やっと咲いた桜もここ二,三日の風と雨ですっかり葉桜となってしまった。今年の桜は愛でる間もなく散ってしまった
井の頭公園はそんな桜の季節に自らの人生を間に合わせようという人でごった返していた。
恋人たちも急かされるのようにスワンボートを漕ぎ、早口で愛を語り合い結論を求めている。
子を持つ親たちも慌ただしく、あるだろうはずの絆を確かめ合っている
人々はすぐそこに世界の終わりが待っているかのように、スケジュールに従い急ぎ足で世界と時を消化している。
水面には薄紅色の絨毯が敷かれ、揺れ、捻じれ、揺蕩い、無性に心を掻き立てる。
何もなされることもないのに人々は心をざわめかせ、虚ろな高揚で充たす
喧騒をよそに水鳥は午睡し
きらめいて揺れる花筏、乱反射する色彩の中、喧騒はやがて実りなき幸福感とともに虚空へ吸い込まれ
残されるのは澄み切った青空、そしていつの間にか葉桜の季節へと変わっていく