情報と物質の科学哲学 情報と物質の関係から見える世界像

情報と物質の関係を分析し、心身問題、クオリア、時間の謎に迫ります。情報と物質の科学哲学を提唱。

量子力学が測定現象を説明できない明白な理由

2019-05-30 09:08:58 | 情報と物質の科学哲学
観測問題については現在でも様々な議論が続いています。
観測問題の一つは、ミクロな粒子とマクロな測定器とがどのように相互作用するのかを分析することです。
波束の収縮問題もこれに含まれます。

観測問題のもう一つは、ミクロ粒子に関わる現象をすべて量子力学で説明できるかというものです。
殆どの物理学者は、それが可能だと考えています。

以下では、この後者の問題について分析します。
便宜上、観測器を測定器と表現します。

測定器が測定値という情報を出力することについては、これまでのブログで度々取り上げてきました。
今回は、測定機に関わる現象を物理法則だけで説明することは原理的に不可能であることを証明します。

測定器にはモーターのような機械と本質的に違う部分かあります。
モーターに関わる現象は、物理法則で完全に説明できます。
一方、測定器に代わる現象は物理法則だけでは説明できない部分があります。
それは、測定器が測定値という情報を創発する機械だからです。

測定器の機能は次の通りです:
(1)測定する物理量の決定
(2)基準にする物理量の決定
(3)測定物理量と基準物理量との比較
(4)比較結果を測定値として定義
(5)測定値情報を物質(情報表現物質)で表現
(6)情報表現物質の出力
これらのことから、測定機にかかわる現象は物質現象情報現象の二面性があることが分かります。

以上のうち(4)と(5)の部分が物理法則では説明できません。
その理由は、次の通りです:
(1)物理学にはそもそも情報という概念がないので物理法則では扱えません
(2)測定値情報は測定器というシステムに依存する非客観的概念です
(3)物理学は、非客観的概念を説明できません。

結局、測定器に関わる現象で物理法則で説明できるのは物質現象の部分だけであり、測定値という情報に関わる現象(情報現象)は物理法則の説明対象から逸脱することが分かります。
この事実は、古典物理学と量子力学の双方に通用します。

量子力学における観測問題で特に問題視されるのは、超人ノイマンが意識の関与を認めても矛盾しないことを理論的に示したためです。
つまり、ノイマンは
(1)シュレーディンガーの猫の箱内部で放射性ガスの発生
(2)検知器による放射性ガスの検出
(3)検出器による毒ガス入りの瓶の破壊
(4)箱の窓から中から出てくる光の観測者の眼への入力
(5)眼の視覚細胞による電気パルスの発生
(6)脳神経回路への電気パルスの入力
(7)観測者の意識による猫の生死の判断
までの一連の物質現象をシュレーディンガー方程式で一貫して記述できることを示したのです。

ノイマンの説明に欠落していることは、観測(測定)に不可欠な情報概念の存在です。
更に、意識までもシュレーディンガー方程式で記述できるとしたことも問題です。
言うまでもなく、意識は主観的概念なので物理法則で説明することは不可能です。

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情報とその意味

2019-05-29 09:38:11 | 情報と物質の科学哲学
情報の例として測定値情報を取り上げます。
検出器は、最も簡単な測定器です。

有毒ガスを検出したときパルスを出力する検出器を考えます。
このパルスの利用法には次の2通りがあります。

(1)パルスのエネルギーを利用して警報ブザーを鳴らす場合には、わざわざ情報という用語を使う必要はありません。
何故なら、必要以上の概念を使うことを禁じたオッカムの剃刀に反するからです。

(2)警報ブザー側でパルスの有無を判定して利用する場合には、このパルスが有毒ガス検出という情報を表現していると言えます。
何故なら、このパルスから”有毒ガスの有無”という情報が得られるからです。
この場合、パルスは一種の記号として解釈できます。

抽象的な概念である情報は、物質的属性に還元することは不可能です。
情報をコンピュータその他に利用するときには、情報を何らかの方法により物質で表現する必要があります。
このような性格を持つ物質を情報表現物質と名付けます。
記録された記号数字文字などがその例です。

抽象的概念である情報は現実世界に実在しないので、これを測定者が読み取ることはできません。
測定値情報を情報表現物質で表現することにより、初めて測定者は測定値情報を読み取ることができるのです。
読み取った情報の意味は、測定者の脳内部で創発され意識化されます。

ロボットも測定値情報の読み取りはできますが、それはニューラルネットによるパターン認識によるものです。
もちろん、そこには意識化に相当するものはありません。
ロボットにできることは、読み取った測定値情報をロボット内部に蓄えられた他の情報と関連付けることです。
ロボットにとってその関連付けが情報の意味になると解釈できます。

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波束の収縮とシュレーディンガーの猫 ノイマンの罪

2019-05-25 09:04:02 | 情報と物質の科学哲学
粒子源から1個の電子を自由空間に送出します。
この電子の状態は、波動関数ψで表されます。

電子は送出時には局所空間にあるので、ψも局所的性質を持つ波束で表されます。
波束ψは、シュレーディンガー方程式に従い時間の経過と共に拡散します。

波動関数ψは、拡散した空間内のすべての点で値を持ちます。
電子が粒子的性質だけを持つ場合、この説明は成り立ちません。

電子が検出器板で検出される前のψは空間に拡散した波動関数で表されますが、
電子が検出された瞬間にψは局所的な波束で表さます。
コペンハーゲン学派は、これを「検出によって波動関数が瞬時に収縮する」
と解釈しました。
この状況は、波束の瞬時収縮波束の瞬時崩壊などと呼ばれます。

