情報と物質の科学哲学 情報と物質の関係から見える世界像

情報と物質の関係を分析し、心身問題、クオリア、時間の謎に迫ります。情報と物質の科学哲学を提唱。

もう一つのハードプロブレム 生命現象

2021-12-27 19:51:28 | 哲学
チャーマーズは哲学者にクオリアの謎というハードプロブレムを解けと言いました。
脳という物質からクオリアという神秘的なものが生じる理由を解き明かせというのです。

チャーマーズは、どうして物質から生命が生じるのかというハードプロブレムに言及しないのでしょうか。
この問題の方がクオリアより根源的ではないでしょうか。

脳と心に関心を持つ哲学者は、物質からなぜ生命が生じるという問題に対して答えていません。

物質から生命が生じるという問題より脳からクオリアが生じるという問題の方が遥かに難しい筈です。

生命の謎に答えていない哲学者がどうしてそれより遥かに難しいクオリアの謎に答えることが出来るのでしょうか。
本末転倒と言うべきです。

哲学者は、クオリアの謎より生命の謎に挑戦すべきです。
それを解決すれば、哲学者にもノーベル生物学賞が与えられるのです。


クオリアそのものの説明は原理的に不可能

2021-12-26 10:56:34 | 哲学
チャーマーズはクオリアというハードプロブレムに挑めと言います。

しかし、クオリアそのものを言葉で説明することは出来ません。
言葉で説明できないものを言葉で説明することは原理的に不可能です。

クオリアに関して説明できることは、せいぜい感覚野のどの部分を刺激するとどんなクオリア(例えば、”赤い”とか“痛い”)が生じるかということを被験者が報告するだけです。
このときの報告は、言葉によるものでありクオリアそのものの報告ではありません。

言葉に関して最も熟達している哲学者達がこれらのことに言及しないことは実に奇妙です。

チャーマーズの情報概念の問題点

2021-12-25 11:31:46 | 哲学
チャーマーズは『意識する心ー脳と精神の根本理論を求めて』の中で情報概念の重要性を指摘しています。

彼の情報概念は、シャノン流のものでビット表現できるものです。
様々な物理的あるいは心的対象に対して情報を付与できるとしています。
差異があるところには情報もあると言います。

例えば、サーモスタットや電灯のスイッチ、石ころなどに対しても情報を付与できるとしています。
このようにチャーマーズの情報概念は極めて観念的なものです。
哲学者が扱う情報概念としては意味があるのかもしれませんが、その情報概念と物質現象とを関連付けようとすると途端に意味不明なものになります。

至る所に情報があるとする彼の考えは、オッカムの剃刀にも反しています。

もし、チャーマーズが情報概念の重要性を説きたいのであれば、それがどのような新しい現象を予測できるのかを示す必要があります。
それが出来なければ、単に情報概念を弄んでいると取られても仕方ありません。

当ブログ主宰者は「物質現象に情報が関係している」と言える必要十分条件として
次の4条件が満たされているときに限ることを提案しています。

(1)物質現象として情報の定義と創発がなされている
(2)情報を表現する情報表現物質が生成されている
(3)情報の読取り機構がある
(4)読取り結果の利用がある

これらを情報概念の基本的要件と名付けています。
これは、情報概念の科学的定義と言えます。



サーモスタットに意識がある!?

2021-12-19 10:21:33 | 哲学
哲学者は、サーモスタットに意識があるかないかということについて真剣に議論しています。
例えば、チャーマーズの大著『意識する心ー脳と精神の根本理論を求めて』にも数ページにわたってこの議論を行っています。

その中で、”サーモスタットと脳には何の違いもない”と主張しています。
これは事実に反する暴論です。
何故なら、サーモスタットは機械であるのに対して脳は生命体だからです。
機械と生命体を同一視することは出来ません。

サーモスタットに関する現象は物理法則で完全に説明できますが、脳に関する現象は物理法則だけでは説明できません。

脳も物質なので物理法則だけで説明できるとする物理主義は、根本的に間違っています。
何故なら、物理主義はニューロンが情報を運んでいるという事実を説明できないからです。
情報概念は、物理学の対象ではありません。

哲学者たちは、よく前述のような暴論を吐きます。
彼らは、もともと議論好きな集団なので好き勝手な主張をし合って議論を楽しんでいます。

あらゆるものに心があると主張する汎心論もその類です。

哲学者が好き勝手な主張を科学の分野(例えば脳、人工知能、ロボット)で行うと、一般の人に混乱を与えます。


ゲーデルの狂気

2020-10-08 09:08:32 | 哲学
ピエール・カスー=ノゲス(新谷昌宏訳)
『ゲーデルの悪霊たちー論理学と狂気』、みすず書房 (2020.7)
という大著が発売されました。
ゲーデルは、不完全性定理を証明したことで有名です。
アリストテレス以来の偉大な論理学者と言われています。
1906年 チェコ生まれ
1930年 不完全性定理を証明
1940年 ヒトラーのユダヤ人排斥運動から逃れるためアメリカに移住
     プリンストン高等研究所に招かれる
1978年  死去(享年73歳)

著者ピエール・カスー=ノゲスは、パリ第8大学哲学教授です。
20個の書類箱に収められたゲーデル文書(ホテルの請求書など実にこまごまとしたメモも含む)を丹念に読み込み、探偵のようにゲーデルの心境を推理しています。
ところどころフィクションを挿入して面白い構成になっています。

以下、ゲーデルの狂気に関する部分を紹介します。

・毒を盛られることへの恐怖:
研究所に来てから哲学の研究に専念。そのため研究所が彼の仕事に満足していなくて、彼を排除しようとしていると思い込んでいた。ほとんど栄養を取らなくなり、死亡時の体重は31㎏。

・無限に小さな物体とそれらの自律的な生命への怖れ:
ライプニッツのモナドを信仰。一つの電子、1個の石にも諸所の体験を持っている。

・世界に偶然は存在しない:
神がすべてを決定している。政治的な出来事の持つ意味(因果関係)の解釈に専念。あらゆるものに一つの理由がある。

・脳は一種のチューリングマシンである:
人間の思考は、チューリングマシンによるものだ。

・幽霊の存在を実際に信じていた。

(読後感)
宇宙のあらゆるものが論理学に従っていると信じたためゲーデルは狂気の人のようになったのでしょうか。

アインシュタインがゲーデルと仲良しだったのは何故でしょうか。
ゲーデルが時間のない世界の可能性を一般相対性理論の枠組みで証明したからでしょうか。

宇宙のあらゆるものが体験を持っているとするゲーデルのモナドロジーは、一見すると汎心論と似ています。
しかし、両者は全く異質のものです。

ゲーデルのモナドロジーは、宇宙のすべてを決定する神への怖れから来たものです。
一方の汎心論は、単に心身問題を解決するために哲学者が苦し紛れに導入したものです。