鉄道に興味を持つ多くの方々がご存知の通り,わが国における鉄道の大半は狭軌すなわち1067 mmゲージで建設されている.現在のわが国における多くの路線において,この軌間は技術的に大きな足かせとなっているのも周知の事実である.小型の車両を低速で運行していた明治時代ならともかく,大型の車両を高速かつ安全に走行させる必要がある現在においては,もっと広い軌間が必要である.いささか乱暴な話ではあるが,
2005年にJR福知山線で発生した事故などは狭軌のまま無理を重ねた結果起きた悲劇であると考えることもできる.
わが国にもかつては広軌改築計画なるもの(狭軌を標準軌に敷設し直す計画)があったが,いくつかの理由によりそれは中止となってしまった.さまざまな困難を伴う改軌を行うより先に,狭軌のまま鉄道路線の拡充を行うべきであるとの意見が優勢であったからと聞く.いったん狭軌で敷設されてしまった鉄道を標準軌すなわち1435 mmゲージに改築することは,大変な困難を伴うものなのである.
この改軌に伴う困難は,突き詰めれば,1067 mmゲージから1435 mmゲージへの移行を円滑に行うことが事実上不可能であるという点に由来すると言っていい.旧軌間から新軌間への移行には,その路線を相当な期間にわたって運休させた上で,大規模な工事を軌道と車両の両方に施す必要がある.さらに,改軌は一部の路線だけを対象に行うわけにもいかない.軌間が異なれば車両が直通できなくなってしまい,路線網が寸断され,車両等の運用に大変な支障をきたすからである.改軌を断行するということは,あるエリア内にある鉄道路線の大半を相当な期間にわたり運休させ,途方もない資金と人員を投じて工事や改造を行うことに他ならない.これはもう鉄道会社や地方自治体の手に負える話では到底ない.まさしく国家の一大事である.
もし仮に,同一軌道上に狭軌と標準軌を併存させることができるならば,話は途端に簡単になる.しかしながら,同一軌道上に1067 mmゲージと1435 mmゲージを併存させることは技術的にほぼ不可能である.青函トンネル,箱根登山鉄道,鉄道メーカーの工場内など,三線軌条を用いて異なる軌間の共存を図っている例はあるが,これは車両の中心線をずらしてしまうため,一般の路線に応用することは困難である.ならば四線軌条とすればよいのではないかという話になるが,こんどは分岐器(ポイント)などの対応が難しくなる.
このように,368 mm異なる二つの軌間を共存させることは事実上不可能である.しかしながら,レールの中心間距離が184 mmでは分岐器を作れず368 mmあれば作れるという事実は,我々に大切なことを教えてくれている.
つまり,標準軌の1435 mmに改軌しようなどという固定観念にとらわれず,定義どおりの広軌にまで改軌してしまえばよいのである.このさい,インドと同じ1676 mmにしてしまっても,かつてイギリスのグレート・ウェスタン鉄道が採用していた2140 mmにしてしまってもよいのである.後者であれば,現在標準軌で敷設されている新幹線や私鉄路線までも一緒に改軌させて新軌間に統一してしまうことが可能である.もちろん,キリのよい2000 mmにしてしまうのもよい.
日本は幸いにして島国であるゆえ,1435 mmのアジアや1520 mmのロシアとの直通は考えなくてよい.このことを逆手に取って,日本の鉄道を広軌にしてしまうことを提唱したい.