夜中にこぎ出した
福島、野田。
したたか、とまではいかないけれど、私はお酒に酔っていた。
ここから吹田へ帰るとき、私は必ず吐いた。
そういうふうになればなるほど
なるまいなるまいとしていた。
冗談でもいい
自転車に「おい、うちへ帰らせてくれ」
とつぶやいた。
とたんにペダルが、すっ、と軽くなって、
信号機のアーケードを、順番にくぐりぬけて行くのだった。
かどを、ぬぬっと曲がるのだった。
私は心配になった。
自転車が意思をもって走るということは、総じて、自転車の寿命を縮めることになるのじゃあないか、と。
「すみません。こんなことさせて」
と私はつぶやいた。
自転車は快速で言った。
「やっと、わたしのこと、ほんとうに言ってくれましたね」
家に着くまで私は自転車と話した。思い出ばなしが主だった。
自転車は、ずっと敬語なのだった。
自転車と、こんなにも話したのは初めてだった。