本日3月29日は、東学党の乱が起こった日で、日本で金本位制の貨幣法が公布された日で、衆議院議員選挙法が改正されて選挙権がそれまでの直接国税15円以上から10円以上に引き下げられた日で、日本初の労働法である工場法が公布された日で、日本の衆議院本会議で革命を賞賛して議会政治を否認する発言をしたとして川上貫一議員の除名処分が決定された日で、ソンミ村虐殺事件の軍事法廷でウィリアム・カリー中尉に終身刑・他の13人に無罪の判決が出た日で、アメリカ軍の最後の兵士が南ベトナムから撤退した日で、ニューヨーク証券取引所のダウ平均株価が初めて10000ドルを突破した日で、モスクワ地下鉄爆破テロが起こった日です。
本日も倉敷は晴れていましたよ。
最高気温は二十二度。最低気温は八度でありました。
明日も予報では倉敷は晴れとなっております。
或る夜の事。
狐は先輩と一緒に或るパブリック・ハウスのカウンター席に腰をかけて、絶えずミルクを舐めてゐた。
狐は余り口をきかなかつた。
しかし先輩の言葉には熱心に耳を傾けてゐた。
「御酒には媚薬効果があるというが、媚薬効果ではなく脳内の様々なリミッターを酒精で麻痺させているに過ぎない。酒精によって人は普段は抑えられている欲望が剥き出しになつてしまふだけなのだよ」
先輩は頬杖をした儘、極めて無造作に私に述べた。
「つまりだ。人は基本的にはすけべえであるといふことなのだよ」
左様でございますか。
「そうとも。一年中発情している動物なんてとても珍しいのです」
そうなのですか?
「うむ。ところで私はお水が欲しいの。君、マスターに頼んでお水を貰つてきてくれ給へよ」
狐は、マスターにチェイサーを頼み、ついでに自分用にカルーアを注文した。
「うむ。此処にお水が入つた割賦がある。私は大変に酔つている。お水を飲もうにも零してしまいそう。君、私にお水を飲ませておくれ」と先輩は目を潤ませて云つた。
そんなに酔つているやうには見えませんが?
「む。君は私の言葉を疑うのかね?」
否ですよ。疑つたりはしません。
「では私にお水を飲ませ給へ」
狐は割賦を捧げ持つて先輩の口元に寄せた。
「違う違う違う! 口移しで頂きたいの! 口移しで!」
む。酔つているふりをすれば何でも要求が通ると思つていませんか?
「ちよつと思つておりまする」先輩はにへらと笑つた。「口移し! 口移し!」
断固拒否します!
狐は、割賦の中でカルーアとホットミルクと混ぜ合わせてカルーア・ミルクを作り、舐めた。
私の言葉は先輩の心を知らない世界へ神々に近い世界へと解放したのかもしれない。
先輩は言つた。「いけず。私のことが好きなくせに」
先輩は勘違いしている。それとも勘違いをしているのは私なのか?
狐は何か痛みを感じた。が、同時に又歓びも感じた。
人の考えとはわからぬものであるな。面白ひものだ。
其のパブリック・ハウスは極小さかつた。
然しパンの神の額の下には赫い鉢に植ゑたゴムの樹が一本、肉の厚い葉をだらりと垂らしてゐた。