情報と物質の科学哲学 情報と物質の関係から見える世界像

情報と物質の関係を分析し、波束の収縮問題、心身問題、クオリア、時間の謎に迫ります。情報と物質の科学哲学を提唱。

自由意志はない? 潜在意識を無視したリベットの過ち

2019-06-27 09:13:02 | 情報と物質の科学哲学
脳神経生理学者ベンジャミン・リベットは、著書『マインド・タイムー脳と意識の時間ー』(下條信輔訳、岩波書店(2019))の中で驚くべきことを述べています。

アウエアネス(気づき)に関する実験結果によると、被験者が自由意志で行動を起こそうと意識する時刻の約500ミリ秒前には既に運動野のニューロン群が発火しているというのです。
リベットは、これらの実験結果からヒトには自由意志がないと主張しています。

しかし、リベットは実験結果の意味を安易に拡大解釈しているように思います。
その理由は、脳神経回路の働きは直列的なものではなく超並列てきなものだからです。
リベットが主張するような単純な直列的因果関係は成立しないと思います。

更に、リベットは潜在意識の存在を無視しています。
被験者は、実験内容をあらかじめ知らされます。
その時点から、被験者の脳内で潜在意識が開始されます。
それが結果として自由意志の前に運動ニューロンの活動が始まると考えることが出来ます。

19世紀の大数学者アンリ・ポアンカレ『科学と方法』に有名な逸話があります。
彼は、ある難問について2週間ほど悪戦苦闘していました。
成果が得られないまま問題のことを忘れ、地質調査旅行にでかけました。
その地で乗合馬車に乗ることになったのですが、馬車の階段に足をかけたとたん突然難問の解法が浮かんだそうです。
つまり、ポアンカレは潜在意識の中で問題に対する挑戦を続けていたのです。
この事実は、潜在意識というものが如何に重要なものであるかを証明しています。

意識はニューロンの活動から創発されるものですから、意識がニューロンの活動より後に生じるのは極めて当然なのです。

意識という心的なものと脳神経回路という物質的なものとは単純に分離できるものではなく、両者は融合した関係にあるからです。
脳神経回路の変化が意識に影響することは脳障害の事例から明らかです。
一方、意識の変化が脳神経回路に影響することはヘッブの学習則や脳神経回路の可塑性などで実証されています。
このように脳神経回路と意識とは不分離の関係にあるのです。
従って、リベットの主張は短絡的と言えます。

私達が考える自由意志は、リベットの実験のような単純なものではありません。
明日どこに出かけるか、今度何を読もうか、何を食べようか等々、そのどれにするかはリベットが実験した単純な運動ではありません。

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検出器は最も簡単な創発する機械

2019-06-17 11:18:15 | 情報と物質の科学哲学
生命体や複雑系などのシステムに於いて要素の機能には還元できない機能がシステムに備わることを創発といいます。

創発するシステムというと高度に複雑なものを連想しますが、当ブログで度々取り上げている検出器は、最も簡単な創発する機械になります。

その理由は、検出器が情報定義して出力する機械だからです。
このときの情報は、非物質的概念であり、検出器を構成するいかなる物質的要素の性質に還元することはできません。
つまり、この情報は検出器が創発するものなのです。

検出器を精密化すると測定器になるので、測定器も創発する機械になります。

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物理法則は神経回路を説明できるか?

2019-06-13 15:49:41 | 情報と物質の科学哲学
クオリアの伝道師茂木健一郎による『脳とクオリア-なぜ脳に心が生まれるのか-』、日経サイエンス(2001)から一部を引用します:

ニューロンが、どれほど複雑な構造とメカニズムを持とうとも、自然法則に従う物質に過ぎない以上、私たちのも、自然法則に従う自然の一部であると見なさなければならないのである。(太字指定は当ブログによるものです)

この主張によれば、脳回路そのものも当然物理法則で説明できる筈です。
しかし、これは明らかに間違いです。
何故なら、ヒトの誕生以降、脳回路の形成は周りの環境による影響を多大に受けます。
特に、幼児期から成人に至るまで多くのことを学習しますが、それは脳回路の形成に影響します。

脳回路の形成に関するHebbの学習則はあまりにも有名ですが、これは学習によって脳回路の物質的構造が変化することを証明しています。
つまり、学習という非物質的行為によって脳の物質的構造が変わるのです。

脳科学者でもあるクリックや茂木健一郎もこのことは十分承知している筈です。
それにも拘らず、彼らは心は脳回路という物質現象に還元できると言います。

(1)学習により脳回路の物質的構造が変化する(Hebbの学習則)。
(2)心は脳回路の現象に還元できるので、心を物理法則だけで説明できる。
これらを両立させることは不可能です。
何故なら、(1)には学習という非物質的概念があるからです。

