「星の流れ」をつぶやきながら、耕一はヨロヨロと歩き続けた。
いつしか雨はあがり、雲間から月が顔をのぞかせていた。
フラフラと歩く耕一の足はあの場所に向かっていた。
《あそこでゆっくり眠りたい》
耕一はそう思った。
向かっていたのは横浜港の高島桟橋だった。
その桟橋は、耕一が千葉から横浜に着いた時に上陸した場所であった。
「ここから俺の新しい人生が始まるんだ!」
十六歳の少年が、胸を膨らませて上陸した場所である。
その思い出の場所に戻ってみたかった。
そこへ行けば、それまでの館山の生活も思い出されるだろう。
その桟橋に上陸したのは、まだ数日前のことでしかない。
だが耕一には、それはもう1年以上も前のことのように感じられた。
白い犬が前を歩いていた、ような気がした。
「シロ・・・・」
と、小さく呼んでみたが返事はなかった。
だが、何かに引かれるように、自分は今歩いている、と感じていた。
やがて港が見えてきた。
見覚えのある高島桟橋が見えてきた。
淡い月明かりの下で、その桟橋が静かに横たわっていた。
ヨロヨロと耕一は桟橋を歩いた。
懐かしい潮の香りが耕一の身体を包んだ。
桟橋の先端にロープを繋ぐコンクリの太い杭があった。
耕一は倒れるようにその杭に寄りかかった。
《あぁ、これで眠れる》
と、耕一は思った。
眠ることがこれほど気持ちの良いものかと感じた。
このままづっと眠り続けていたいと思った。
月明かりの下で、耕一は深い深い眠りに落ちた。