受容器に入力した物質が脳の中で感覚化される不可思議な現象について考えます。
この過程を下図の「感覚情報実体化モデル」として提案します。
このモデルで強調したいことは、捉えどころのない感覚という概念を脳内に実在するものとしていることです。
以下、図中の番号に沿って説明します。
①外界にある対象物です。
②対象物からの入力物質です。
③受容器は、入力物質の物理量が一定のしきい値を超えるとインパルス列を出力する検出器の機能を持ちます。
(入力物質)(受容器の種類)
光 視細胞
音波 聴細胞
圧力 触細胞
分子 嗅細胞、味細胞
④受容器の出力インパルス列は、入力物質に関する検出情報を担います。
これらの関係において特に注意すべき点は、各受容器の出力は
すべて同じ性格の電気パルス(インパルス列)であることです。
つまり、インパルス列だけを見る限り入力物質の違いは分かりません。
受容器は、物理量を抽象化(透明化)する機能を持ちます。
ここまでの過程は、種々の人工センサーとして実現されています。
⑤大脳新皮質の一部である。それぞれの感覚に対応した領域があります。
構造的には全く同じ神経細胞ネットワークです。
ネットワーク間には電気インパルスが縦横無尽に行き来しているだけです。
ここまでの過程は、すべて物質現象として物理則で完全に説明できます。
⑥ここからの過程は、非物質現象です。
感覚野で種々の感覚のもとが生じます。
受容器(検出器)された入力物質に関する情報が感覚野で読み取られます。
その読取り結果(=情報の意味)がクオリアとなって実体化され意識化されます。
感覚(クオリア)は、脳内に実在するものです。
物理学や唯物論はこれを否定しますが、感覚現象が物質現象でないことは自明です。
感覚そのものを物理的に測定することも不可能です。
脳波や血流を測定すると感覚との間に相関があることは実証されています。
但し、その事実から両者間に物理的因果関係があることは証明できません。
何故なら、物質現象と心理現象とはカテゴリーが違うからです。
⑦具象化(意識化)された感覚は、受容器の属性として付与されます。
例えば、”痛い”という感覚は感覚野ではなく指先に生じる。
失われた指先に痛みを感じるという幻肢がそれを証明しています。
この機能があるからこそ外部からの障害にうまく対処できるのです。
正に進化の賜物です。
⑧視覚情報の場合、感覚具象は更に対象物の属性として間接的に付与されます。
そのため、今見ている像が外部に実在していると錯覚します。
クオリアは、感覚野によって情報が実態化(意識化)されたものです。
ここまでの議論からクオリアは意識の原始的形態であると推測できます。
これを「クオリア=意識の起源」仮説と名付けます。
意識に関する哲学者の議論は、専ら言葉に関わるものです。
そのことが多種多様な混乱をもたらす主要因になっています。
しかし、そもそも意識という現象は言葉を持たなかった人類の祖先にもあったと考えるのが自然であり合理的でもあります。
従って、意識に関する哲学者の議論は意識の本質から外れたものと言えます。
最近、生物の進化と意識の起源との関係を詳細に論じた大著の邦訳が出ました:
トッド・E・ファインバーグ、ジョン・M・マラット(鈴木大地訳)
『意識の進化的起源-カンブリア爆発で心は生まれた」-』、勁草書房、(2017)
意識という概念は非客観的なものであり、その定義も確立していません。
本書ではもっとも基盤的で感覚的な意識の本性と起源について説明しています。
そして、最初の脊椎動物が最初の意識を有していたと主張しています。
本書の議論は足が地に着いたものであり、ヒトの意識を扱う哲学者の空理空論より
よほど説得力があります。
ロボットには感覚野がないのでクオリアは生成出来ません。
ロボットの脳に相当するニューラルネット内部の過程は、すべて計算過程あるいは情報処理過程です。
それ以上でも以下でもありません。
(1)物質現象として情報の定義と創発がなされている
(2)情報を表現する情報表現物質が生成されている
(3)情報の読取り機構がある
(4)読取り結果の利用がある
これらを情報概念の基本的要件と名付けます。
これは、情報概念の科学的定義と言えます。