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気ままに生活してるシニアの残日録

恩田陸「蜜蜂と遠雷」を読む(その4、完)

2023年09月01日 | 読書

(承前)


(浜コンのHPから拝借)

本書を読んで勉強になった部分も多かったが、批判的なコメントも書いてみたい。

  • 本書は上下二巻の文庫本であり、それなりの量がある。私は上巻を読み終わって下巻の途中からつまらなくなってきた。第1次予選、2次、3次、本戦と進む展開が読めるし、サプライズ的な展開がほとんどない。コンテスタントが弾く曲の解説などが同じようにずっと続くことが予想できた。ここにこの作品の限界があるのではないか。
  • この先、どうなるのかな、とゾクゾクするような、途中で読み終えるのが我慢できずに全部読んでしまいたいという気持ちにはならなかった。現に作者自身が「これ、面白いのかな、音楽と演奏が延々と続くだけの話」と当初連載の3校ゲラができた時に編集担当者に漏らしていることが巻末に紹介されている。
  • 直木賞の審査委員の評価と、作家が感じている本の評価とが一致していない、という現実。作家が「この本面白いのかな?」と思っている本が受賞する、本書ではないが、審査委員も見識が問われるだろうなと思った。

さて、本書をより面白くするため、ストーリーをこのようにしてはどうかと素人ながら考えた。

  • 2次予選でマサルと同じジュリアード音楽院で勉強しているライバルの女性、ジェニファー・チャンが予選落ちした。チャンは2次予選後の懇親会で審査委員に抗議したが、諭され、静かに会場を去った。しかし、彼女はそのまま引き下がるような女ではなかった。
  • マサルが本戦に出場すると知ると、審査委員ナサニエルの弟子マサルがコンテストに応募するのは利害関係があるので公正な審査が期待できず、おかしいと本戦中にコンテスト事務局、審査委員長、更に国際音楽コンクール世界連盟に抗議したのだ。
  • 国際連盟にまで抗議され、大会の審査委員はチャンの指摘を握りつぶすことはできなくなり、マサルの応募者適格性について水面下で議論になった。応募条件にはそのようなことは書いてなかったから余計に議論が紛糾した。しかし、応募条件自体がおかしいのでは、との連絡が国際連盟から入る。
  • 影響の大きさから本戦終了時まで結論が出ず、本戦終了後の最終審査でついにマサルの失格を決定する。チャンが自身のSNSでも名指しはしないが、抗議の投稿をしたため本戦中に噂が広まり、会場でも誰だかわからないが失格の噂が話されるようになる、本書の中では風間塵が失格ではないかと噂が出ることが書かれている。
  • しかし、蓋を開けてみればなんとマサルが失格となり、優勝は栄伝亜夜となった。スコアを一部修正して演奏をした風間が失格ではと思っていた観客は意外な結果に呆然とした。

いろいろ勉強になって良い本だったが、読んで感動するか?、と問われれば、私にとってはそのような本ではなかった。

(完)



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