クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

愚連隊とジャガイモ

2014-07-17 13:28:50 | 日記

南京町で残飯をもらった耕一は、夕方、山下公園の木の下でそれを食べた。

その夜、激しい腹痛と下痢に襲われ胃の中の物を全部出した。

月も星も見えない真っ暗な夜だった。

朝、頭を蹴飛ばされて目が覚めた。

目を開けて周りを見ると、数人の浮浪児の顔が見えた。

リーダー格が言った。

「おい、てめえ! こんなとこで寝てんじゃねえぞ! どっから来たのか知らんが、邪魔だからとっとと出て行け!」

そう言うと、棒を持った他の浮浪児が耕一の身体をこづき始めた。

耕一はヨロヨロと起き上がり、そしてノロノロとそこから離れた。

大通りに出た。

トラックやジープが「パアパア!」と警笛を鳴らしながらスピード上げて走っていた。

《あの車の下に飛び込めば死ねるかも知れない》

《この世の地獄から、苦しみのない天国へ行けるかも知れない》

夢遊病者のように、耕一はフラフラと歩道から車道へ入って行った。

「キィーーーー!!!」

と、急ブレーキを踏む音が響き、

「馬鹿野郎!!」

と、怒鳴り声がした。

我に返った耕一が止まった車の方を見ると、運転席の窓を開けて、首に白いマフラーをした愚連隊風の男が顔を出した。

「おい若いの、命を粗末にするんじゃないぞ。これでも食っておけ」

そう言うと、車の窓から新聞紙の包みを放り投げ、「じゃあな!」と言って去っていった。

その包みはまだ温かかった。ゆっくりそれを開けると、中からふかした大きなジャガイモが出てきた。

おそらく、そのジャガイモはあの男の昼飯であったに違いない。

 耕一は走り去るトラックを、唖然として見つめていた。

 

愚連隊はチンピラとは違う。チンピラはヤクザの手下であるが、愚連隊は特攻くずれである。

特攻隊として戦地に片道切符で死にに行く運命にあった若者が、幸運にも生きて日本に還ってきた。だが日本に戻った彼らを待っていたのは「軍国主義の走狗」というののしりであった。

祖国のために命を捧げ、潔く死ぬ覚悟で生きてきた彼らは、そのやり場のない怒りを愚連隊となって発散させた。

焼け野原となった祖国で、信じられるものを求めて、自分の生きる道を探し、もがき苦しんでいたのだ。

後にヤクザ映画などで人気俳優となった鶴田浩二も特攻くずれであった。

温かいジャガイモを手にした耕一は、《これは夢に違いない》と、思った。

《俺は今、夢を見ているんだ。このジャガイモを食べたら夢から覚めてしまう》

そう思った耕一は、ジャガイモの包みを両手で大事に抱え、またフラフラと歩き始めた。

 

 

コメント (5)
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