(以下の画像はwikipediaより引用 File:法師温泉混浴浴場Img913.jpg)
三国峠といえば、群馬と新潟を結ぶ峠であり、江戸と越後を最短で結ぶ街道として古来重宝されてきた。今では高速道路の関越道に主役を譲ったものの、現役の国道17号線として残っている。その三国峠の群馬・新潟の県境近くに法師温泉は位置している。一軒宿の温泉ながら多くの温泉愛好家から愛されている。住所的には群馬県みなかみ町となるが、スキー場で有名な苗場リゾートまでは20kmほどの距離である。新潟は目と花の先だ。かつて田中角栄は「三国峠をダイナマイトで吹っ飛ばす。日本海の季節風は太平洋側まで一気に抜け、新潟に雪は降らなくなる。三国峠の残土で佐渡島と陸続きにする」と言っていたそうだ。凄い発想だけど、地元の方が苦労し続けた雪によって、この地の経済が成り立つようになったのも皮肉な話だ。
さて、法師温泉・長寿館に話を戻す。この宿の何が良いかといえば、まず第一に足元から源泉が湧き出す「法師の湯」が良いのである。その名の通り、弘法大師が発見したと伝えられる湯である。合計8つに仕切られた湯船は、それぞれ微妙に温度が異なるという楽しさ。しかも混浴である(女性専用時間あり)。足下から湧き出す温泉といえば、岩手県の鉛温泉(白猿の湯)有名だ。法師温泉の特徴は底に玉砂利が敷き均されていることで、そこからボコっと湧き出す様子が堪らない。いずれにせよ全国の温泉通を唸らせる名湯なのである。鹿鳴館様式の浴室には四隅に暖色の照明が薄暗く灯るのみで、静かな静かな時間が流れる。シャワーやカランなどもない。否が応でも秘湯感が高まる。言い忘れたが、無色透明のナトリウム硫酸塩で、優しい湯である。
そしてもう一つの良いところは、建物だ。創業は明治8年とのことだが、江戸時代の湯宿のような佇まいである。ランドマークになっている丸型ポストが脇に立つ正面玄関は、少なくとも大正か戦前の昭和そのものの雰囲気となっている。与謝野晶子が籠に乗って訪れた写真を見たことがあるが、その頃と何も変わっていないように見える。写真はフィルムシミュレーション「クラシックネガ 」で撮っただけで、何も加工はしていない。なかなかの貫禄である。お風呂は流石に撮影は断念し、wikipediaの画像を使用ポリシーに従ったうえでお借りした。家から約500kmの道のりを経て辿り着いた法師温泉。もう感無量である。(続く)
X-PRO3 / XF23mm F2R WR