■■■■■
帯とけの枕草子〔二百七十一〕時奏する
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔二百七十一〕時そうする
文の清げな姿
時刻をお知らせする、とっても趣がある。たいそう寒い夜中などに、ことことと音して、沓擦りつつ来て、弓弦うち鳴らして、何の某、時丑三つ、子四つなどと遠声で言って、時の杭さす音など、とっても趣がある。「子九つ、丑八つ」などと里の人たちなら言う。すべて何の刻であっても、ただ四つの時のみ、杭にはさしたのだった。
原文
時そうする、いみじうおかし。いみじうさむき夜中ばかりなど、こほこほとこほめき、くつすりきて、つるうちならして、なんなのなにがし、時うしみつ、ねよつなど、はるかなるこゑにいひて、時のくいさすをとなど、いみじうおかし。ねこゝのつ、うしやつなどぞさとびたる人はいふ。すべてなにもなにも、たゞよつのみぞくいにはさしける。
心におかしきところ
伽、添う、する、とってもすばらしい。たいそう寒い夜中などに、こほこほと子おめき、来た、すり寄り来て、弓張り、うち鳴らして、何なの、何某、伽、憂し、三つ寝四つなど、よそよそしい声で言って、伽のくいさす、お門など、とってもすばらしい。「寝、九つよ。憂し、八つは」などと里の女たちなら言う。すべて、だれもかれも、ただ、四つ(夜十時ごろ)のみぞ、久井にはさしたことよ。
言の戯れと言の心
「時…とき…とぎ…伽…話を交わしつれづれを慰めること…夜伽…添寝」「そうする…奏する…お聞かせする…そふする…添うする」「こほこほ…こぼこぼ…からころ…ごろごろ…擬音」「こほめき…こおめき…おとこめき」「くつ…沓…来つ」「つる…弦…弓弦」「うし…丑…憂し」「みつ…見つ…覯しつ…媾しつ」「見…覯…まぐあい」「はるか…遠く離れているようす…気持が離れているようす…よそよそしく」「をと…音…おと…おとこと門」「と…門…女」「くひ…杭…おとこ…久井…久しきおんな」「さす…差す」
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。