今年こそは油彩も工芸も見ようとゆっくり時間をとっていったのに、膨大な量を前に、結局今年も日本画の部屋だけで時間切れ。
日本画すらも全部は拝見できなかったけれど、そのなかで特に好きな絵の備忘録です。
(見た順に。)
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●「つむぎの森」 上岡奈苗
地の和紙の繊維のやわらかい感じと、墨とベージュのにじみがきれい。思わず近寄ってみると、編み物をする女性とひつじ。鷺もいる。
墨の黒がベージュやピンクと響く感じに見入ってしまう。
編地が空にかかる河のように舞い広がっていた。
●「時を刻む蘇鉄」 北川由希恵
蘇鉄は個人的に愛着があり、特に固くとがった葉がバサバサと風に吹かれる様が好きなのだけれど、この絵の主役は、幹。この方の蘇鉄に対する解釈が、強く迫ってくる。
太古から生えているような風格。暗い色の幹から、小さな葉や芽が派生し、光を受けて輝いている。一本の蘇鉄が大地のように父のように、大きい。
●「白い鳩」竹内恵利子
た
「Singing in the rain♪(雨に唄えば)」の歌を思い出した、音楽のような絵。線がリズミカルに響きあって。
雨上がりなのか。足元を書いているけれど、描かれない空が輝いて地面に映りこんでいる。
ほんの少しだけの青や緑、オレンジやピンクが目に入って、その度こちらの気持ちも小さく弾んだりする。
なんてことのない光景がこんなにきれいで、楽しく瑞々しい気持ちになったのだった。
●「讃歌」松浦丈子
黄色に茶に白がかっこいいなあ。と思ったら、葉の蓮も種もつぼみも、ひとつとしておなじ色、触感のものはない。素材も金や銀の箔など含め、さまざま。
枯れかけた葉ですら、思い思いの装いをしている。まさに讚歌。
どれもないがしろにすることなく、無数の花や穴の開いた葉を描いた若冲を思い出す。
年齢を重ねて且つぴんと背中を伸ばして咲き誇っている、人のような蓮。なんだか達観の境地を仰ぎ見た気が。
それにしてもこんなにさまざまに描き分けて、それでもうるさくなく、都会的なのに憧れる。
●「日々」南聡
和紙に墨で描き、さらに幾重か和紙を張り重ねて描いている。和紙のうすい風合いが、光のヴェールがゆらぐようにも見える。
おお、アリがあちこちにたくさん。アリの日常が描かれている。
いろいろな虫や蝶もいる。草叢の世界。
繊維の見える和紙にひかれる茎や弦がすーっとして、心地よかった。
●「おいて」諸星美喜
風が左へ吹いている。白、ピンク、ベージュへと柔らかく移行する背景がきれいだった。ハリネズミの針?も同じ階調で。
紫の水滴がきらきら。明るい緑と黄色の葉っぱも好きなところ。
描きこまない余白、おさえめの色、すーっとした線の美、厚塗りでない着色、メインのモチーフに少しだけ添える葉。なんだか菊池契月とか京都の流れを思いだす。
●「大地の灯」深澤洋子
窓に明かりのともる絵はなんだかほっこり。いろいろな飾りのついた窓に、小さな青や赤の色が灯っている。
遠くの空はまだすっかり暗くなりきらない。この短い時間のあいまいな色がいいなあ。
屋根の色がきれい。
中国でこんな丸く囲われた集落を見たことがあるけれど、これはヨーロッパのようでもあり、どこでもない街のようでもある。
遠く眺める視線に大岩オスカールさんの絵を思い出したりもする。
●「雪牡丹」岩田荘平
発色の鮮やかさときたら。圧巻の美がつくりだされている。
金に金を追い金。白に散った金砂子もとてもきれい。
赤は油絵のように濡れたようなオイリーさ、一方、白はざらりと日本的。素材感の組み合わせも堪能しました。
●「風和む」高田淑子
やわらかい風を感じて、こころよい色合い。具象を離れて、いっそう自然な感じというか。。
水面があまりにきれいで。。
心惹かれて検索してみたら、昭和11年のお生まれで、晨鳥社所属と(!)(大好きな山口華陽の♡)。
●士農力「The river London」
細かい作品は多くあるけど、ここまで膨大に細かいとは。
ロンドンの空を映している川の色
細かいところにいろんな色が小さく点いていて、色の少ない街にぽつぽつと色を放っている。
●「昼の月」加藤晋
毎回楽しみにしている絵。
でもこの作品はとくべつすごい!。すごいとしかいえない語彙のなさがもどかしい、、。でもほかのひとも、この絵を見るなり、すごいと声を漏らしているから、私だけじゃなさそう。
深い深い緑色に心震えてしまい、それから入り込んでしまう。幅3メートルくらいある絵なのだけれど、その寸法さえ忘れ、別の世界への入り口が広がっている。深く深く、どんどん向こうへ。風景というより、世界というか。大きな自然の世界でもあり、自分の記憶の奥にある世界でもあり。
