(里山のカカシ)
3時間後、耕一が乗る定期船は横浜港の高島桟橋に着いた。
高島桟橋から船舶会社がある関内までバス便で行く予定だったが、道路のあちこちは崩壊したビルの瓦礫が残っており、一部しか運行していなかった。
耕一はバス便をあきらめて瓦礫の間を歩き始めた。
しかし道順も方向も分からない。途中で道に迷ってしまった。
道行く人に尋ねながら歩いて行ったが、とうとう日が暮れてしまった。
通常であれば2時間も歩けば目的地に着ける距離なのだが、もう5時間も歩いている。
疲労困憊して目的のオフィスにたどり着いた時には、事務所は真っ暗で誰もいなかった。
耕一は焦った。出社指定日は今日なのである。今日中に会社に着いて社長に挨拶しなければいけなかったのだ。
道に迷って遅れてしまった。
やむを得ない。明日出直すしかない。
耕一はビルの外に出てまた歩き始めた。
今夜のねぐらをどうしようかと考えながらトボトボと歩いた。
浮浪児があちこちにたむろしていた。
リーダーらしき少年は自分と同じくらいの年恰好だ。
彼らもみんなこの戦争で親を亡くして孤児になったかわいそうな連中だ。
自分はまだ幸せな方だ。
自分には仕事がある。
明日になれば・・・・・・。
しかしその時の耕一は小遣い銭程度しか持っていなかった。旅館やホテルに泊まる余裕はない。
野宿をする場所を探して夜の横浜の街をさまよった。