斉東野人の斉東野語 「コトノハとりっく」

野蛮人(=斉東野人)による珍論奇説(=斉東野語)。コトノハ(言葉)に潜(ひそ)むトリックを覗(のぞ)いてみました。

番外編 【「アンドリュー」考】

2017年06月03日 | 言葉

 筆者(斉東)の新聞社時代の先輩である島中誠氏(元ニューヨーク特派員)より、以下のようなメールが寄せられました。興味深い内容なので、氏の了解を得て転載いたします。

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 6月2日付け読売新聞朝刊のコラム編集手帳に「7代目アンドルー・ジャクソン大統領」という記述がありました。「アンドリュー」ではなく、「アンドルー」と書いていたことには驚きましたね。編集手帳をめったに誉めない僕も大いに感心し、本社に電話しました。いったい、何に感心したのか。
 「Andrew」、あるいは「Andrews」をわが国ではずっと「アンドリュー(ス)」と書いてきました。ゴルフ場の聖地(St.Andrews)、イギリスの王子(Prince Andrew)、女優・歌手(Julie Andrews)みなしかりです。どんな英和辞書を引いても、インターネットの発音辞典で聞いても「アンドルー(ス)」になっているのに、どうして「アンドリュー」と書くのか、いまだに不思議に思っているのです。

 僕は何年もかけて、この「rew(s)」の発音について調べましたが、「brew」も「crew」も「drew」も「grew」も、全て「ルー(ru:)」です。当然スクリューもスクルーと書かなければいけないのです。「グリュー」だの「ドリュー」だのでは、何か気持ちが悪い。米メジャー・リーグのMilwaukee Brewersはブルワーズと書かれています。これは例外的に珍しく正しい表記と言えます。
 結局、僕が出した結論は<英語の発音には日本語の「竜」「流」などの「りゅう」に当たる「ryu:」がない>というものでした。石川遼君が米ツアーに参戦したころ、記者会見で現地ゴルフ記者から「君のRyoという名前は発音しにくいね」と言われました。遼君は「じゃあ、Rioでいいです」と当意即妙に答えた。すると「そうか、それなら発音しやすい」と歓迎されたことがあった。Rio de Janeiro、Rio GrandeなどのRioならだれでも知っていて、発音できます。「Ryo」の発音が英米人には難しい!これは僕にとって一大発見でした。Ryoが難しければ、ryuはもっと難しいことになります。

 ここ数か月、「アンドリュー・」ジャクソン大統領が頻繁に登場するのは、米英戦争で英雄になり、初の“平民大統領”として登場したこの人物をトランプ大統領が尊敬し、その肖像画を執務室に飾ったから。いい機会なので、この辺で「アンドルー」に統一してもらいたいと思っています。

 中公文庫に「カーネギー自伝」がありますが、訳者の坂西志保さん、解説の亀井俊介さんがそろって「アンドリュー」と書いていることに、いたく落胆したものです。英米文化を紹介する専門家がこれですからね。
 ついでに――昨年レイア姫ことCarrie Fisherが亡くなりましたが、訃報記事に「彼女の両親はDebbie ReynoldsとEddie Fisherである」と書いたところがほとんどなかった。一部に「母はデビー・レイノルズ」と書かれていましたが、Reynoldsはレノルズないしレナルズであってレイノルズとは発音しない。なんとひどい表記でしょうか。
 などと今更僕が騒いでも手遅れだということは重々承知しているのですが。
    < 島中 誠 (Makoto Shimanaka)>

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