三の丸尚蔵館「駒競べー馬の晴れ姿ー」
前期:2016.7.9~7.31、後期:2016.8.6~9.4
前期展に行ってきました。置物、絵図、屏風、アウガルテンの陶器など。馬が美術にどのようにあらわされてきたのか、馬と人間との関わり。馬というピンスポットな視点を通してみるのも、面白い時間でした。
入るとすぐ、馬の置物がずらっと。
後藤貞行の明治23年の内国勧業博覧会に出品された五種の置物。
左から、農耕用、貨車用、乗用、競走用、と体つきの違いがはっきり。仕事が馬を作るのか?馬が合った仕事に就くのか?。顔も馬の個性がでていました。美しかったり、朴訥な顔だったり、目がうるうるしていたり。
後藤貞行(1849~1903)は、皇居前広場の「楠正成像」の馬の部分を担当したそうです。
馬の置物では、池田勇八(1886-1963)の二点が特に心に残りました。
「小憩」対象11年
人と馬が寄り添うように、通い合った気持ちが。タイトル通り「憩い」の時間。
「馬群像」昭和3年
別の角度から見るのも良かったのです。
父、母、子でしょう。家族の情景が暖かい体温を感じるようでもありであり、スピード感がすがすがしくもあり。
どちらの作品も、絵画のようだと思いました。物語がある。絵画と違ってバックは描けませんが、周りの情景まで目に見えるよう。バックに何もないから、想像が自由にできて、それもいいものだなあと思いました。
池田勇八は、馬の彫刻の第一人者と言われたそう。香川県綾川町の牧畜業の家に生まれ、東京美術学校の彫刻科へ。同期の朝倉文夫の「動物作家になったらどうだ」というアドバイスで、この道へ。上野動物園へ通い詰めて制作していたときに、千葉県三里塚の下総御料牧場がよいと聞き、ついにはアトリエを構え制作に打ち込んだそうです。今もそのアトリエは毀されることなく現存するそうです。(成田市広報)
画像がないのですが、
作品の題だけ見ても、動物の彫刻のまわりに、詩情や物語性がにじみ出ていそうです。母子の愛を表現したものも多そうです。「ぼんやりした馬」、「平原の夕」「歩ゆむ豚」「母仔」「路傍の会話」「生存の様相」「哺乳」「土龍を嗅ぐ」「春風を嗅ぐ」「炎陽たつ頃」「母に寄り添う」「放牧地の母仔」「はなれ馬」「嘶き」「楽しき足どり」等。実物を見たいものです。
「蒙古襲来絵詞」教科書に出ているものの実物を見るのは、やっぱりうれしい。
前巻第17紙~18紙、季長の後方より駆けつける白石六郎通泰とその手勢
この絵では敵は見えませんが、よく見ると、矢がびゅんびゅん飛んできていました。人も大変だけれど、馬はもっと大変です・・。
蒙古襲来絵詞といいえば、竹崎季長が自分の手柄を誇示し、恩賞を賜るために描かせたと習った記憶がありますが、現在はこの絵詞には複数の加筆や数種類の詞書が混在しており、竹崎季長を主人公としたものかどうか自体に疑問があるとされているそうです。
ただ、人と同じくらい馬も重要なものとして描かれているのはわかります。
伝雪舟「馬図」
雪舟の真筆かどうかは不明だそうですが、数回の太い線のみで描き出した馬のラインは面白い。脚も蹄も足一本につき一回の筆で、書のよう。たてがみと尾は、薄墨でふんわりと。
「厩図屏風」室町時代(15世紀)は、土佐派の絵にによるものとされる、と。
こんなに立派で元気のよい馬を12頭も所有していますよ、的なことが誇示されています。
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横の強いラインが大胆。そして縦にきっちり12分割。これが屏風っていうのが面白いです。鎌倉後期には所有する馬や牛を権威の象徴として描かせていたそうですが、それを屏風に仕上げるのも、考えてみれば自然なことかもしれません。屏風のバリエーションは広いのですね。
きっちに分割された長方形の中に、馬の跳ねまわる様子。上の竹の葉のぱっぱっと撥音的なリズム。とっても魅力的。こんなに中身?が動いている屏風って(笑)。
丸山応挙が二点。
「張飛図」江戸時代
応挙は、内裏の障壁画を描いたり、御所より屏風など多くの注文を受けたりと、皇室とは縁が深いそう。
「馬之図」天明7年 55歳の作
写生を重んじた応挙といわれていたことが実感。下草もふんわりと描かれています。この年は、南禅寺、金刀比羅宮、大乗寺にて障壁画や襖絵を描いた、その年。かわいい虎や格調高い孔雀とともに、このような陰影のついた西洋風な絵も。日本の絵師ってなんでも描けるんだなあ・・。
そして、この展覧会で一番楽しみにしていたのは岩佐又兵衛「小栗判官絵巻」江戸時代
ものすごい躍動感。ひとりひとりの感情の高ぶりも余すところなく表現しつくしています。
この黒く巨大な馬がぬおっと現れたところは、びっくり。又兵衛を浮世絵の祖と言いますが、国芳のルーツはここなんじゃないかと思いました。
色使いもセンセーショナルです。この又兵衛、すべてが、自由自在なのです。線も色も構図も。どこまでいっちゃうんだろうって思うくらい。この話はフィクションですが、だからこそ彼はその世界で、絵筆を持って暴れまくっている・・。そんな感じ。
といってもこれはあくまでも数少ない作品を見ただけでの想像ですので、この夏の福井県立美術館の岩佐又兵衛展、いきたいなあ~(涙)。
皇居ではボケの実がたわわに色づいていました。
奥村土牛の絵のよう。
いつも時間がなくて、大手町駅にとんぼ返りですが、短い皇居散歩も楽しいです。