波束の瞬時の収縮は光速を越えるのでアインシュタインはこれを批判しました。
シュレーディンガーも測定した瞬間に波束が収縮するという考えに反論するため
有名なシュレーディンガーの猫というパラドックスを提起しました。

異常な能力をもつため”火星から来た悪魔”と揶揄されたノイマンは、
「量子現象の測定が観測者の脳の中で終了する」
としても理論的に矛盾しないと主張しました。

測定に意識の関与を持ち込んだのです(観測問題)。
この場合、
(1)脳で猫の生死を判定するのは観測者の意識による主観的判定であって
(2)測定器による客観的測定ではないことに注意すべきです。

客観主義を標榜している物理学者は、主観と関わる観測問題を未だに議論しています。
これも量子力学のミステリーの一つです。

”シュレーディンガーの猫”は、量子力学の不可解さを象徴する話題として一般受けするため、
今でも多くの本が出版され続けています。
無用な混乱を招き続けるシュレーディンガーの猫は、一日も早く永眠させるべきです。

なお、波束の瞬時収縮は非物質的現象であり、そのために多くの混乱を招いています。
詳細は、ブログ”コペンハーゲン解釈の欠陥”にあります。

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ニューラルネットにおける情報と物質の相互作用 心身問題への間接的回答

2019-05-24 09:38:18 | 情報と物質の科学哲学
人工知能に必須なニューラルネットは、ニューロン素子、結合素子、素子同士を結ぶ線などから構成されます。
その構成は、単純なものから深層学習のような超複雑なものまで様々です。

特に深層学習ネットにおいては、ネット内部を膨大な情報が行き来しています。
それらの情報の流れは同時並列的なものであり、ある意味ではどの部分も同じような形態をしています。
このようは特徴は、脳神経回路で顕著に見られます。

一つのニューロン素子(ニューロンに対応)は、複数の結合素子(シナプスに対応)を介して他の複数のニューロン素子と結ばれています。
各結合素子の値は情報の流れにより刻々と更新されていき、それが学習効果のもとになります。

このようにニューラルネットにおいては情報と結合素子という物質という異質なもの同士が相互に影響しているのです。

逆に言うと、ニューラルネットは情報と物質という異質なもの同士が相互に影響するように作られているのです。

このような状況を参考にすると、脳という物質と心という非物質とが情報を介して相互に影響している考えられます。
その結果、脳という物質がクオリアや意識という非物質を生み出していると推測されます。

脳が何故そのような機能を持つのかを物理的に証明することは決して出来ません。
その理由は、ブログ「情報概念を用いた物理還元主義破綻の証明」にあります。

高等動物の脳がこのような不思議な機能を持つに至った理由は、生物進化の妙にあるとしか言えません。

心は、脳神経回路により生み出されたものであることは疑いようもありません。
前述のニューラルネットにおける物質と情報という異質の存在が相互に影響している事実を踏まえれば、心身問題に対する間接的な回答は得られていることになります。

心身問題は、という異質なもの同士が何故影響しあえるのかを問うものです。
この問題の決着は未だについていません。
心身問題の致命的欠陥は、脳神経回路における情報の存在を無視していることにあります。

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ニューラルネットによる「心身問題は擬似問題である」ことの証明

2019-05-23 09:22:11 | 情報と物質の科学哲学
私たちは脳という物質の働きによる非物質的な心のもとで行動を制御しているように見えます。
このとき、
という物質がなぜという非物質を作り出せるのか、
物質と非物質という異質のもの同士がなぜ影響しあえるのか
という問題が生じます。
これがハードプロブレムと呼ばれる心身問題です。

心身問題に関して長年にわたり哲学、心理学、脳科学などで盛んに議論されてきましたが、未だに回答が得られていません。

一方、脳神経回路網を数理モデル化したニューラルネットが急速に進化しています。
深層学習を利用したAlphaGo(アルファ碁)や感情理解ロボットPepperがその例です。

このニューラルネットは、複雑な回路網で実現されています。
網同士は、シナプスに相当する結合素子で相互に結合されています。

結合素子の値は、ネットへの入力情報と出力情報との関係で随時更新されていきます。
入力情報および出力情報は、ロボットの行動により多種多様に変化します。
言い換えると、入力情報および出力情報の変化が結合素子という物質に影響しているのです。

このようにニューラルネットには、情報と物質という異質なもの同士の相互作用
実現する仕組みが組み込まれているのです。

以上が、ニューラルネットは「人心問題は擬似問題である」ということの証明です。

心身問題では、脳という物質と心という非物質とを直接関連させていることにも問題があります。
何故なら、そこでは脳回路網に縦横に流れている情報の部分を無視しているからです。
この情報こそが脳と心を仲介しているものであり、無視できるものではありません。

心身問題には意識という概念が登場しますが、この意識の科学的定義もありません。
議論している当事者同士が思い描く意識の定義がばらばらなのです。
心身問題を解決できない理由がここにもあるのです。
言い換えると、心身問題には科学的解決は不可能なのです。

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