「と、いうことは?」
セランは二度、瞬きをすると、輝く笑顔に、なった。
「僕は船だと転がってしまうんですね。だから落ちないよう、縄を張ってくれた。僕はこれから毎日、貴女の愛に縛られて、眠れるんですね」
ルージュサンがアスルを振り向いた。
「と、いうことです。紛らわしい真似をしてすみません」
「いえ、こちらこそ失礼致しました」
自分は本当に一人前になれるのか、アスルの不安は増す一方だ。
「大丈夫ですよ。彼は特殊なんです。扱いに苦慮するのは当然です」
ルージュサンがゆったりと微笑み掛けた。
「彼は海の上では、ちょっとしたことが、命取りになることを理解しています。不埒な真似については、ご安心下さい。多分、どつく指示に関しては・・・」
「関しては?」
アスルが聞き返す。
「船長が面白がっているだけです」
ルージュサンが、気の毒そうに言った。










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