帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (196)きりぎりすいたくな鳴きそ秋の夜の

2017-04-08 19:02:01 | 古典

             

 

                         帯とけの古今和歌集

                 ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が全く無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直せば、仮名序の冒頭に「やまと歌は、人の心を種として、よろずの言の葉とぞ成れりける」とあるように、四季の風物の描写を「清げな姿」にして、人の心根を言葉として表出したものであった。その「深き旨」は、俊成が「歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる」と言う通りである。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 196

 

   人のもとにまかれりける夜、きりぎりすの鳴きけるを
       聞きて
よめる。             藤原忠房

きりぎりすいたくな鳴きそ秋の夜の ながきおもひは我ぞまされる

人の許に宮の内を退出して行った夜、秋の虫が鳴いたのを聞いて詠んだと思われる・歌……女の許より退出した夜、きりきりもの締めつけるような嘆き泣く声を聞いて詠んだらしい・歌。 ただふさ

(コオロギよ・胸キリキリするよ、ひどく鳴かないでくれ、秋の夜のような、長い嘆きする思いは、我の方が勝っているのだ……吾女よ・これきりにする、きりきり締めつけ、ひどく泣かないでおくれ、厭きの夜の、長溜息の思いは、我の方が増している)


 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「まかる…(宮中を)退出する…引く、出るの丁寧語」。

「きりぎりす…コオロギのこと…この秋の虫の鳴き声は、キリキリ、ものを締めつけ軋むように聞けば聞こえる…鳴き声や名は戯れる、胸キリキリす・此れが限りとする・キリキリとしめつける・鳴く虫の言の心は女」「いたく…ひどく…はなはだしく」「鳴き…泣き」「そ…禁止の意を表す」「秋…飽き…厭き…嫌気」「ながきおもひ…長い思い…長い溜息をする思い…嘆きする思い」「まされる…勝っている…増さっている」。

 

コオロギよ、胸キリギリする声で鳴かないでくれ、秋の夜の長い溜息出る嘆きは、我の方が勝っているのだ。――歌の清げな姿。

これ限リにす、吾妻よ、ひどく泣かないでおくれ、厭きの夜の長すぎる嘆きは、我の方が増している。――心におかしきところ。

 

女のさが()と異なる、厭きの夜の長きを嘆く、はかないおとこの性(さが)を言い出した歌のようである。

 

仮名序冒頭の和歌の本質を述べる二行目には、「よのなかにある人、こと、わざ、繁きものなれば、心に思ふ事を、見る物、聞くものに付けて、言ひ出だせるなり」とある。これまで紐解いてきた歌すべて、これから解く歌のすべての、本質を言い当ててある。

「よのなか…世の中…女と男の仲…夜の中」「こと…事・事件・出来事・言葉」「わさ…報いを受けるべき善悪もろもろの行為…人の業(ごう)」。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)