松岡コレクションの真髄 館蔵日本画「花鳥風月」
後期2022年3月8日~4月7日
長らく休館していた松岡美術館、待望のリニューアルオープンです。再開記念ということで、コレクションから逸品中の逸品が展示されています。
日本画コレクションの期間に行ってきました。
こちらのコレクションは温かみのあるものが多く、好きな絵にたくさん出会えます。(一部を除き撮影可(シャッター音は禁止))
いつもの猫の給仕さんがお迎えしてくれましたよ。
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前田青邨「紅梅」1945~54 撮影不可でしたが、青邨のふっくら幅のある薄墨の線は見もの。
ところどころにたらしこみのように一段濃い色の墨を置く。目に柔らかくも伸びやかなので、梅の幹を追っていると楽しい。
この線にたどり着くまでの青邨の足跡を時期ごとに追いかけてみたい。何年もそう思って、前田青邨回顧展を待ちわびていたのだけど、9月から岐阜県美術館で、前田青邨展「究極の白、天上の碧ー近代日本画の到達点ー」が!
同じく紅梅では、応挙の掛け軸には思わずにこっと。
円山応挙「梅月亀図」1782(49歳ごろ)
母ガメにくっついている子ガメがかわいくて。母カメも梅を愛でている?
梅や岩はたらしこみを持ちいてさっくりおおらかに描き、カメだけを写実的・立体的に。
ふっくら明るい色の花びらがきれい。このまん丸い月と梅のシーンに、ほっくり和む。
描きこみすぎないのがちょうど良いのかもしれない。
やっぱりこちらのコレクションはトゲがなくていい。動物が多めでかわいいのも、松岡美術館の特徴だと思う。
松村景文「薔薇双鴨図」
柔らかいカモの羽毛には体温を感じるほど。
葉っぱなど、ひと筆ふた筆で的確に描いてしまう。
渡邊省亭の鳥はいつも眼が生き生き。「桜に山鳥の図」
省亭の、見る者の眼を誘導する明快なラインが心地よい。対角線を描いて斜め下に降りてきた枝は、くいっとU字に上向く。と思うと、円を描いてくるり、山鳥の尾を伝って、真下へ勢いよく流す。そこでふと目を転じると、繊細に桜の花びらが散る。
この花びらを、省亭は一枚ひと筆でスピーディに描き上げていくのだから、ライブ感がすごい。しかも、薄い白の花びらの上に濃い白の花びらを重ね、花のふっくらした重なりもなんなく表現!
堂本印象「母子」1829(38歳)は、撮影不可だったけれど、猫親子の心情が見て取れ、印象的だった。
はっと周囲を警戒する母ネコ。母ネコの足先からも緊張が伝わる。対して、安心しきった無邪気な子猫たち。4匹もいる。
胡粉でぼかし、白で線描きしたふかふかの毛にも見惚れてしまう。
酒井抱一「菖蒲に鷭」
鷭がかわいい。
墨に、少しずつの青、緑。さらにもっと少しの赤とコウホネの黄色を点じ、色が楽しい。
そして菖蒲もコウホネも、一つ一つが咲いていることを楽しんでいて、空間に意識のやりとりがある。
それにしても、きれいな青。
下村観山「鷺」
少しずつ色を連結させながら、細部までしっかり再現されている。観山の線描きにもうっとり。
意外にも鷺が感情ゆたかな顔をしている。鷺はすぐ逃げてしまうのに、観山はどうやってこんなに至近距離で表情まで観察できたのだろう。
解説には、滞在していた三渓園の池での出来事ではないかとある。
木島櫻谷「孔雀」
ひょいひょいと濃淡で描き上げていく葉の様にもほれぼれ。
岩の凄み。墨だけなのに、この実在感と量感、岩肌の手触り感。
筆致は素早く淀みなく描きながらも、青に緑、墨に金と重なる。微かに金がきらめくいていた。
山口蓬春は3点あるのに、どれも撮影不可なのが残念。
なかでも、「夏果図」に感嘆。
デルフトの器に、レモンふたつと小玉西瓜がひとつ。これだけなのに、そこは普遍の領域となる。
レモンが生きている。西瓜も瑞々しい。器の模様までもが生きている。白地に青で描かれた鳥たちは生きて飛び、そこが鳥たちの世界になっている。
蓬春の絵には、ときどきこんな風に「普遍的」と感じる体験をする。画題自体はよくあるものなのに、蓬春が描くとなにか違う。秘密はどこにあるんだろう。
伝俵屋宗達「源氏物語残闕」は、夕顔の段のシーン。
下町の暮らしぶりが興味深い。これはなにをしているんだろう。餅つき?米の脱穀かなにか??
主を待つ牛の背中がかわいい。どこかゆるいのはやっぱり宗達かな。
團琢磨旧蔵の六曲一双の屏風の残闕とのこと。
床の間には省亭の「寒菊図」
ほのくらい床の間に、真っ白な雪の反射が光をもたらしているのが印象的。計算だとしたら、すごい。
鳥の目線の先に、菊が顔をのぞかせている。
好奇心いっぱいの幼稚園の子供たちのようでかわいい。
冬にも小さな楽しみがあるものだ。
この日は、とてもいい二つの屏風との出会いを得た。
寺崎廣業「春海雪中松図」1914(48歳)
おおらかでシンプル。こういうのいいと思うのだ。そして絵の前の空間にも生気が放出されてくる!
これだけしか描いていないのに、絵をこえて広がりがすごい。
松の向こうに、舟と海が見えるのに気づく。
右隻は、春。
なにも描いてないのに、余白が砂浜に見えるのはなぜ。下のほうは空間がたっぷり開けられ、歩き入いれる。細かな砂がざくりと足裏にさわる感覚。
遠くは白くけぶり、春の海の色だ。
波は濃淡を変えつつ、平らかな線描き。面を線だけで描いてしまうところが日本の画の好きなところ。
左隻は突然季節が変わる。ぽっくりした雪がいい。
舟にも雪。砂浜もうっすら白く。幹の線描きも、右隻と違って薄い色に変えている。
真っ青な空が少しだけ見える。晴れた冬の日の澄んだ空気。
心も広々、いい空気を吸える屏風でした。
川合玉堂「磯千鳥図」1922(49歳) 波が見もの。
波涛に見飽きない。形が美しい。
波のダイナミズム。線描きも太く、緩まない。
岩のたらしこみは、波をかぶって濡れている様子に見える。
、
波のダイナミズムに感動していると、点々と描かれた千鳥にさらなる感動をいただいてしまった。
右隻の鳥は滑空し、左隻の鳥はそれを見上げて鳴きかう。
小さき鳥の動きの軌跡。絵が生きている。
玉堂は2015年に牛込若宮町に広いアトリエが完成し、それから琳派風の屏風を多く製作した。
岡本秋揮の孔雀 凄みの極み
金が際立つ。
妖しいほどの気迫。
何色もに変化しながらきらめく体躯に見入るばかり。
堅山南風の「秋草」や土牛の猿にも再会でき、楽しい時間でした。
コレクション展企画はまだまだ続くようです。
11月からの明清絵画も見応えありそうです。
https://www.matsuoka-museum.jp/contents/7248/