クリックや茂木らが心の現象は脳回路の物質現象に関する物理法則だけで説明できると確信しているのは極めて不可解です。

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物理法則は人間を説明できるか?(続)

2019-06-13 09:03:14 | 情報と物質の科学哲学
自然界にあるすべてのものはヒトも含めて物質からできている。
物質に関わる現象は、すべて物理法則に従う。
故に、ヒトに関わる現象はすべて物理法則に従う。

唯物論者および物理還元主義者は、この説明で満足します。
クリックやペンローズ、クオリアの伝道師である茂木健一郎らは、心の現象もすべて物理学で説明できる筈だと主張しています。

ここで注意してほしいことがあります。
ヒトに関わる現象のうち物理法則で説明できるのは、ヒトの物質的側面だけだということです。
ニューロンの現象やヒトの行動も物理法則に反することはありません。

しかし、ここで話は終わりません。
ニューロンやヒトに関わる現象が物理法則に従うことは、必要条件であり十分条件ではありません。

不思議なことに唯物論者らは、この明白な事実に気が付いていません。
気が付いていても、そのことが問題になることはないと思っています。

さて、次のような場面を考えてみましょう。
一人の男性が歩いて横断歩道のところまで来ました。
歩行者用に信号が赤なので止まりました。

この男性の行動を物理法則だけで説明できるでしょうか?
説明できないことは自明です。
赤信号で止まるのは物理法則によるものではなく、交通規則によるものだからです。
この部分が男性の行動を説明するための十分条件になります。

唯物論者らは、この十分条件については無視します。
人間の行動が交通規則に従うのは、脳が交通規則を解釈して自分の行動を決めるように脳の神経回路が作られているためだと言います。

でも、そのように神経回路が作られるのは物理法則だけによるものではありません。
交通規則を認識して学習することも影響しています。
認識および学習という概念は、非物質的なものであり物理法則とは無関係です。

脳にこのような非物質的機能があるのは生物進化によるものであり、全くの偶然によるものです。

物理法則だけで説明できるのは自然現象に関するものに限られます。

電気モーターの現象は物理法則で完全に説明できますが、モーターそのものを物理法則で説明することは原理的に不可能です。
モーターの設計図は物理法則を参考にして作られますが、それは必要条件に過ぎません。
設計図は非物質的なものであり、物理法則によって生成されるものではありません。

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茂木健一郎『脳とクオリア-なぜ脳に心が生まれるのか-』について

2019-06-12 09:25:12 | 情報と物質の科学哲学
クオリアの伝道師茂木健一郎による『脳とクオリア-なぜ脳に心が生まれるのか-』、日経サイエンス(2001)から気になる箇所を引用します:

クオリアを神経細胞の活動から説明することが、心と脳の問題の核心である。
クオリアが、因果的自然法則と同様に、論理的な厳密性と反証可能性を満たす、自然法則の一部なのだ。
クオリアは、その原始的な属性を言葉では表せないという点にこそ最大の特徴がある。
クオリアの「内観的」定義:クオリアは、私たちの感覚のもつ、シンボルでは表すことのできない、ある原始的な質感である。
クオリアの情報処理の側面からの定義:クオリアは、脳の中で行われている情報処理の本質的な特性を表す概念である。
ニューロンが、どれほど複雑な構造とメカニズムを持とうとも、自然法則に従う物質に過ぎない以上、私たちのも、自然法則に従う自然の一部であると見なさなければならないのである。(太字指定は当ブログによるものです)
クオリア=認識の要素を構成する相互作用連結なニューロンの発火のパターン
クオリアは、発火のパターンである、というよりは、この発火のパターンそのものである。
(引用終わり)

同書は、クオリアに関連する話題を専門分野も含めて幅広く紹介しています。
心身問題や脳科学に関心ある人にお薦めします。

著者は、クオリアこそ認識の基礎であるという主張しています。
ペンローズのツイスターを用いて「新しい情報概念」の構想を述べていますが、残念ながらその具体的内容は未だに発表されていません。

先の引用によると、茂木健一郎は生粋の物理還元主義者あるいは唯物論者であることが分かります。

本ブログの一連の記事において情報概念は、原理的に物質的概念に還元できないことを証明してきました。
情報概念抽象的非物質的非客観的システム依存的であること間違いありません。
クオリア、意識、心に関わる現象をすべて物理法則で説明しようとするのは優秀な頭脳を浪費することになります。

クオリアは、進化論的にみると動物進化の早い時期に生じたものと思われます。
例えば、初めて嗅覚や触覚を持った時期です。
その段階では、ヒトの脳のような超複雑な神経回路はありません。
素朴な神経回路だったと推測できます。
そのような素朴は神経回路で生じるクオリアについて研究することが不可欠です。
その段階を飛ばしてヒトの超複雑な神経回路によるクオリアを説明することは研究手法として本末転倒ではないでしょうか。

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