情報と物質の科学哲学 情報と物質の関係から見える世界像

情報と物質の関係を分析し、波束の収縮問題、心身問題、クオリア、時間の謎に迫ります。情報と物質の科学哲学を提唱。

脳やコンピューターはただの物質ではない!!!

2022-01-22 10:52:48 | 人工知能・意識
脳科学などの本には「脳はただの物質である。その物質から何故意識が生じるのか」という記述が頻繁に登場します。

しかし、脳はただの物質ではありません。
生きている物質なのです。
この自明な事実を脳科学者たちは無視しています。
これでは、脳に関する謎を解くことは決してできません。

因みに、コンピューターもただの物質ではありません。
コンピューター内部には非物質的な情報が存在しています。
それなのに科学者はなぜ「ただの物質であるコンピューターから非物質的な情報が生じるのか」を問わないのでしょうか。
科学者にとって情報概念はあまりにも日常過ぎて空気のような存在であるからなのでしょうか。


精神と脳の二元論に対するクリストフ・コッホの誤解

2022-01-20 19:52:28 | 人工知能・意識
クリストフ・コッホ(土谷、金井共訳)『意識の探究(上)』、岩波書店(2008)の12頁に精神物質二元論について次のように述べています(一部抜粋)。

二元論は論理上一貫している一方で、科学的な見解からすると不満が残る。
魂と脳とがどのように相互に影響し合っているのかという問題である。
どうやってその相互作用は起こるのか。
この相互作用は、物理学の法則と両立していなければならないだろう。
ところが、もしそのような相互作用を仮定すると、魂と脳の間でのエネルギーの交換がなければならない。(引用終わり)

ここで問題になるのは私が付けた下線の部分です。
コッホの相互作用に対する見解は矮小化されています。
その理由を示します。

ロボット内部には物質と情報とが共存しているので、物資と情報の二元論が成り立ちます。

情報はロボットの行動を制御します。
その行動によってロボット内部の情報も変化します。
つまり、ロボットの物質と内部の情報とが相互作用しているのです。
しかし、言うまでもなく物質と情報との間でエネルギーの交換はありません。

では、何故このような相互作用が成り立つのでしょうか。
それは、ロボットがこの相互作用を実現するように作られているからです。

魂と脳との相互作用はコッホが言うような直接的なものではなく、ロボットにおける物質と情報との相互作用のように間接的なものなのです。
このような相互作用が可能なのは脳がそのように作られているからです。
正に脳の進化によるものです。




「脳という物質から何故意識が生じるのか」という問いはナンセンス!

2022-01-08 10:50:45 | 人工知能・意識
哲学や脳科学の分野では「単なる物質である脳から何故意識が生まれるのか」という問題提起をします。
チャーマーズはこれをハードプロブレムと呼んで、この問題に取り組むべきだと主張しています。

しかし、脳は単なる物質ではありません。
生きている物質です。

科学は、未だに生命の謎を解明していません。
人間は、生命体です。
脳は、その生命体の一部です。

物質から何故生命が生じるのかという問題が解けていないのに、生きている脳から何故意識が生じるのかを問うのはナンセンスそのものです。

科学者は、意識の謎に取り組む前に生命の謎に取り込むべきです。
そうしないと本末転倒になるからです。

哲学者や脳科学者はこのような状況をどう捉えているのでしょうか。


統合情報理論は意識やクオリアの質を説明できない

2022-01-05 09:37:39 | 人工知能・意識
土屋尚嗣『クオリアはどこからくるのか?』、岩波科学ライブラリー308(2021.12)
の69頁に統合情報理論は意識の境界・量・質を数学的に説明することを目指した理論であるという記述があります。

トノーニの統合情報理論における意識の指標φは、ビットで表示されます。
φの数値が大きいほど意識のレベルが高いとされます。

φは数ですから量的なものは表現できます。
しかし、数は質的なものは表現できません。

例えば、光の振動数は数で表現できますが、光の色(クオリア)は数では表現できません。

従って、統合情報理論の指標φは意識やクオリアの質を表現出来ないことが分かります。

統合情報理論の指標φが意識やクオリアの質を表現出来るとする主張は論理的に破綻しています。

トノーニの統合情報理論と人工意識

2022-01-02 10:28:33 | 人工知能・意識
近年、人工意識を作るに関する研究が盛んなようです。
例えば、人工知能学会. Vol 33 No.4(2018年07月号)に「意識とメタ過程」という特集があります。

トノーニの統合情報理論は、人工意識研究の基礎になっているようです。
トノーニ、外(花本知子訳)『意識はいつ生まれるのか-脳の謎に挑む統合情報理論-』、亜紀書房(2016.2)

神経生理学的見地から意識には二つの基本的特性”情報の豊富さ”と”情報の統合”とがあり、その両者をまとめて意識を数値化するという極めて大胆な発想です。
意識の単位をΦビットで表し、この数値Φと意識の間に相関があるという仮説です。

訳者あとがきによると、トノーニの本の原題は『これほど偉大なものはないー覚醒から睡眠、昏睡から夢まで。意識の秘密とその測定』です。
なので、翻訳書の”意識はいつ生まれるのか”というタイトルは、誤解を招きます。

トノーニは、数値Φの値がどのくらい大きくなれば意識が生じるかについては、全く触れていません。

同著は、学術書の類ではありません。
文献リストもありません。
数値Φの計算式や理論的記述もありません。
なので、翻訳書のタイトルだけをみて購入すると期待外れになるでしょう。

統合情報理論は、クオリアを扱うことは出来ません。
何故なら、トノーニの二つの基本的特性”情報の豊富さ”と”情報の統合”という概念はクオリアそのものを扱えないからです。

クオリアは、意識の原始的形態です。
高度な意識はその上に構築されているものなので、クオリアを無視した意識の定義は片手落ちになります。

人工知能がコンピュータで実現されているからといって人工意識もコンピュータで実現されるとは限りません。