
村上編の最後、これはもう個人的趣向の極みだけど、この標語を避けては通れない。観光客が通るような場所ではなく、生活道路の一角に問題の標語は書かれている。青く塗られたコンクリートの塀は色褪せ、遠い昭和の少年時代を思い起こさせる。
「皆んなで鮭の子をふやしましょう」、これほどジワジワくる標語は類を見ない。お年寄りを大切にしよう、明るく大きな声で挨拶しよう、ゴミを捨てずに街を綺麗にしよう。そういう標語は世の中に溢れていて、それはそれで大切なことだ。でも村上の子はそんな当たり前のことではなく、鮭の子をふやそうとしている。衝撃的だ。一体どうしたら良いのだろうか。イクラやスジコを食べなければ良いのか。安心して下さい。答えは「川を綺麗にする」こと。市内を流れる三面川には古くから多くの鮭が遡上してきた。その鮭が塩引きを中心とした鮭の加工技術を磨き、それが村上の特産品となった。ちなみに「塩引き鮭」を初めて食べたときは、「これは明らかに塩加減を間違えた失敗品だ」と思った。相当塩辛い。正直、長いこと苦手だった。やっと最近になって、口の中の塩気を日本酒で洗い流すという悦楽を覚えた。東北地方では塩引きは当たり前のようだが、初めて食す方は「塩引き鮭」と「鮭の塩焼き」は似て非なるものであることを知っておいた方が良い。実はまだまだ村上には隠れたスポットがある。昔の鍛冶屋さんを個人で公開している町屋とか、明治時代の看板が残る左官屋さんとか、昔の遊郭の廃屋とか。とても全部は廻れないけど、鮭の子の標語を見て安堵した。同時に短い日帰り遠足(ドライブ編)は終わりを告げたのである。
X-PRO3 / XF23mm F2R WR