「波動関数の収縮(波束の収縮)は測定によって生じる」というのが量子力学の定説です。
言い換えると、測定しない限り波束の収縮は起きないということです。
並木美喜雄『量子力学入門ー現代科学のミステリー』、p.102、岩波新書210 (1995.3)
この定説は、測定概念に対する物理学者の誤解に因るものであることを思考実験で示します。
電子を1個ずつ発射する電子源があります。
その前方に電子検出フィルムがあります。
(外村彰『量子力学への招待』、岩波講座、物理の世界(2001.11), pp.8-9、参考)
更に、検出フィルムの全体を写す動画カメラがあります。
このカメラは、フィルム上に生じた黒点を順次記録します。
電子源から発射された1個の電子が検出フィルムに衝突すると検出フィルムに黒点が生じます。
電子が検出フィルムに衝突する前の電子の状態は波動関数で表現されます。
一方、検出フィルム上の黒点は狭い空間にあります。
この状態を測定による波束の収縮といいます。
(並木『量子力学入門』)
ここまでの過程では検出フィルム上に黒点という物質現象が生じただけです。
そのことは前述のフィルム撮影動画で確認できます。
まだ測定はなされていないことに注意してください!
検出フィルム上の黒点の位置を測定した時点で初めて測定が完結するのです。
しかも、黒点の位置の測定はフィルム撮影動画を測定者の都合のいい時間に見て行えばいいのです。
ここまでの過程を時間順に示します。
(1)電子検出フィルム上に黒点が生じる。(波束の収縮)
(2)測定者の都合のいい時間に動画記録を見て黒点の位置を測定する。
これらの事実から、波束の収縮は測定以前に起きていることが分かります。
「測定によって波束の収縮が生じる」という結論は成り立ちません!
まさに波束の収縮のパラドックスです!
光子源から発射された1個の光子が感光板に衝突して黒点が生じる場合も同様です。
感光板に光子が衝突して黒点という物質現象を起こしただけです。
まだ測定はなされていません。
測定は、
(1)電子検出フィルム上の黒点の位置情報を記録した時点、
あるいは、
(2)感光板上の黒点の位置情報を記録した時点
で完結します。
これらの記録をいつ誰が読み取るかは測定とは無関係なのです。
なぜ物理学者は電子検出フィルム上、あるいは、感光板上における黒点という物質現象の発生時点で測定がなされたと誤解するのでしょうか。
物理学における測定は、測定対象の物質現象が生じた直後に行うものであるとしています。
そうしいないと、対象とする物資現象が変化する可能性があるからです。
そのために前述のような物理学者の誤解を招いていると思われます。
更に、
(1)電子検出フィルムの目的が電子の衝突位置の測定、あるいは、
(2)感光板の目的が光子の衝突位置の測定であるとしているために、
「電子検出フィルムや感光板における物質現象(黒点)の生起=測定」
としていることも誤解のもとになっていると思われます。
一方、今回の思考実験における電子検出フィルム上、あるいは、感光板上の黒点は時間が経過しても変化しません。
そのため、黒点が生じた直後にその位置を測定しなくてもいいのです。
更に言えば、電子検出フィルムや感光板における黒点の位置を測定しなくても波束の収縮は起きているのです。
測定は波束の収縮の必要条件ではありません。
以上の議論から波束の収縮は次の2種類あることが分かります。
(1)測定による波束の収縮
(2)測定によらない波束の収縮