そしてこの世界にはこっそりいろいろなものが生きている。
まんなかにブレーメンの音楽隊たちが進んでいる。かわいいなあ。おお、この犬が噂の。
そうそう、お地蔵さまはひとりだけ傘が足りなかったのだ!、何十年ぶりかに思い出した。
ほかにもあちらこちらにいる。くたっとしたクマがとってもかわいい。かさ地蔵を1セット、ブレーメンも1セットとして数えると、全部で13(セット・人・匹)は見つけた。きっと全部見つけたと自負しているけど、さてどうだろう。
独り占めで見たかったけれど、多くの人の足もこの絵の前で止まり、話に花を咲かせている。
「あっほらこれ、ハーメルン!じゃなくてブレーメンだっけ。」「こういうひとのドキュメンタリーとか見てみたいわね。」「一年くらいかかって描くのかしら。」「俺3年くらいかかりそう。いや3年でも描けないか。」「あっ、かさ地蔵よ。あらでも6人しかいないね。(←?)」「やだ鬼がいる♡。」
((注)聞き耳を立てていたわけではないのですが、皆さんが弾んだ声になっているので耳に入ってしまうのです。思わずクスっと笑ってしまった。)
帰りにもういちど見たくなって戻ってみると、今度は人も少ない。
見ていると、懐かしく楽しい気になりつつ、同時に、深い深い色に、もうこの世界には戻れないんだと、少し悲しくなるような。あのころ一緒に遊んだネコやイヌや昔話のなかのいきものたちは、記憶のなかに生きていることを今回も再認識したけれど、現実世界じゃない向こうの世界にいるんだなあと、じんわりもの悲しくもあり。
それでも久しぶりに一緒に遊べて楽しかった。
その両端にいったりきたり振れながら、泣き笑いのような、長い時間を過ごしたのでした。
●藤井範子「ふたつの季ー夏から秋へー」
毎回好きな作。季節は屏風だとたいてい右から左へ移るけれど、これは上下に移っている。
蜘蛛が♡。ショウジョウバッタを久々に見られてうれしい。
●山田まほ「竜が淵」
昨年の作も心に残っているけれども、今回も見入ってしまう。
荒い筆で引き下ろされた木の勢い。等伯の松林図のような、今目の前でざわめくライブ感。
この淵にはなにが棲んでいるのだろう。水面に見入ってしまう。
色もあるけれども、線で木々を描き、動きを描き、交錯する光を描き、風もあらわし。
この淵の気と風にとりまかれ、取り込まれてしまう。
水墨のような描き方をした作品は会場内にいくつもあったけれども、この作品のもたつかない筆の強さ、ひとはらいに込められた迫力に惚れ惚れ。
●「風神」中村賢次
重厚。。伝統的でありつつ、どこかゲームのキャラみたいなお顔。
渦巻雲のふわふわが好きで😊。たらしこみも好きで😊。
波濤図を思わすような水しぶきもいいなあ。
●池田璋美「雪しずり」
融け落ちそうな雪。
雪の色が多彩。白とグレーのなかにいろんな色のあじわい。
そういえば、山口蓬春が波の絵を灰色だけで描いたときに言っていた。灰色だけで表すのは割と難しく、そのひとの技量が問われる、と。
梟は細密。かわいいなあ。
●高増暁子
いつも好きな絵。牛がのんびり。千葉の台風の時は大丈夫だったのか気がかりだったけれど、ギャラリーもカフェも営業しているようなのでまた行かねば。
●「竹の葉」福田浩之
微かに竹の葉。水に映っている?水に流される?
●百里本出「沙羅の樹」
好きな絵。画像だとよくわからないけど、静かに包まれるような感じだった。
●佐々木淳一「巌」
岩がドーンと。空の色も印象的。
固い岩が表情豊か。火や熱量,意志を抱合している。
●「森へー水鏡」猪熊佳子
静かで、澄んだ清涼な空気に満ちている。
●「すすき」成田環
●「ひねもす」長谷部日出夫
遺作とのこと。光に包まれて、まるで眠りにつかれたご本人のように感じられて。
●「季」林和緒
どなたの作品かわからなくなってしまった。。
空がきれい。雲が流れる。
●新川美湖「秋の終わり」
葉の流れ、ツタの流れ。羽も反時計に吹かれているようで、反時計回りの輪廻のようなめぐりが。
●「東京ノスタルジー」一木恵理
東京駅かな。オリンピックの旗が。色もノスタルジックであたたかい。
●「大山椒魚」及川美沙
図案化された小魚が好きなところ。のったりしたサンショウウオと対照的に、俊敏に動く魚群。
サンショウウオの目がかわいいなあ。化石っぽいマチエールも。
●「ハルジオンと猫」新屋小百合
見上げる視線。夢見るねこ。ハルジオンも上を向き。そこに空がある。
空気も空もハルジオンも蝶もねこも、お互い交感しあっているような。
容量エラーが出てしまったのでこの辺で。
今年もいくつもの好きな作品に出会えました。